女優・奈緒さん「役者の仕事がなかった20代前半が、自分を見つめ直す機会で…」
発する言葉ひとつひとつが丁寧に選ばれていて、まるで美しい本を読んでいるかのようだった奈緒さんの取材。忙しい毎日の中でもきちんと自分に向き合って、流されず考える姿勢にハッとさせられました。短い時間でしたが心に残るインタビュー、ぜひみなさんにも届きますように!
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母に憧れて、早くから働きたいと思っていました
働く母の姿を見て子どもの頃から、カッコいいなと感じていて、私も早くから働きたいと思っていました。仕事があるということは、誰かに必要とされていることだから、母のように自分もそういう場所を見つけたい気持ちもあったんだと思います。母はずっと私に寂しい思いをさせているんじゃないかと心配していたから、「お母さんの働いている背中を見て、私も早く仕事したいって思ったんだよ」と伝えたときは安心した様子でしたが、この仕事には反対していました。役者の道に進むか、諦めるか、選択しなければならない局面で考えたのは、この先の人生で、自分がちゃんと自分として生きられて、人のせいにしない選択をしよう、ということ。母の反対を受け入れる選択肢もありましたが、ここで諦めてしまうと、後々の自分が後悔するかもしれないし、いつかその選択を誰かのせいにしてしまうかもしれない。そして何よりも、ここまで情熱をかけられる〝やりたいこと〞を手放しちゃいけない、と思い、初めて母に反抗して役者の道を選びました。誰かの意見に沿った方が茨の道にならなくても、それは自分を精神的に押し殺すことになってしまうから、何かを選択する場面では、自分を殺めてしまわない決断を大切にしています。
とはいえ仕事がなかった20代前半、自分を見つめ直す機会に
役者の道に進むことを決め、二十歳で上京。それまで地元・福岡で活動していて、その中で培った自信を握りしめて東京に来ましたが、上京当初はなかなか仕事がなく、人に求められていないのかも…と虚無感を抱いていました。でもその時間が「本当にこの仕事がしたいのかな」と、向き合うきっかけになったんです。ちょうどその頃に読んでいたリルケの『若き詩人への手紙』で、リルケが若い詩人に宛てた手紙の中に「もしもあなたが書くことを止められたら、死ななければならないのかどうか、自分自身に告白して下さい」という言葉があって、まるで当時の自分に問われているような気がして、強く印象に残りました。「この仕事じゃないと死ぬの?」と自分に問いかけたとき、本当にやりたいことに出合っていながら、それを押し殺して、挫折もせずに次に向かうことは果たして生きることなのかな、と改めて考えて、やっぱり今の自分の気持ちを殺めたくない、という気持ちが勝ったんです。同時に自分はまだ、もう限界だって思えるところまで全く到達していないと再認識。自分と対話することでお芝居をやりたい気持ちが、より強固になった瞬間でした。
さらにインタビューは後編へと続きます。
PROFILE・奈緒さん
1995年生まれ。福岡県出身。2013年ドラマ『めんたいぴりり』(TNC)で俳優デビュー。二十歳で単身上京し、2018年にはNHK連続テレビ小説『半分、青い。』に出演。以来、ドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)、映画『余命10年』など数多くの作品で活躍。舞台『恭しき娼婦』には、娼婦のリズィー役で出演。(6月4日~19日東京・紀伊國屋ホール、6月25、26日兵庫・兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール、6月30日愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホールで公演)
撮影/YUJI TAKEUCHI(BALLPARK) ヘアメーク/竹下あゆみ スタイリング/岡本純子 取材/坂本結香 再構成/Bravoworks.Inc