不登校を経験した小説家・金原あゆみさん(41)学校だけでない社会とつながる熱中できる場所に、子どもは救われる

「学校へ行きたくない」、子どもの発したこの言葉に親は心配し、焦り、不安に苛まれるかもしれない。不登校は決して失敗ではなく、子が選んだ一つの選択。我が子が成長するための一歩と捉え、道を切り拓く姿を見守っていく。きっとそれは親の成長にもつながるはず。

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金原ひとみさん 小説家
41歳・東京都在住

学校だけではない社会とつながる
熱中できる場所に子どもは救われる

幼稚園にも学校にも楽しさを見出せず、周りの子どもに混じることに違和感を覚えていた金原さん。1日でも多く休むためにありとあらゆる理由をつけ、学校に行かせようと躍起になる母親と戦っていました。

「漠然とした生きづらさを感じていましたね。なんでこんな世界で生きていないといけないんだろう…と。今年、デビュー後20年で書いてきたほとんどのエッセイを収録したエッセイ集を出す予定で、書き下ろし分の1回目で幼少期のことを書いて思い出したんですが、子ども時代のことを思うと、十歳くらいのころ、学校の非常階段の上から下を見下ろし(ここから飛び降りたら全部終わる)…と泣いていた姿が甦るんです」。

母親に引きずられるように学校に連れて行かれることも。「私が学校に行かない、納得できる理由を常に探しているようでした。自分自身エイリアンなのではないかと本気で思っていた時期もありました。あまりにも人にできることが自分にはできなかったので」。

小4から完全に不登校に、そして小5で父親の海外転勤についていった時に転機が訪れます。「父から日本語を忘れないようにと渡された本の世界にのめり込むようになりました。小説の中では息ができて、小説の中では生きているのが辛くなかったんです」。

その頃から小説を書いていた金原さん。大学教授の父親に誘われ、中学生の時に小説創作ゼミにも参加しました。「読むのも書くのも同時期にスタートしたんです。書くことで、溺れそうになる足元を支えられる思いがしました」。

中学も数日、高校も数カ月で不登校に。ただその頃には交友関係が広がり生きやすくなっていったそう。「関わる人たちを自分で選べるようになって、ずいぶん居心地が良くなりました。家庭でも学校でも自分と合わない人の近くにいるのは苦しかったので。親は選べるものではないので、どんな親であったとしても生まれ持った呪いのようなものです。合わないなら物理的に、もしくは精神的にだけでも距離を置くことが大切だと思います」。

ある時父親に、〝子どもの頃が一番辛かった〟と話したところ、〝子どもが苦手な子どもっているんだよ〟と。「確かに子どもは誰かの庇護のもとにいて自由が奪われた状態で生きて行かなければならない。子どもにだってそれぞれの属性があるんだから、その状態が合わない人もいるはずだよな、と腑に落ちました」。

コロナ禍以降、不登校の子どもは増加。もし今、金原さんが学生だったら? と問うと…「学校は行かなかったでしょうね。私の時代にはなかったようなフリースクールなども今はきっと充実しているでしょうけれど、それも多分無理。割と無気力な状態で、ネットの世界に逃避していたかも? ただ、それでも、熱中できるものがあるってすごいことで…。どこにも居場所がない、どこにも求められていない状況の中で、そこが命綱になるのだと強く思います」。

高校2年生と中学1年生の娘の母でもある金原さん。「ふたりとも楽しそうに学校に通ってます。私と違って(笑)。でも、いつか嫌になる日が来るかもしれませんよね。何かしら自分の中のコップから溢れ出るように…ちょっとした嫌とか、ちょっとした無理の積み重ねで、受け入れられなくなってしまう時が。そういう変化が生じるということは、ある意味成長でもあるのでそこは祝福しつつ、その先の未来について相談に乗れたらいいなとは思います」。

今悩んでいる母たちに…「子どもに限らず、人というものは得てして自分でも自分のことがよくわかっていないものです。本人も周囲も焦らず、自分との付き合い方をゆっくり身につけていければいいと思います。子どもも千差万別だから、何が正解ということもない。好きなものや、嫌じゃないものとの関係の中で自分と世界とをつなげていければいい。人は常に変化していくものでもあるので、今だけに縛られないで欲しいとも思います」。

<編集後記>子どもの成長を見守り、静かに伴走できる親に…

「学校に行きたくない」そんな気持ちを学生時代に抱えた経験は私にも。ともすれば社会に馴染めない、不登校はNGというレッテル。金原さんの「自分の居場所のステージが変わった」成長の証しという勲章のような表現に勇気をもらいました。そう、確かに子どもは日々進化し成長しているのに、何を焦ってしまうのでしょうね、私たちは。(ライター 竹永久美子)

撮影/吉澤健太 取材/竹永久美子 撮影協力/Book&Garden カフェ 里葉 ※情報は2025年5月号掲載時のものです。

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