宮藤官九郎さん、リアルな父子関係「親バカになる必要はもうないのに、何かと媚びるようなことしちゃう」

脚本家・俳優・演出家として活躍する宮藤官九郎さん。脚本を手掛けた昨年のドラマ『不適切にもほどがある!』も大きな話題を呼びました。そんな売れっ子が“親バカ”をテーマに書き下ろし、演出・出演する舞台が11月に幕を開ける大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』。離婚を決めたミュージカル俳優(阿部サダヲさん)と演歌歌手(松たか子さん)の夫婦が、息子の親権を争う法廷ロックオペラです。ご自身も父親である宮藤さんに、作品のことや親バカにまつわるエピソード、理想の親像などについて伺いました。
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毎回ベストなキャスティングで、これが最後だと思って出し切っています
――阿部サダヲさんと松たか子さんが離婚調停中の夫婦を演じ、法廷で親権をかけた歌とダンスと演奏の泥沼バトルが繰り広げられるという本作品。怒髪天の上原子友康さんが手掛ける音楽も楽しみです。
劇伴を専門で作る方じゃなくて、普段はバンドで曲を書いている現役のミュージシャンが音楽を手掛けるというのが、このシリーズの自分の中での決まりなんです。友康さんは引き出しが豊富で、メタルみたいな曲も得意だし演歌も書ける。演劇との親和性も高いので、3回目からずっとお願いしています。歌詞を書いている段階で「こういう曲調にしたい」と思ったものに関しては、参考曲をいくつか挙げています。「歌詞を読んだらこれになるってわかるよな」っていう曲に関しては、余計なことは言わずにお任せしています。
――2009年にスタートしたロックオペラ・シリーズも今回で5作品目。毎回「今回が最後」という気持ちで臨んでこられたとか。

やってる最中に「次どうしようかな」とか「次これやろう」とは思わないですね。やることが多すぎて、そんな余裕はないです(笑)。毎回これが最後だと思って出し切るというか、だからシリーズと言いながら、間が4年とか5年空いちゃうんでしょうね。常にその公演に対してベストのキャスティングでやれてきたことも大きいと思います。毎回「あの人がいればな」とか「この人、ちょっと違ったな」みたいなことがないから、欲が出ないというか、「これで最後でいいや」と思えるんですよね。今回なんか特にそうで、「これだけのメンバーが揃ったら、もう次はないだろう」と思いながら作ってます。
二人で飲んで、話す関係にはなりたいと思います
――今作のテーマは親バカとのこと。大学生の娘さんを持つ宮藤さんご自身は、どんな親子関係が理想ですか?
漫画家の山本直樹さんが、大人計画の舞台を娘さんと観に来た時に、終演後に一緒に飲みに行って、タクシーで一緒に帰ったことがあったんですね。その時、山本直樹さんが途中で「僕らここで降ります」と言って、娘さんともう1軒飲みに行ったんです。それは羨ましかった。俺も娘が成人したら二人で飲みに行ったりしたいなって。まだ実現できてないですけど。
――「こういう親でありたい」といった理想の親像はお持ちですか?
そういうのは特にないですね。うちの父親がちょっと変わった人だったから、昔は「こうはならないようにしよう」とは思ってましたけど。うちの父親は学校の先生だったからか、外面がよくて。なのに家に帰ってくると、全然面白くないんです。でも父親が死んでから、外でお酒を飲んでる時はとにかく愉快な人だったっていう話を聞いて、なんだよと思って。そういうところを家では見せないように使い分けていたんでしょうけど、それを知っていたら、僕の接し方もちょっと違ってたかもしれないなと思います。
――宮藤さんの価値基準は、あくまでも「面白いか、面白くないか」なのですね。
完全にそうですね。新しいものも好きです。「これ、誰もやってないな」っていうものに出合うと、やっぱりすごいなと思うし、今でも「こういうの、初めて見たな」と思うものに出合うと、人にすすめたくなります。
でも、それが娘にとってはウザいだろうなとも思ってます。そういう価値観を人に押し付けるのはよくないとわかってるのに、面白い動画とか映画を見つけると、すぐ娘に送っちゃうんです(笑)。「誰それの漫才、面白かった」って、YouTubeのリンクを送ったりして。で、スルーされるっていう(笑)。余計なことをしてるんだろうなと思います。そんなの、自分で見つけたいですよね。考えてみたら、親からYouTubeで「ニッポンの社長」のコントとか送られてきたら嫌ですよね(笑)。なんでそんなことしちゃうんだろう……たぶん、共有したいんですよね。
懐かしいけどもう戻れない、40代の時は「30代の時は……」って言ってました
――STORYのメイン読者層は40代なのですが、宮藤さんの40代はどんなものでしたか。

作品で言うと『あまちゃん』(2013年NHK)と大河ドラマ(『いだてん~東京オリムピック噺~』2019年NHK)の両方が入っているのが40代ですね。今思うと、めちゃくちゃ忙しかったというか、中身の濃い10年だった気がします。ちょうど、東日本大震災からコロナなんですよね。そう考えると世の中も変わったし、自分も変わったなと思います。40代は、今より元気だったし。……いや、そんなことないか(笑)。僕自身はそんなに変わってないです。っていうか、40代の時は「30代の時は……」って言ってたし、30代の時は「20代の時は……」って言ってたような気がするから、懐かしいけど、もう戻れないよなっていう感じですね。
――戻れるとしたら、戻りたいですか?
40代には戻りたいと思わないですね。20代とか30代には、ちょっと戻ってやり直したいところがあるけど、40代はそういうことが別にない気がするから。
そういえば、いま40代の人たちって、ちょうど中学生とか高校生だった頃に『池袋ウエストゲートパーク』(2000年TBS)を見ている世代なんですよ。よく「『池袋ウエストゲートパーク』見てました」って言われます。この間地方に行った時も、その世代の人たちに「写真撮ってください」って囲まれました。最近は、それを察知できるようになりましたね。この年齢層でこの雰囲気の人たちが来たら、絶対に囲まれるなって。
娘のことが心配ではあるけど、「好きなことをやってるんだから、いいか」って思います
――それだけ鮮烈な印象を与えたということですよね。いまや子育て世代となっている40代の皆さんに、先輩として一言お願いします。
いや、全然先輩ではないんですけど、子どもが成人して、少しずつまた自分のことに興味がいくようにはなりましたね。もう親バカにならなくてもいいじゃないですか。それが寂しくて、いまだに何かと媚びるようなことをしちゃうんですけど(笑)、たぶん娘はそのうち家を出ていくわけで、そうするとまた自分の興味があるものに気持ちが行くんだろうなと思います。それがもう始まっているんだなと。そう考えると、18歳で宮城を出て東京で一人暮らしを始めた俺のことを、うちの親はどう思っていたんだろう?
――相当心配されていたのではないかと思います。
ですよね。しかも俺、途中で大学に行かなくなっちゃったし、劇団に入っちゃったわけだし(笑)。心配じゃないわけないのに、よく何も言わなかったなと思います。まあ、何も言われなかったわけではないですけど(笑)、結局は「好きなことをやってるんだから」っていうことで、「まあいいか」って受け入れてくれたというか。
でも結局、僕も同じなんだろうな。娘のことが心配ではあるけど、「好きなことをやってるんだから、いいか」って思いますから。人間って、そういうことを繰り返しているんでしょうね。心配して、でも「好きなことをやってるんだから、いいか」って。
【公演情報】大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』

大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』
2042年の東京。ミュージカル俳優の獅子童吠(阿部サダヲ)と演歌歌手の観音寺すみれ(松たか子)の離婚裁判は、発達障害を持つ天才音楽家かもしれない長男リッケン(峯田和伸)の親権を巡って泥沼化していた。次男のバッカー(黒崎煌代)は天真爛漫に成長し……。
作・演出/宮藤官九郎 音楽/上原子友康(怒髪天)/峯田和伸(銀杏BOYZ) 出演/阿部サダヲ 松たか子 峯田和伸 三宅弘城 荒川良々 黒崎煌代 少路勇作 よーかいくん 中井千聖 宮藤官九郎 藤井隆
2025年11月6日~30日/東京・PARCO劇場(渋谷PARCO 8F) ※9月27日よりチケット一般発売 12月に大阪、仙台公演あり
https://stage.parco.jp/program/okatai/
宮藤官九郎さんprofile
くどう・かんくろう/1970年、宮城県出身。91年より大人計画に参加。脚本家として2001年映画『GO』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞など多数の脚本賞を受賞。以降もドラマ『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』『季節のない街』『不適切にもほどがある!』など話題作の脚本を手掛ける。また、俳優として映画『こんにちは、母さん』『海辺へ行く道』などに出演のほか、TBSラジオ『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』でラジオパーソナリティを務め、パンクコントバンド「グループ魂」では“暴動”の名でギターを担当するなど幅広く活動。
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〈問い合わせ先〉ル フィル ニュウマン 新宿店☎03-6380-1960
撮影/沼尾翔平 スタイリスト/チヨ 取材・文/岡﨑 香
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