小島慶子さん、診断好きな私たち。『参考にするのはいいけど、決めつけには御用心』

エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「星占い、性格診断……あらゆる診断」について。

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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、一昨年から10年ぶりの日本定住生活に。

『参考にするのはいいけど、決めつけには御用心』

お医者さんは苦手だけど、星占いは好きという人も多いでしょう。人は診断されたいのです。自分がこういう人間なのは努力や心がけとは関係なく、生まれた時の星の配置で決まっているのだ! と思えば、気が楽です。「あなたは気が強い」と言われるのと「あなたは獅子座なので気が強い」と言われるのでは印象が違いますね。前者は文脈によっては「性格に難あり」と言われている気もしますが、後者だと「まあしょうがないよね、百獣の王ライオンだから!」とむしろ誇らしいような気にさえなるのが不思議。星占いでも性格診断でも、楽しく都合よく解釈すれば、前向きに生きていく助けになります。

一方で、冷めた視線を忘れずにいることも大事です。毎度診断結果に振り回されて思い悩み、他人のことまで勝手に診断したりして決めつけると、人生がややこしくなります。診断結果が自分にとってめちゃくちゃ納得のいく内容だったとしても(たいていの人がそう思うように工夫して書かれているものなのです)、あくまでも参考に。だって、生身の人間ってとんでもなく複雑な存在ですから。

私は41歳の時に、思いがけない診断を受けました。診断名は、発達障害のひとつであるADHD(注意欠如・多動症)。次男を出産した33歳の時に不安障害というメンタルの病気になって以来、しんどい時はかかりつけの精神科医のカウンセリングを受けていました。その主治医の先生は発達障害がご専門でもあったため、長年の診察を通じて私のADHDの特性に気がついてくださったのです。自分の脳の特性に診断名がついていると知って、へええええ! と霧が晴れたような気持ちでした。仕組みがわかるって面白い。人体って、生命ってすごい。自分の長年のいろんな困りごとには脳の特性が影響している面があり、発達障害は日々研究が進んでいて対処法もあるのだと知って、なんだか脳みそが世界とつながったような気がしたのでした。

発達障害にはADHD(注意欠如・多動症)の他にASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などがあります。聞いたことのある人は多いでしょう。発達障害の特性のある人はそれらのいくつかを併せ持つことも珍しくなく、特性の強弱や困りごとも人によって、あるいは成長段階や生活環境によっても異なります。「発達障害のある人ってこんな人」という典型はないのです。あえていうなら「困りごとのある人」かな。

人にはいろんな困りごとがありますね。障害で困っている人もいれば、病気で困っている人も、経済的困窮や社会的孤立、あるいは家族関係や外国での生活などで困り苦しんでいる人はたくさんいます。私の場合は、生きる上での困りごとにADHDという脳の特性が影響している面「も」あるということです。

なんでそんなまどろっこしい言い方をするかというと、主治医とこんなやりとりをしたから。

「先生、私、診断名がついてから、ちょっと失敗するとああやっぱりADHDだから! こんな脳みそいらない! と落ち込んじゃうんです……」
「慶子さん、人間はとても複雑な存在なんですよ。人を形作っているのは、生まれながらの気質や体質、育った環境、家族や友人、仕事の調子、その日の天気や今朝食べたものなど、実にいろんなものなのです。慶子さんのすべてがADHDではない。人生のすべてがADHDで説明できるような単純なものではありません。複雑な存在である慶子さんの一部に、たまたまADHDもあるということなのですよ」
「なるほど、確かに!!」

先生の言葉で、私はとっても気が楽になったのでした。診断名は、人間を色付けするためにあるのではありません。誰がまともで誰がまともでないかを識別するためのものでもありません。診断名は、困っている人の困りごとを軽減するための方策としてあるのです。必要な支援につながりやすくし、対処法の選択肢を増やすためのもの。私はつい「今日から私はADHDの人だ」と自分を一面的に捉えるようになってしまったのですね。

出かける時にスマホを忘れたのは寝不足だったからかもしれないし、ADHDの特性とされる注意欠如の特性が影響したのかもしれないし、その両方かもしれないし特に理由はないのかもしれない。なのに「ああやっぱり! 私はADHDだから失敗するんだ、きっと一生こうなんだ!」と自分を責めてしまう。認知が歪んでいます。どうでしょう。あなたは自身や他人をそんなふうに一つの名称で決めつけちゃうこと、ないですか。獅子座だから、B型だから、外国人だから、障害者だからなどと。

人間は複雑な存在。あなたも私もいろーんな要素が絡み合って出来上がっています。スッキリ説明して、きっちり分類することなんてできません。自分の特性に診断名がついたおかげで、私は風変わりな人に出会った時にこう考えるようになりました。「もしかしたら、この人にも何か困りごとがあるのかもしれないな」と。変なヤツと決めつけるよりも、この世が親しみの持てる場所に感じられます。ぜひやってみてね。

文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2025年11月号掲載時のものです。

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