小学生から17歳が投票する「こども選挙」って?大人たちも変化するきっかけに
「子どももいるのだし、もっと政治に参加しなきゃ」と親たちはついつい気負ってしまいがち。茅ヶ崎で2022年にスタートした「こども選挙」を通して子どもたちのシンプルな意見に触れ、周りの大人たちにも変化があったようで…?政治をもう一度考えるヒントがありそうです!
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ママがこども選挙に参加してみたら
「こども選挙」って?
池田美砂子さん、一彦さん含めた有志が発起人となり、2022年10月30日の茅ヶ崎市長選挙と同時に「ちがさきこども選挙」を開催。茅ヶ崎在住のすべてのこどもたち(小学生~17歳)に投票権があり、投票数566、候補者へのメッセージ総数359で、開票結果とともに各候補者へ届けられました。選挙当日は、有志の子ども自身が投票所を運営。ノウハウはオープンソースとなっており、2025年現在で茅ヶ崎以外の15自治体で「こども選挙」が開催されています。
「どんな暮らしがしたい?」
子どもの声がヒントになる
ー「こども選挙」は現在、15の地域に広がったとうかがいました。始めたきっかけは?
池田美砂子さん(以下美砂子):コロナ禍の2021年、ママ友パパ友と子どもの主体性を大切にした取り組みが何かできないかなと考えて始まりました。街をフィールドにすることを想定していたものの元々政治に興味があったわけではなくて。でも誰かが選挙はどうだろうと提案して、面白いねって。
池田一彦さん(以下一彦):やりながら気づきましたが、結果として選挙という題材はすごくよかった。自分の街をよくしたいというシチズンシップは、大人だって普段あまり持てていないものですよね。でも一人一人本当は世界を変えられる一票を持っていて、自分が何かを変えられる・声は届くという実体験を、子どもと一緒にすることで、主体性を育てる、より大きなきっかけになるんじゃないかと思いました。
美砂子:こども選挙では本物の投票箱と台を使ったんです。「子どもも大人と同様、一人の市民で尊重される存在」と、言葉で言われても実感する場はなかなかないですが、一人前の人として扱われるという実感があったようです。曖昧な知識では選べないと真剣に悩む子や、大人だけ選挙していてずるい!と、言ってくれる子も。
一彦:子どもは普段から、大人より選挙ポスターを見ていたりしますよね。公教育では架空の候補者で模擬投票をやることもありますが、中身についてもっとリアルに学びを提供できればと思い、選挙と同時開催・本物の候補者にこだわりました。
ー選挙や政治の話は、リアルな人間関係でしづらいと感じることも多いですよね。大変なことも多かったのでは?
美砂子:選挙は街に関わることであり、至極当たり前のことなんですけどね。想像以上にアレルギーがあるなと思いました。ポスターの掲示を商店にお願いしに行っても、「選挙なんておっかない」と言われたり、大企業では内容にかかわらず「選挙」とつくポスターの掲示はNGだったり。学校での開催も実現には至りませんでした。社会の風潮として選挙や政治を語りにくいんだなとあらためて実感しましたね。
ーそもそも未成年だと選挙運動をしてはいけないんですよね。
一彦:我々もやり始めてから知り、「え〜!」となりました。それでいきなり18歳になって投票に行こうと思えるわけがないと個人的には思います。公職選挙法に違反しないよう、特定の候補者を応援していると思われないように投票が終わるまで誰に入れたかを言わないようにとアナウンスし、気をつけながら行いました。でも本来、親子間で誰に投票したよ、なんで?と会話が生まれる方が健全だし、街について考えるきっかけになりそうですよね。公選法は時代とともに変わった方がいいのかもねとチームでも話していました。
美砂子:子どもってすごくて、「誰に投票したか言ってはダメだよ」と言うとちゃんと守ってくれるんです。子どもは大人が守るべき存在、と思いすぎるあまり、結果として子ども扱いするし、いつまでも保護して教える対象でしかないと思ってしまうんですよね。
一彦:候補者への質問も、子どもたちで考えたのに、「大人が言わせたんじゃないか」とか、「子どもを使って政治的活動を行っているのでは」と思われることもありました。
ー自治体の教育委員会と協働して、こども選挙を実施したところもあるとうかがいました。
一彦:長崎県壱岐市の教育委員会とは初めて連携ができました。
美砂子:子どもたちからは、とてもいい声をいただいています。「大人になっても絶対選挙に行く」とか、「こんなに楽しいんだ」とか。選んだ理由を真剣に書いてくれているのを見たときは感動しましたし。
一彦:子どもの姿を見て、正直、大人が主権者教育をされて変わったんじゃないかと思います。街の課題について学ぶきっかけになったり、ボランティアに参加したサラリーマンと主婦がその後出馬して市議になった例も。サラリーマンの方は市議を副業として正社員を続けています。選挙で票を集めることに縋り付かなくてもいいように、二足のわらじを履くのもアリなのでは、と感じてしまうこともありますね。
ー自分の街でもやりたい場合、費用はどれくらいかかるのでしょうか?
一彦:かかるのはほとんどが人件費です。茅ヶ崎の場合はデザインやwebができる人がボランティアに加わってくれて、かかったのは印刷代10万円くらい。茅ヶ崎で使ったデザインやノウハウはオープンソースにして、ロゴ等も開放しています。印刷実費とボランティアで十分回せると思います。
美砂子:今の子どもたちは基本的に、家族と学校、習いごとだけのある種、特殊な空間に生きています。子どもだからと社会から切り離さず、街や違う世代の人と触れ合う機会を多く作れれば、興味や主体性を育てるきっかけになるのではないかな、と実感しています。
開催してみた
●想像以上に、選挙や政治を語りにくい風潮があると実感
こども選挙発起人 池田美砂子さん
ライター・エディター。一彦さんとともに株式会社beを創業、茅ヶ崎でコワーキング&ライブラリー「Cの辺り」運営。
●子どもの姿を見て、大人がシチズンシップに気づけた
こども選挙発起人 池田一彦さん
アサツーDK、電通と複数の広告代理店を経て2021年より株式会社be代表。6年生と1年生の父。
こどもが参加してみた
こどもが参加してみた
●この人が私たちの街をよくする人なんだなと当選者を見るように
こども選挙を通じて市議会議員の方に直接話す機会があり、子どもの意見を知ってもらえてすごく嬉しかったです。これまではただ親が投票しているのを眺めているだけだったけど、子どももこれから将来選挙に関わっていく大事な人たちだということを知って、他人事じゃなくて自分事として語れるようになりました。新聞を読んで、「これからこの人たちが私たちの街をよくする人たちなんだな」と当選者のことを見るようになりました。
これから茅ヶ崎がどんな街になってほしいかを考えるようにもなったし、私としては、子どもを優先したり他の街がやっていないことをする最先端の街になってほしくて、こども選挙もそのきっかけの一部だなと思います。ちょっとずつでもこうしたことをやっていって街が発展していったらいいし、他の街でも知ってもらえるようにしたいです。また、今回は学校では投票できなかったのですが、今後はどこの学校でも投票できるようになったらいいなと思っています。
答えてくれたのは…
ちがさき こども選挙委員「こっちゃん」 選挙開催当時は10歳
「こども選挙」に縁のない私たちにできることって?
●「家の前の道を綺麗にしたいね」身近なことを一緒に考える
たとえばドイツでは「ミニ・ミュンヘン」という7〜15歳が参加する街づくりプロジェクトがあります。ものを売り買いしたり行政運営や選挙を体験し、すべてリアルな社会問題を扱います。この成果もあるのか、ドイツは自国の政治に興味があると答える人の割合がとても高いです。いっぽう政治に関心が低いといわれる日本では、なかなか学校教育の現場で実際の選挙や政治を持ち出すのは嫌がられます。模擬選挙を行っても「ゾウ党」「リス党」などおままごとのような感じ。本来、リアルな社会問題や党名を出すなどして政治や選挙のことを考えることもできるはずですが、そこは避ける傾向もみられます。でも、家庭でもできることはたくさんあり、「家の前のゴミ捨て場はカラスが多い。ネットを張りたいけど、誰に言えばいい?」と考えてみることだって政治の一つ。
ルールに疑問を持ったら、「決まりだから」と無理やり子どもを納得させずに「なぜそういう決まりなんだろうね?」「一緒に調べてみようか」と考えたり、ものを言う姿勢を見せていくだけでもいい。政治家へ直接意見を言いに行くとなるとハードルが高いですが、一緒に考える、それだけで全く違うと思います。このこども選挙も主権者教育としてとてもいい取り組み。リアルな候補者にこだわっていることが、自分が社会の一員であるという自覚を持つことにつながると思います。「自分の声が届いた」という成功体験を積めるとさらに楽しいものになるのではと期待しています。子どもは子どもなりにその世界の不条理を感じているし、幼いうちからこども選挙や身近な場所で政治に関わることでシチズンシップは醸成されていくはず。それに今は、政治について語りたいという大人も、だんだん増えている気がしています。
神戸大学大学院 人間発達環境学研究科准教授
田中伸さん
専門は市民性教育(民主社会における主権者教育論としての学校・教育・学びのあり方の研究)、カリキュラム論の研究。高校生の女の子の父。
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写真/AFLO 取材・文/有馬美穂 編集/中台麻理恵
*VERY2025年6月号「ママがこども選挙に参加してみたら」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。