【中学受験⑲】一生モノの中高一貫校

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これまでのコラムで「中学受験」を行う上で、最も大切な「志望校選び」について語ってきました。

「教育は現場で行われている!」ので、実際にそこを見てみましょうということで、そのポイントをお伝えしてきましたが、今回は「せっかく行くのだから、これも見て来てね」という“オマケ”を語りたいと思います。


中高一貫校にお邪魔することが多い私ですが、実際に各校に伺うと、高確率で卒業生と思しき若者にお会いします。彼らは鳥で例えるならば、成鳥。卵の状態で学校を受験し、入学式で孵化。6年かけて大きくなり、卒業式で一斉に巣立っていくという図式です。

親鳥である先生方は、最初はセッセと雛たちに餌を運び、食べさせというお世話を細やかにやっております。学年が上がるにつれ、徐々に手を放し、自力で飛び回れるように飛行訓練を繰り返していくようになり、やがて巣立ちの日を迎えるわけです。この巣立った小鳥たちが元の巣に帰ってくることが中高一貫校ではとても多いのです。

コロナ前ですが、ある女子校さんで、新米ママたちが恩師に我が子をお披露目している姿に出会いました。赤ちゃんの周りに自然と輪が出来て、「初めて赤ちゃんを抱っこした!」と喜ぶ生徒さんたち。思わぬ「にわか子育て講座」になっていて、とても微笑ましい光景でした。

このように、どの学校であっても、人生の節目に母校に帰ってくる卒業生は沢山います。アクセスが良い学校であれば特に何の用事がなくとも「何となく」帰ってくる卒業生もいます。彼らに聞くと「古巣はホッとする」のだそうです。

ある20代の女性はこう教えてくれました。
「あの頃の校舎が、あの頃の机が、あの頃の先生たちが、当時と変わらぬ様子で自分を笑顔で迎えてくれる。飾らなくていい、虚勢を張らなくていい、そのままの自分でいいという空間に戻れると、なんか明日から、また頑張れるような気がするんですよね…」と。

私は自サイトで綴っております「学校訪問記」に過去、「OBOGの帰巣率」という数字を出していたことがあります。 「すごくいい印象だなぁ」と思う学校は、この帰巣率が高いような気がしています。

私学は基本的には、先生の入れ替えも少ないですし、そこにずっと立ち続けている存在ですので、巣立って尚「第2の実家」として心許せる場所になりやすいのだと思っています。

ある学校の先生は、これをこのように表現されました。
「人生にはいいことも悪いこともあります。もちろん、卒業生には幸多かれと願っていますが、そうでない時にこそ、フラッとやってきて、羽を休める場所でありたいものです。私学はその子と一生のお付き合いですから、その子の一生をめんどうみる気持ちでいないといけないですよね」

これらは「人生にとっての学び舎」という話ですが、現実問題、OBOGを活用している学校はとても多いです。例えば、こんな感じ。

・現役大学生をチューター(※下級生をフォローする上級生が務める役割)として迎える
・進路進学についての体験談を寄せてもらう
・就活についての話をしてもらう
・社会人となった卒業生から仕事について教えてもらう

特に進路についての話は重要でして、OBOGと現役生を積極的に繋いで、生徒の夢の実現に一役買ってもらう学校も沢山あります。

ある女子校では、社会人OGリストが存在しておりまして、生徒たちが進路に悩んだ時に直接、そのOGたちと連絡を取ることで助言を得ることができるシステムが当たり前のように機能しておりました。 社会で実際に活躍している先輩たちに、ダイレクトに相談できることは大きなメリットと言えるでしょう。

また、別の女子校では、最近、以下のようなお願いが20代から40代までのOGに向かって発信されました。「コロナの中なので昼休み中は黙食になる。その時間を有効活用したい。後輩たちのために動画を撮って、学校に送ってもらえないか」という主旨のものでした。今の仕事の内容や、中高時代にやっておいて良かったことなど、後輩たちへのメッセージを込めてくれとのことですが、反応してくれるOGは多いようです。

このように、特に私立中高一貫校は縦の繋がりを重視しています。

中高一貫校は6年間という青春時代を過ごすことで、横の繋がりも強固ですが、このように縦の繋がりも極めて濃くなることが特徴になります。

まだあどけなさが残る中1の子たちのアフターである高校生を見て、我が子の未来予想図を頭の中で描けることが中学受験のひとつのメリットですが、これプラス、更にその上の
卒業生たちの動向も注目してみて下さい。

もし、運良く、学校見学の際に彼らに出会ったならば、母校で過ごしたことの良さを聞いてみて下さいね。その話が学校選びの“決め手”になるかもしれません。

次回は9月25日にお会いしましょう。

鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト

2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。

その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。

ブログ:湘南オバちゃんクラブ https://note.com/torinko

Facebook: 鳥居りんこ: https://www.facebook.com/rinko.torii

構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香

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