【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす⑤特別な日
朝一番、眠たさでぼーっとしながら今夜のウェディングの装花に使うロシアンオリーブの枝を切りに庭へ出る。久しぶりのウェディングの仕事。3月から新型ウイルスでずっと止まっていたのだが、ようやく制限もとれ、最善の注意を払いながら少しずつ開催されるようになってきた。
昨日は一日中準備に追われ、さすがにくたくたになったが仕上げにどうしても少し足したいと思ってこの枝を切りに出た。
シルバーリーフと言われる銀色がかった灰色の葉を持つこの木は、麦畑に近い庭の端にあり家を出て速足で歩いて行く。
自分のイメージする枝ぶりを探し、数本切り落として
さらにもう少し切ろうと後ろを振り向いた時・手が止まった。
隣の、朝陽に照らされた木々。
今日やらなければならないことで一杯だった頭が空っぽになり、何だか耳や目や皮膚や、全身で空気を吸っているだけのようにも感じた。
その新婦さんに初めて会ったのは約1年前。
会ってすぐ ウェディングのレセプションのテ-マは、イングリッシュガーデン、と、彼女の口から話しが出た。
話をしていくうちに、あっ、この人は自然がすごく好きな人、とピンときたのを覚えている。ボランティアで野鳥の保護活動をしたりしている人だ。初秋の柔らかい明るさの中で花が咲いている感じ。彼女の心の奥でその風景がはっきりと見えているのが分かったような気がした。
ウェディングの打ち合わせをする時、
いつもその人の普段の生活のことを聞き出したいと思う。
会話の端々に見え隠れするその人達の道のりみたいなものを感じ取ることは私にとって、とても大切なポイントになっている。淡々と過ぎていくであろう毎日が特別な日に必ずつながっていると思うからだ。
そしてその日の花はただ美しいだけでなく、それまでの日々に寄り添った花でなくてはならないと思う。
特別な日は誰かが旅立つお別れの場合もある。
その人らしい花がその場にあることで悲しみが和らいだり、最後のお別れの気持ちを皆で共感できるような花であることは本当にむずかしい。
以前、毎年、亡くなった小さなお子さんの命日にお墓に供えるお花を頼んでくれる方がいた。毎回そのお花について、お礼と短い感想が送られてきた。
一年に一度、そのご両親がお花を通して心の中にいるお子さんを見ているような文章だった。
日々のふとした場面で出会う花・植物たち。その力は本当に大きくてその時々の私達の生活に寄り添ってくれる。毎日の中に、特別な瞬間が実は詰まっているのかもしれない。
今朝のあの風景も私にとっての特別な瞬間だった。
ウェディングブーケを渡し、レセプションの飾りつけを終える。彼女が見ていた風景に通じるような花になっただろうかと今一度自問した。
文・西田啓子/ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/