【性教育ワーク連載vol21】「当たり前」を打ち破ろう!親子でいま話しておきたい「結婚」と「家族」のはなし
親子の15分性教育ワーク。今回は「結婚」と「家族」にまつわる「当たり前」について考えていきたいと思います。
「大人になったら結婚するのが当たり前」
「結婚したら子どもを持つのが当たり前」
結婚する人、しない人、パートナーの性別、子どもを持つかどうかなど、現実ではひとそれぞれ違っているのに、上にあげたような「当たり前」は結構根強いように感じています。
「結婚」や「家族」についての「当たり前」の価値観は、いま子ども達が使っている教科書の中にもよくみられます。
思春期になると異性に興味をもつ前提になっているし、登場する「家族」は、「お母さん、お父さん、子ども」であることが多いです。テレビで流れる有名なご長寿アニメの家族を想像してもらうと分かりやすいのですが、軒並み「当たり前」の価値観が盛り込まれています。
子ども達が「当たり前」の価値観を押し付けられることで、「そこから外れてはいけない」と思い込んだりするのではないか、もし「当たり前」から外れた時に「自分はダメなんだ」と悩むのではないかと、心配になります。
さらに厄介なのが、「当たり前」の価値観をもとに社会制度が作られてしまっていること。「選択的夫婦別姓」や「同性婚」が認められていないなど、問題は多いです。
今回のワークでは親子で一緒に「結婚」や「家族」にまつわる「当たり前」について考える内容になっています。
「結婚」「家族」についてのニュースを目にした時、誰かが「当たり前」の価値観をもとに発言した時など、色々な時にさしこめるワークなので是非やってみてください!
年末年始に帰省した時にもよく出てくる話題なので、この時期にやるのは丁度いいと思います。
今回の15分ワークのお題
①「当たり前」に盛大にツッコミをいれよう!
②もっと詳しく、「選択的夫婦別姓」と「同性婚」について
③参考サイト
①「当たり前」に盛大にツッコミをいれよう!
子どもと一緒に「当たり前」とされがちなものにツッコミをいれてください。たとえば、「大人になったら結婚して当たり前」に対しては、「結婚するかどうかは自分で決められる!」「結婚しなくても、一緒に暮らせる」というように「当たり前」を打ち破るようなツッコミが入れられるといいと思います。
その1「結婚したら子どもをもって当たり前」
ツッコミの例:「子どもを持つかどうかは本人が決めること!」
ツッコミのヒント:結婚することと、子どもを持つかどうかは別のはなし。結婚して子どもを持たない人もいるし、結婚して子どもを持つ人もいます。結婚しなくても赤ちゃんを産めるから、結婚しないで子どもを育てている人もいます、ほかの女性が生んだ赤ちゃんを養子にして育てている人もいます。
その2「結婚したら名字が同じで当たり前」
ツッコミの例:「名字は自分で選びたい!」
ツッコミのヒント:日本では結婚(法律上の婚姻)すると、夫になる人もしくは妻になる人が名字を変えることになっています。でも、このことで書類上手続き、仕事上の不都合などさまざまな理由で名字を変えたくない人がいます。世界のほとんどの国では妻と夫の間で別の名字か、一緒にするかを選べるようになっています(詳しくは②を参照)。
その3:「同じ性別の人同士は結婚出来なくて当たり前」
ツッコミの例:「結婚したいのに、結婚できないのはおかしい!」
ツッコミのヒント:結婚するかどうかは本人たちの自由ですが、それは異性のカップルの時のはなし。同性のカップルは、現在の日本では結婚ができません。一部の自治体にはパートナーシップ制度もありますが、結婚と同じ権利は得ることができません(詳しくは②を参照)。
その4:「どこの家族にも、お母さん、お父さん、子どもがいて当たり前」
ツッコミの例:「そうじゃなくて、いろんな家族がいるよね!」
ツッコミのヒント:お母さんとお父さんがいる人もいれば、どちらかだけの人もいたり、どちらもいない人もいたり、お母さんがふたり、お父さんがふたりという人もいます。お母さんやお父さんがいるけれど、いっしょにくらしていない人もいます。子どもがいない家族も、ひとりっこの家族も、子どもがたくさんいる家族もいます。
②もっと詳しく、「選択的夫婦別姓」と「同性婚」について
・選択的夫婦別姓について
結婚する時に、パートナー間で名字を一緒にするか、別にするか選べるのが「選択的夫婦別姓」という制度です。日本では結婚する際に、妻と夫どちらかの名字にすることを法律で強制していますが、こんな制度を続けているのは世界の中でなんと日本だけです。
経験した方も多数いると思いますが、名字を変える書類上の手続きは煩雑で、精神的に負担になることも、仕事で困難を抱えることもあります。私たち医師の世界でも、研究の成果は自分の名前が載っている論文で評価されますが、結婚して名字が変わることで評価として認められなくなってしまうことがあります。結婚後に自分の旧姓を通称名として使用することもできますが、正式な書類と名前がずれることから生じる困り事は本当に多いです。
婚姻届けを出さず、事実婚として一緒に過ごすことはできますが、配偶者控除がない、病院での面会や病状説明を受けられないことがある、法定相続人になれない、など法律婚(婚姻届けを出す結婚)とおなじ権利が得られません。
「家族で名字が違うと仲良くなれない」「親と名字が違うと子どもがかわいそう」などの意見も聞かれますが、選択的夫婦別姓を導入している世界中の国で、名字が原因でそんな事態はおきていません。
結婚することは「相手方の家に入る」「お嫁にいく」なんて呼ばれていましたが(いまも呼ぶ人がいるかも)、現在も結婚時に96%の女性が夫の名字に改姓していて、結婚時に姓を一緒にする現行の法律は女性差別ともつながっているように感じられます。
・同性婚について
世界の60か国以上で同性婚、あるいはパートナーシップ制度という、結婚と同じように認められるしくみがあります。
日本にも「パートナーシップ制度」がありますが、海外のものと名称が同一なだけで、保証される権利が全く違います。日本のパートナーシップ制度は都道府県あるいは市区町村が独自に規定したもので、法的なものではありません。パートナーシップ制度を利用することで公営住宅に入居することができたりはしますが、相続権がない、配偶者控除がない、子どもの共同親権が得られないなど、法律婚とおなじ権利が得られません。
「同性婚を認めると少子化につながる」という人もいますが、人が誰を好きになるのかは制度で変わるものではないし、どんな組み合わせのパートナーでも子どもを持つかどうかは自分で決める権利があります。
・なんで「選択的夫婦別姓」と「同性婚」は認められていないの?
与党が頑なに拒んでいるためです。世論的には賛成する人が多数で、「誰かが得をする」というよりも、「全員が平等に権利をえられる」仕組みのため、導入されないのが不思議です。
③参考サイト
・選択的夫婦別姓・全国陳情アクション
URL:https://chinjyo-action.com/
選択的夫婦別姓の早期実現に向けて活動している団体のサイト。仕組みの詳しい解説から、「子どもの姓はどうなるの?」「同性でないと、一緒にお墓にはいれないのでは?」など、色々な質問への回答がまとまっています。実現するために出来ることも具体的に紹介されています。
・MARRIAGE FOR ALL JAPAN 結婚の自由を全ての人に
URL:https://www.marriageforall.jp/
「性のあり方に関わらず、誰もが結婚する科しないかを自由に選択できる社会の実現を目指して活動(HPより引用)」している団体のサイト。同性婚の基本的なことから、今までの経過、憲法での解釈などがまとまっています。
おつかれさまでした!
次回は、来年の4月から接種できる種類が増える、HPVワクチンについてです。
〈次回へ続く〉
イラスト/ばばめぐみ ※イラストは書籍「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」(ほるぷ出版)から抜粋
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アクロストン
妻(みさと)・夫(たかお)であり、12歳、10歳の子を育てる親でもある、医師2人による性教育コンテンツ制作ユニット。
公立小の保健の授業や楽しく性について学べるワークショップを日本各地で開催。
家庭ではじめられる性教育のヒントや性に関する社会問題についてなどを発信している。
著書:「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」 (ほるぷ出版)、「3~9歳ではじめるアクロストン式 『赤ちゃんってどうやってできるの?』」、「いま、子どもに伝えたい性のQ&A 、思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになってるなんて!」(ともに主婦の友社)
監修:シールでぺたぺた「おうちせいきょういくえほん」(主婦の友社)