女優・中江有里さん「30代後半のひどい不調に比べれば、更年期のほうが楽かもしれません」
一生を女性ホルモンに左右される女性の人生は更年期だけではなく、様々な年代で不調があらわれることも。女優であり、歌手であり文筆家でもある中江有里さんは「30代後半の辛さに比べれば更年期のほうが楽かもしれません」と語ります。
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○ 中江有里さん(49歳・女優、作家、歌手)
1973年12月26日、大阪府生まれ。1989年、雑誌の美少女コンテストで入賞したことをきっかけに歌手・女優として活躍する一方で、2002年、ラジオドラマの懸賞に応募した脚本が入選。文筆家としての活動も開始。
不調続きだった40歳前後。
そこで学んだ心身との折り合いが
更年期を助けてくれています
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◇ 2度の子宮筋腫摘出と慢性化しためまいの病気。家から出られないほどの不調を経て自分のマニュアルが見えてきました
30代と40代前半、子宮筋腫を取る手術をしましたが、その際、筋腫を小さくするために女性ホルモンの分泌を止める偽閉経療法(*1)を試みました。そのときに経験したのがホットフラッシュや動悸などの擬似更年期症状。エストロゲンを無理やりストップさせるわけですから体の中が混乱したような状態で、とても調子が悪かったのを覚えています。
結局ホルモン治療は効果がなくて手術に至りましたが、今も筋腫は根絶することなく子宮の中にあります。今、私はいわゆる更年期世代の真っただ中。そろそろ自力で分泌される女性ホルモンも減りつつあるので婦人科の先生には「そのうち閉経もして自然と小さくなるから経過観察でいいでしょう」と言われています。
【*1・偽閉経療法】
女性ホルモン値を下げて閉経に近い状態をつくり、生理を止め、病変を縮小させることができる治療法。主に注射や点鼻薬が使われますが、エストロゲンの分泌を止めるため、更年期のような症状が起こることも。
筋腫の問題に加えて実は、突発性難聴を患ったことがあるせいか、慢性的に三半規管が弱くて、30代で頻繁にめまいが起こるように。良性発作性頭位めまい症に似た症状で、例えばステージから袖にはけて、急に暗闇に身を置いた瞬間不意にクラッとして天地左右がわからなくなったり耳鳴りがしたり。また気圧の変化で頭痛や眠気がひどくなったりすることも。
最初はなぜそんな症状が急に起こるのかわからず不安で、これまでの自分と変わったことを自覚しました。体調不良が起こるのが怖くて、外に出られなかった時期もあったほど。本来ならばまだ健康不安もなく元気なはずの30代で様々な不調と付き合わなければならなかった経験を経て「体は変化していくもの」「具合が悪くなっても受け入れて折り合っていくしかない」という境地に至ることができました。
その練習期間があったおかげで40代後半に訪れた、“体の中にカイロを抱えたような”ほてり(*2)などの更年期症状も「30代のひどい不調に比べたらまだいいほう」に感じられて、少し気楽に構えることができています。
【*2・ほてり】
体の内側が熱く感じられ、発熱したような感覚になることもありますが、熱を測ってみても平熱の場合が多く、戸惑うことも。多くみられるのは、突然胸のあたりから上半身にかけてカッと熱く感じられるというもの。同時に発汗や動悸を伴うことも多く、頻繁に感じるようなら婦人科を受診してみるのがお勧め。
— 中江有里さんは「いつか脚本を書きたい」という思いを抱き続け、2002年、ラジオドラマの懸賞に応募した脚本が入選し脚本家・小説家としても活動しています。また通信制大学で日本文学を学び直し、書評家としても引っ張りだこ。女優と文筆家というまさに二刀流の活躍の裏で長年にわたる体調不良と向き合う日々があり、ウイークポイントの三半規管のせいで「今も飛行機や新幹線などの移動には気を遣う」「美容院でのシャンプーは自分のタイミングで椅子を倒させてもらうようにしている」というから驚きです。
体調の変化というのはめまいなどの生活に支障が出るような決定的な症状ではなく、それまで使ってきたスキンケアラインが合わなくなるといったようなちょっとしたトラブルに予兆があります。ストレスなどの環境因子もあるかもしれませんが、元をたどればやはりホルモンバランスの変化によるものが大きいのではないでしょうか。
車にたとえると女性ホルモンはガソリンのようなもの。40代に入ると女性の体はガソリンメーターがどんどん減っていって、赤いエンプティランプが点滅し始める時期。車ならランプが示してくれますが、人の体にはランプがないので、ランプの点滅は自分自身で気づくしかありません。急にパタッと止まって動けなくなる手前でちゃんと対処できるように、常に自身の体調変化に敏感でいることが大事だと思います。
その点、私の場合は30代から予行演習していたようなものなので、実際の更年期に入るまで自身のマニュアルがかなり分厚くなっていましたね(笑)。天気がくだり坂で気圧が低くなって頭痛が起こりそうなら前もって頭痛薬を用意するなどの対応をしています。
また自分が夢中になれること、ルーティンでできることを複数用意してちょっとした逃げ場所を作っておくのもいいと思います。それは読書だったり音楽を聴くことだったり、観劇やあるいはリラクゼーションのサロンかもしれません。いざというときに逃げ込めるような、自分をチャージしたり癒したりできるようなパワースポットを確保しておくのはおすすめです。
私にとって元気を充電できる場所と言えばまず書店。紀伊國屋書店新宿本店はいつ訪れてもパワーがもらえる場所。昨年改装されて2階に新設されたブックサロンはソファもあり、座ってゆっくり本選びすることも可能。サロンの象徴となっているブッククロックはそのとき話題の12冊で構成され、見ているだけでも読書欲・知識欲が湧いてきます。
ほかには野球観戦も大好き。在京の阪神ファンなので神宮球場や横浜スタジアムによく足を運びます。勝敗やプレーも気にしますが、監督の采配や選手の皆さんがどんなふうに1年を通して自分を鍛え、コンディションを整え、パフォーマンスを発揮していくか、プロのプレーを支えるひとりひとりのストーリーを知ったり想像したりするのが楽しい。人って自分ひとりの人生しか生きられないけれど、世界にはたくさんの物語がある。多くの人生ドラマを目撃できる、同じ時代を生きているという実感が、自分を奮い立たせてくれるのです。
◇ 自分のいちばんの医者であり、監督は自分自身。いま患っている体の中にカイロを抱えたような「ほてり」も認めて受け入れていきたい
— 「人はみな、自分がいちばんの医者であり、監督であり、プロデューサー。だからみんなもっと自分自身に興味をもってよく知ってほしいし細かく大切に扱ってほしい」という中江さんの言葉には、人知れずいろんな不調と向き合ってきたからこその説得力があります。
10年以上、週に1回のピラティスを続けていますが、私にとってピラティスはメンテナンスツール。体をリセットするというか、本来の状態に戻すためのトレーニングです。日常生活の中で人間って無理な姿勢を取ったり、歪んだ体の使い方をしていたりして、よくないクセが出ているんです。それを元に戻してくれるのがピラティスです。歌う仕事もしている私にとって体のコアを使うこと、深い呼吸を学べることもメリット。2020年に27年ぶりに歌手活動を再開して、今は7月の単独ライブに向けて頑張っていますが、歌うことは私にとっては挑戦の連続。「歌っている姿を見るのがいちばん好き」と言ってくれた亡き母のためにも歌は大切に高みを目指したいと思います。
昨年末に49歳になりましたが、年齢を重ねることに悲観したり不安になったりはしていないんです。人間は不安を直視しては生きていけない生き物ですし、明日生きている保証なんて誰にもないですから、今日を精一杯やりきるしかない。もちろんもっと歳を取って老化を重ねるとどうなるんだろう? と戦々恐々としている部分も正直言ってないこともないですが、いくら考えてもしようがないこと(笑)。
今振り返ると私は30代から40代前半にかけてのほうがずっとしんどかった。あの時期を乗り越えられた、耐えられたのが大きな自信になっていますし、これから起きるかもしれない自分の体の不具合に向き合う支えになっている気がします。1日たりとも同じ日がない日常を慈しみながら今できることを積み重ねていった先に楽しい人生が出来上がっているのではないでしょうか。
<TOP画像>ジレ¥35,200(yori)ブラウス¥18,700(ジャスグリッティー/ジャスグリッティー プレスルーム)パンツ¥6,990(アンフィーロ)靴¥16,500(ダイアナ/ダイアナ 銀座本店)ピアス¥7,700リング¥8,800(ともにSTELLAR HOLLYWOOD)
撮影/田頭拓人 ヘア・メーク/丸山智美 取材/柏崎恵理 撮影協力/紀伊國屋書店新宿本店、JZ Brat SOUND OF TOKYO ※情報は2023年6月号掲載時のものです。
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