【中学受験】息子を怒ってばかりいる夫が気になります
ここ数年、1都3県の中学受験者は前年度を超えています。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、導火線の短い夫の中学受験への関わり方に悩んでいるお母様からのご相談です。
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【今月の質問】
導火線の短い夫の中学受験への関わり方に悩んでいます
[受験進路相談室]
Mさんの場合
【家族構成】
夫、長男(小5)、次男(5歳)
【今回相談する子どもの状況】
週5日時短パートをしながら最近起業をして、日々仕事に育児に奮闘しています。仕事のお付き合いなどで土日に家をあけることが増えてきて、以前のように長時間、息子をフォローすることが難しくなってきました。
夫は中学受験を応援したいと言っており、宿題を見たり教えたりするまではいかないですが、私が外出の際の宿題管理などをお願いしようと思っています。しかし、夫の子ども達への接し方がなかなか厳しく、例えばテストの点数を見て「なぜこんな点数なのだ」と過剰とも思えるほど叱責するなど、任せると大喧嘩になることが多いです。とはいえ、夫の手も借りないと家庭が回らない状況なのは確かで… 中学受験期、どのように夫に関わってもらえばよいでしょうか?
ジェンダーバイアスが強い家庭ほどお父さんが暴走しちゃうんじゃないかって仮説を私は持っています。子どもが男の子ならなおさら。
M(相談者):お聞きしたいのは夫への関わり方です。昔から仕事が忙しくて、子どもと触れ合う時間がほとんどありません。男の子だから強くあってほしいとか、無理してでも頑張ってほしいとか、将来的には自立して生活してほしいというのがあるようでして、それを息子ができていないと結構キツく言ってしまうことがあるんです。ただでさえ短い一緒にいる時間の6割くらい怒ってて、結構大変です(苦笑)。
オ(おおたさん):大変というのは?
M:導火線が短いというか、待っていられなくて。
オ:お父さんが怒りん坊なのをどうしたらいいかってことですかね?
M:もうちょっと長い目で見てほしいんです。言ったところで子どもってそんなに変わらないですよね。息子も頑張ってますし、以前に比べたら、夫の導火線も少しずつ長くはなってるかなって感触はあるんですけど、点数を見ちゃうと「あぁ!」ってなっちゃうみたいで。動揺しちゃうんですよね。ちなみに成績はあまりというか、かなり良くないんですね。それでもちょっとずつ上がってきてはいます。
オ:息子さんのストレスの度合いは、お母さんから見てどんな感じですか?
M:今はちょっと落ち着いてるかなと思います。2カ月くらい前に私がすごく忙しい時期があって、その時は精神的に荒んでるなという感じがありました。私が土日も仕事で出ていたので、相対的に怒られている量が多かったのかもしれないですね。
オ:お父さんの怒りはどうやって収束していくんですか?
M:「もういい!」って言って自分からどっかに行っちゃって。パッと怒るけどすぐに直るので、「ごめんねぇ」みたいな。
オ:グチグチ怒るようだとちょっと厄介だけど、お父さんもそんな自分を自覚しているのかしらね。
M:変な話、怒っても息子は聞かないので、長く怒っても無駄といえば無駄なんですよね。その感覚を夫も摑んできたのかなって。でも、あまりにも怒りすぎなんじゃないの?という時もあって、もう少し上手く関われたら受験も普段の生活も上手くいくのかなって。
オ:それをお母さんの口から直接お父さんに言ったりは?
M:落ち着いた時に言うことはあります。
オ:その時のお父さんのリアクションはどんな感じ?
M:あまり聞いてくれないですね。男の子だから叱らなきゃって。成績よりも、勉強しない態度とか、約束を守れないことを叱ってるんだって言ってます。
オ:怒っちゃう大人が必ずする言い訳ですよね。
M:そうですね。
オ:約束っていっても言質を取られてるだけだから、それで責めるのもまだ10歳の子には厳しいと思うし、一生懸命やるっていう態度だって、高校生になったってなかなかできないじゃないですか。具体的にどう伝えるかわからないけど、それを怒りの免罪符にするなよっていうのを伝える方法をあの手この手で試してみるといいのかなというのが一つ。あと、もっと気になったのが、今日のお話の中で「男の子だから」っていうのが何度か出ているじゃないですか。それはどういうことですかね?
M:夫はそういうふうに言うんですよね。どういう意味なんですかね。強くあるとか、弱音を吐かないとかそういうことだと思うんですけど。
オ:いわゆるジェンダーバイアスですよね。昨今中学受験で暴走するお父さんって話題になりやすいじゃないですか。多分、暴走するお母さんの方が圧倒的に多いと思うんですけど、お父さんが教育のことで怒ってると目立つ。「子育てに熱心になっちゃうのは普通母親でしょ」っていうバイアスがあるから。一方で、ジェンダーバイアスが強い家庭ほどお父さんが暴走しちゃうんじゃないかって仮説を私は持っています。子どもが男の子ならなおさら。ジェンダーバイアスが強い男性の場合、自分が競争に勝ち続けなければいけない、弱音を吐いちゃいけないなどと思い込んで、その分、強いプレッシャーを感じているから、それを息子へ投影してしまいやすいんじゃないかなと。でもお母さんの話を聞いていると、お母さんからお父さんに過度にジェンダーロールを求めているようには見えないですよね。お仕事もしているし。
M:そうですね。今は昼間はパートをしながら個人事業主としてもやっていて。
オ:妻の収入が自分よりも多いことが許せない男性というのもときどきいるみたいなんですけど、その傾向は大丈夫そう?
M:年収で逆転することはないですし、仮に逆転することがあったら大変なことになりそうなので(笑)。我が家の場合は私が家庭に時間を使うこの状態で10年以上やってきたので、子どもが独立するまでは難しいのかなって。
オ:ちょっと意地悪な分析になっちゃうかもしれないけど、お母さんもどこかで私が一歩引いてなきゃいけないなっていう意識がありそうですね。
やっぱり根本はお父さんが男であることに対して過度に責任を感じてるっていうことなんじゃないかなと思うんですよね
M:今、お話をしていて思い出しましたが、考えてみたら、私の父も男尊女卑的でした。母はそういうタイプではないのに、父に合わせていました。
オ:となると、やっぱり根本はお父さんが男であることに対して過度に責任を感じてるっていうことなんじゃないかなと思うんですよね。
M:それってどうしたらいいんですかね。
オ:なかなか変わらないですよねぇ。意識的に女性差別する人なんてめったにいないけど、やっぱりどこかにバイアスを持っているわけで。
M:私が土日いなかった時とかはママ友と息子を遊ばせたりはするので、一見フラットそうなんですけど、根っこの部分では頑張らなきゃいけないって思ってるのかも。
オ:どこかの研究で、ジェンダーバイアスが強くて競争心が強い男ほど育児家事に積極的になるっていうデータがあるんですよ。なぜかというと、いまやそれも、男を査定する一つの基準になってるから。もしかしたらそのパターンかもしれないですね。
M:それはありそうですね。友達とかに褒められるじゃないですか。そうすると気分がいいって。
オ:なるほど。そもそもお母さんとしては、中学受験のフォローを夫にもしてほしいっていう気持ちはあるんですか?
M:そんなにないですけど、怒らないでっていうことですね。
オ:うーん、どうしたもんかしらねぇ。夫婦であったとしても、基本的に他人を変えることはできないし……。
M:夫を否定してしまえば楽というか、簡単な道だなとは思うんですけど。それは家族なので違うなって思っていて。パパのあの行動はお父さんとしては良くないし、あなたは頑張ってると思うし、でも私はパパもあなたも大好きよとは息子に伝えているんです。
オ:それは素晴らしいですね。小手先のテクニックとしては、お父さんが怒っちゃった時に「怒らないで!」って言うんじゃなくて、悪い成績を見ても怒らなかった時に「今のリアクション、ナイス!」って言ってあげるといいかもしれません。心理学では「例外場面」っていうんですけど。そっちに注目してあげると本人の意識が変わることがある。でも一方で、強固なジェンダーバイアスが根本的な問題ですよね。
M:男の子だからっていう時代でもないでしょって言ったら、「いや、でも、まぁ……」みたいな。こんなに思っていることが違うなんてびっくりで、中学受験を通して親の考えも炙り出されるというか、それもひっくるめて受験だと思ってやっていくつもりではあるんです。
オ:多分、お父さん自身が苦しいんだと思うんですね。そこで弱音を吐かずに歯を食いしばってこそ男だって思っちゃってるから。うーん、どうしたらいいんだろう? えー、わかんないなぁ……。
M:もしかしたら、私が仕事や子育てで忙しくて二人の時間が取れてないのかも! 本来はすっごい愚痴を言う人なんですよ。喋り出すと1時間くらい止まらなくて。それを私が聞けてないのかなって。それがじわじわ溜まってきてるのかもしれないですね。お話ししながら、はっと気づきました。
オ:抑圧されたものが子どもに向かわなくなるはずだから、緩衝材になるのはすごく正しい作戦ですよね。妻にも弱音を吐けない夫は多いけど、そうじゃないんですね。
M:昔は全然話さなかったんですけど、話し方が面白いんで、面白がって聞いていたら、だんだん話すようになってくれて。
オ:それは良かった。そんな糸口があるとは! お母さんの受け止める力がすごいんですね。
M:考えてみたら、ここ2年くらいは夫婦でちゃんと話せてないかもしれないですね。
オ:ちょっと時間に余裕がある時に、「話していいんだよ」っていうサインを送ってあげるとすごい喜んで話してくれるかもしれないですね。「そうなんだ、そんなに頑張ってくれてたんだ」ってリアクションして、その中にサラッと、「息子も頑張ってるじゃない?」って織り交ぜるみたいなね。そういうことができたら少しずつ変わるかもしれないですよね。
M:やってみます。
オ:起業して、息子さんの受験も見て、お父さんを励ますってちょっとお母さんに負荷がかかりすぎじゃないかなと思いますけど(笑)。
M:一日9時間くらい寝ているので大丈夫です。やってないこともたくさんありますけど。
オ:その優先順位がつけられることがすごいです。あとは、家事みたいな部分でお父さんに任せられることは任せるとか。それもジェンダーバイアスを緩めることにつながると思うので。お父さんの導火線は短いままだとしても、男の子なんだからって言わなくなったら、それだけでもすごい変化ですよ。夫婦ともに、いまが、ジェンダーに関するとらえ方を変化させていく転換点なのかもしれないですね。
M:もっと受験テクニック的な話になるかと思っていたんですけど、私にとっては目から鱗のお話でした。中学受験って人生の3年間ですけど、その3年間だけじゃなくて、家族みんなの人生全体に影響するっていうことなんでしょうね。
オ:そういうふうにとらえてくれると、私としてもとても嬉しいです。
お父さんのジェンダーバイアスが強いという課題がわかったのは、中学受験で得られたご家族の収穫だと思います。お母さんの側に、それをすんなりと受け入れてしまう下地もあった。これは受験が終わるまでには解決しない課題かもしれないけど、ご家族にとっての大きなテーマとして取り組まなければならないことなのだろうという気がします。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/
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