宮藤官九郎さん、新作の舞台は“親バカ”がテーマ「僕自身、自分の子どものことになると冷静ではいられない」

脚本家・俳優・演出家として活躍する宮藤官九郎さん。脚本を手掛けた昨年のドラマ『不適切にもほどがある!』も大きな話題を呼びました。そんな売れっ子が“親バカ”をテーマに書き下ろし、演出・出演する舞台が11月に幕を開ける大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』。離婚を決めたミュージカル俳優(阿部サダヲさん)と演歌歌手(松たか子さん)の夫婦が、息子の親権を争う法廷ロックオペラです。ご自身も父親である宮藤さんに、作品のことや親バカにまつわるエピソード、理想の親像などについて伺いました。

▼あわせて読みたい
【特別カット集】売れっ子脚本家・演出家・俳優と多才な宮藤官九郎さん

新作の舞台では、子どもの可能性を信じて疑わない二人が親権を巡って泥試合を繰り広げます

――宮藤さん作・演出によるロックオペラ・シリーズ「大パルコ人」の4年ぶりの新作『雨の傍聴席、おんなは裸足…』。今夏の連続ドラマで10年ぶりに夫婦役を演じていた阿部さんと松さんをはじめ、今回も魅力的な顔ぶれです。

お二人の出演が決まったのは、こっちの方が先なんですけど、向こうは大石静さんの脚本ですし、僕のは離婚寸前の夫婦だし、きっとまったく違うものになるだろうなと思ってました。松さんは『メタルマクベス』(宮藤さんが脚色を手がけた2006年の劇団☆新感線作品)の歌声がすごく印象的だったので、いつか大パルコ人に出てほしいなと思っていました。阿部くんは、このシリーズに出るのは1作目(2009年『R2C2』)以来で、そんな二人の名前が打ち合わせで出た時に、パっと「法廷ものをやりたいな」と思ったんです。これまでの作品と全然違う感じになるし、「離婚裁判、いいじゃん」って。

法廷って、ちょっと舞台装置っぽいですよね。裁判官とか、みんな正面を向いていて、なんかステージっぽい。本当は静粛にしてなきゃいけない場所で、判事とか書記官が楽器を弾いて歌ったら面白いなと思って。見ず知らずの人も傍聴している前で、出来れば言われたくない秘密を暴かれたり、内緒にしておきたいことまでオープンにされる場だから。それが全部、歌の歌詞になっていたら面白いんじゃないかと。

――『雨の傍聴席、おんなは裸足…』というタイトルはどこから?

松さん演じる演歌歌手の持ち歌のタイトルです。好きな男の裁判を裸足で見に来た女……っていう内容の歌詞で、松さんに歌ってもらうんですけど、それ以上の意味をどうやって見つけようか、今考えているところです(笑)。夫の阿部くんはミュージカル俳優です。演歌もミュージカルも、表現方法が過剰というか、自然体では歌えないジャンルですよね。しかもコアな人にはすごく愛されているのに、知らない人にはそんなに知られていない。だから面白いかなと。

物語としては、演歌歌手とミュージカル俳優の夫婦が「自分たちの子だから、すごい才能を持っているに違いない」と期待して、子どもに音楽の英才教育を受けさせるんだけど、才能が全然開花しなくてイライラして……っていう話です。それでも子どもの可能性を信じて疑わない二人が、親権を巡って法廷で泥試合を繰り広げるという。子どものほうは、「この子は天才なんだ」「天才と天才の子どもだから、天才だろ」って最初に言われちゃったもんだから、期待に応えなきゃというプレッシャーで、何もできなくなっていくという。その鬱屈した憤まんを爆発させる役なので、銀杏BOYZの峯田和伸くんしかいないなと。

僕自身も親バカ、娘が1回「おいしい」と言ったものは買ってしまいますね

――親バカをテーマにした背景には、ご自身の経験も?

そうですね。僕自身、子どものことになると感情的になってしまって、奥さんと言い争いになってしまうことがあり。なんでなんだろう?って考えると、やっぱり自分の分身だから、冷静ではいられないんだな。親バカって、面白いなと思って。自分が子どものくせに、急に親にならなきゃいけなくなったり、本来向いてないのに親になっちゃった人は、きっとすごく大変だろうなと。僕もそうですけど。親バカになると思ってなかった人が親バカになるのを見たりすると、「あ、この人もか!」って親近感を覚えますね(笑)。

――ご自身が「親バカだな」と実感したエピソードを教えてください。

それは、いまだにいっぱいありますよ。社会人と大学生では、時間の感覚が違って当たり前なのに、娘に朝「えっ、1限あるんじゃないの?なんで寝てんの?」とか言っちゃったりします(笑)。自分も学生の頃は1限なんかダルいから出なかったくせに、どういうわけか子どもに対しては「なんでこんな時間に家にいるんだ」とか「起きるのか起きないのか、はっきりしろ」とか、気になっちゃうんですよね(笑)。放っておけばいいって、わかってはいるんですけど。
あと、買わなくていいゼリーとか買っちゃいますね。娘が1回「おいしい」って言っただけなのに、コンビニで目にすると「あ、これ」と思って買っちゃうんです。で、「食べてもいいし、食べなくてもいいし」みたいな感じで持って帰ると、娘に「太るからいらない」って言われるという(笑)。

――なんとも可愛いらしい。宮藤さんがお父さんだったら、毎日楽しそうです。

そんなことないと思います。最近「うちの娘は俺が父親で嫌だろうな」と思うことが多い。たとえば、街を歩いている時に娘の同級生とかに会っちゃったりすると、娘のところにすぐLINEが行くんです。「お父さんいたよ」って。ただ歩いていただけなのに(笑)。娘からしたら「知らねーよ、そんなの」って話だし、親が俺だから我慢しなきゃいけない。かなり面倒くさいだろうなと思います。そんな話、本人とはしませんけど、きっといいことよりも嫌なことの方が多いんだろうなと。

セリフにメロディをつけるだけじゃ気が済まない、ちゃんと流通している音楽のようにしたい

――そんな宮藤さんが書き下ろし、演出・出演し、作詞・演奏もする“親バカ”がテーマの法廷ロックオペラ、楽しみにしています。

頑張ります。ロックオペラと謳いながら、演奏専門のバンドやダンサーの方は入れずに、私たちが演奏します、踊ります、お芝居しますっていう形でやってきて、今回で5回目。その分やることが多いから、作っている時は本当にしんどい。しかも、セリフにただメロディをつけるだけじゃ気が済まない。Aメロ、Bメロ、サビみたいな、ちゃんと流通している音楽のようなクオリティを求めてしまう。舞台と関係なく、曲だけを聴いた人も「いい曲だな」って思えるようなものにしたいと無意識に思っているから、歌詞を書くにもすごい時間がかかっちゃって。お客さんにとってはどうでもいいルールを自分で勝手にいろいろ作っちゃったから、それも結構縛りになっているんですよね(笑)。

でも、本番は本当に楽しいです。毎回「終わんなきゃいいのに」っていうか、「ああ、この曲もう演奏しないんだな」って思うんですよ。三宅(弘城)さんみたいに1回目からずっと出ている人もいますけど、「毎回メンバーが変わる10人ちょいぐらいのバンド」というつもりでやってます。良くも悪くも、ほかではあまり観られないものを観てもらえるんじゃないかと思います。それが自分の中では基準になっている気がしますね。

【公演情報】大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』

2042年の東京。ミュージカル俳優の獅子童吠(阿部サダヲ)と演歌歌手の観音寺すみれ(松たか子)の離婚裁判は、発達障害を持つ天才音楽家かもしれない長男リッケン(峯田和伸)の親権を巡って泥沼化していた。次男のバッカー(黒崎煌代)は天真爛漫に成長し……。

作・演出/宮藤官九郎 音楽/上原子友康(怒髪天)/峯田和伸(銀杏BOYZ) 出演/阿部サダヲ 松たか子 峯田和伸 三宅弘城 荒川良々 黒崎煌代 少路勇作 よーかいくん 中井千聖 宮藤官九郎 藤井隆

2025年11月6日~30日/東京・PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)※9月27日よりチケット一般発売 12月に大阪、仙台公演あり

https://stage.parco.jp/program/okatai/

宮藤官九郎さんprofile

くどう・かんくろう/1970年、宮城県出身。91年より大人計画に参加。脚本家として2001年映画『GO』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞など多数の脚本賞を受賞。以降もドラマ『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』『季節のない街』『不適切にもほどがある!』など話題作の脚本を手掛ける。また、俳優として映画『こんにちは、母さん』『海辺へ行く道』などに出演のほか、TBSラジオ『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』でラジオパーソナリティを務め、パンクコントバンド「グループ魂」では“暴動”の名でギターを担当するなど幅広く活動。

ブラウス¥29,700/ル フィル パンツ¥29,700/ル フィル イヤリング、靴/スタイリスト私物
〈問い合わせ先〉ル フィル ニュウマン 新宿店☎03-6380-1960

撮影/沼尾翔平 スタイリスト/チヨ 取材・文/岡﨑 香

おすすめ記事はこちら

宮藤官九郎さん、リアルな父子関係「親バカになる必要はもうないのに、何かと媚びるようなことしちゃう」

阿部サダヲさん(54)仕事の幅が広がった40代「もう少し子どもと遊べば良かったなとも思います」

阿部サダヲさん(54)仕事の幅が広がった40代「もう少し子どもと遊べば良かったなとも思います」

STORY