知ってるようで知らない「トラッド」の歴史を、ファッションのプロに聞いてみたら…

「トラッド」と聞いて思い浮かぶものは人それぞれ。ジャケットやローファーなどのアイテム、アイビーやプレッピーなどのスタイル…。そんなわかりそうで実は知らない、「トラッド」とは何かについて、ユナイテッドアローズの栗野さんにお話を伺いました。

\今さら聞けないトラッドの歴史/

    「トラッド」と聞いて思い浮かぶ

    【1980年代】
    ’80年代後半からソフトトラッドやナチュラルトラッドが流行。ニュートラやハマトラよりも落ち着いた印象で、浅野ゆう子のスタイルがアイコン。この頃、アイビーを経た男子がミックス感のあるフレンチアイビーやイタカジに移行していく。

    「トラッド」と聞いて思い浮かぶ

    【1990年代】
    ’90年代になるとジャケットスタイルをベースに手頃なインポートブランドを取り入れたミックストラッドが流行し、バーニーズやユナイテッドアローズが提案。従来のニュートラよりもモードで洗練されたフレンチミックススタイルも人気に。

\トラッド用語解説/
【アイビーリーグ】
アメリカ北東部にある名門私立大学8校の総称。その学生たちが着ていたのがアイビールック。紺ブレ、ボタンダウンシャツ、コットンパンツ、ローファーが定番で、世界にも影響を与えた。

【VAN】
アイビールックを日本に持ち込み、流行を作り社会現象を巻き起こした、’60年代から’70年代に一世を風靡したメンズファッションブランド。VANのショッパーさえもステイタスだった。

【みゆき族】
’64年頃、VANのアイビールックで決めた若者たちが銀座のみゆき通りにたむろする、「みゆき族」というカルチャーが生まれた。女子は白ブラウス×ロングスカートといったニュートラ的なスタイルが主流になっていく。

【プレッピー】
アメリカの一流大学進学を目指す予備校生たちの俗称。シャツの裾を出し、裸足にローファーを履くなど、上質なアイビーを着崩した彼らの抜け感のあるスタイルが’70年代後半人気を博す。

【ハマトラ】
「横浜トラディショナル」の略。’70年代後半~’80年代前半に流行した横浜元町の女子大生発祥のトレンド。「フクゾー」の服、「ミハマ」の靴、「キタムラ」のバッグが3大アイコン。

ベースがあるから時代も世代も超えて同じスタイルを楽しめる

1989年にユナイテッドアローズ(以下UA)の創業に参画をしたのですが、BEAMSにいた約10年間、シルエットが細くなったり太くなったりといった変化はありましたが、基本のトラッドは変わらず在り続けました。1980年代にイタカジブームが起こったときも、アメカジからは移行していったものの、トラディショナルなスタイルはずっと生き残り続けたのです。
そのうちにフランス流の小洒落たひねりを効かせたフレンチアイビーや、UA立ち上げ最初のイタリア出張で見たクラシコイタリアに影響を受け、イギリスから渡ったものが違う生き残り方をしていることに、やっぱりトラディショナルスタイルは不滅なのだと確信しました。そうしてUAの基本スタイルは、クラシコイタリアを取り入れつつ、アメリカントラッド、ブリティッシュトラッド、それにフレンチ的なひねりを加えた形になっていったのです。
UAは創業当初からレディースも展開していますが、当時から日本の女子の制服カルチャーがファッションに大きく影響を与えていて、それが日本におけるレディーストラッドの流行のベースを作ったのは間違いないと思います。先シーズン、ミュウミュウのコレクションで登場した現代風プレッピールックも、日本のコギャルスタイルからインスピレーションを得たのかもしれません。
1980年代に「ソフトトラッド」という一大潮流があって、テレビドラマで浅野ゆう子さんが着た服が爆発的に売れました。ジャケットにロングスカートといった、かっちりしすぎていないけど品がある、そのスタイルが後のコンサバスタイルです。トラッドなしに今のコンサバはないと言えます。
1990年代以降、トラッドも自由度が高まり、現在は厳格なルールもありませんが、今でも多くの女性が定番的なアイテムを身に着け、年代を問わず同じような格好をしています。トラディショナルというベースがあるからこそ、年齢関係なく着られて今風の崩しも楽しめるのでしょうね。

\話してくれたのは…/

◼︎ユナイテッドアローズ 上級

◼︎ユナイテッドアローズ 上級顧問/クリエイティブディレクション担当
栗野宏文さん
1978年、BEAMSに入社し、店長、バイヤー、ディレクター等を経験後、1989年にユナイテッドアローズ創業に参画。常務取締役兼チーフクリエイティブオフィサーを務めた後、現職。LVMHプライズ外部審査員やアントワープ王立芸術アカデミーの卒業審査員を任され、数々の賞を受賞するなど、長きにわたり世界のファッション業界の第一線で活躍中。

イラスト/ユリコフカワヒロ 取材/宮沢裕貴子 再構成/Bravoworks.Inc