【中学受験相談】干渉しすぎる父親の声かけに対して母はどうすべきか?
『中学受験生を見守る最強メンタル!』というタイトルで書籍化された、話題の連載・おおたとしまささんの『悩めるママのための、受験進路相談室』。この連載では、過熱する都心部の中学受験や受験をとりまく環境に悩むママが毎月登場し、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに進路相談。おおたさんの愛あるアドバイスは必読です!今回は、干渉しすぎる父親の声かけが、子どものやる気を削ぐように見えて気がかりというお母様からの相談です。
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【今月の質問】
干渉しすぎる父親の声かけが、
子どものやる気を削ぐように見えて気がかりです。
[受験進路相談室]
Tさんの場合
【家族構成】
夫、長男(中3)、長女(小4)
【今回相談する子どもの状況】
小4の長女が受験に向けて勉強中。5歳上の兄がおり、中学受験して中高一貫の男子校に通学中。兄の受験を見てきているので、長女は勉強に対してマイナスイメージはなく、元々好奇心も強いので、新しいことを吸収するのも楽しめています。心配は夫の長女への関わり方。長男は結果第一志望に合格できたのですが、夫の干渉が強めで「だからダメなんだ」などと厳しい声をかけるので、ぶつかることもしばしば。「何のためにやっているんだろう」と思ってしまうこともあり辛かったので、また同じことが繰り返されるかと思うと気が滅入っています。長女に対しても夫が同じように声かけをしていたら、子ども自身の自己肯定感や自己効力感を下げてしまうのではないかと心配。でも、なかなか夫を変えるのも難しいと感じており、悩んでいます。
Tさん(相談者):小4の娘が中学受験に向けて勉強しているところです。男子中高一貫校に通っている中3の兄がいます。お兄ちゃんの様子を間近で見ていたので、割と普通にがんばってくれている感じではあります。悩みは夫の、子どもへの関わり方です。
オ(おおたさん):ほー。
T:干渉が強めの夫でして、子どもががんばってやっているときに、そんなこと言わなくてもという声がけで子どものやる気を削いでしまって、もったいないなと思います。上の子の時は男の子だったから余計にかもしれないんですが、ぶつかることも多くて。なんのためにやっているんだろうとなってしまって、結構辛かったですね。またあの感じを繰り返すのかなと思うと気が滅入ります。でも夫を変えるのは難しいんだよなって、上の子の時にすでに感じています。
オ:旦那さんに対してある意味怒りにも近い感情を。で、子どもに対してはある意味守ってあげられなくて、ごめんなさいという。それをお兄ちゃんはなんとか乗り切って男子校に通っているけれど、これがもう一周。
T:はい、ちょっとしんどいなと(苦笑)。結果的に上の子は第一志望に受かりました。ものすごく嫌な思いとか辛い思いをさせたこともあって、これでよかったのかなと過ごしていたんですが、合格を見た時に笑顔で「受験してよかった」と言ってもらって、すごく報われたというのはあるんですけれども。
オ:うんうん。
T:本当に素晴らしい学校に通えて、がんばってよかったねと思いますし、下の子にも素晴らしい学校、合う学校があると思うので、受験をさせたいなって気持ちはもちろんあるんですけど。
オ:なるほど、受験をさせたい気持ちあるけれど、あれを繰り返すくらいなら受験を回避したほうがいいかなとも思っている?
T:ゴールは同じでいいと思っているんだけれど、その道筋を違ったものにしてあげたいなという感じですね。
オ:お兄ちゃんの結果は万々歳だったけれど、お母さんから見るに、必要以上に傷つけてしまったと。
T:はい、そうです。
オ:論点を整理しましょうか。まず、妹さんの受験をするにあたって、やっぱりあのやり方はやめようって夫婦で話し合う方法は一つありますよねと。二つめに、お兄ちゃんの合格は、お父さんにとって、ものすごく成功体験になっているってことですよね。それで、お父さんはやり方を変えたくないと思っているのかどうか。三つめとして、お母さんへの質問なんですが、お兄ちゃんと比べて手ぬるく見えるやり方をして、第一志望に受からなくても割り切れるかどうか。
T:はい。
オ:まず、お嬢さんの通塾を始める際に、話し合いはありましたか?
T:関わり方を変えてほしいってところは、受験だけにかかわらず、割と常々話しているんですけれど。
オ:受験に関わらず、割と過干渉なんですか?
T:過干渉ですね。勉強を教えるのは私の役目なのでそこじゃなくて、どちらかというとそれに向かう姿勢とか、私から見るとどうでもいいことによく口を出しています。
オ:例えば?
T:本人が心の整理をしながらぐにゃーっとした状態になっていて、それでもなんとかやろうと葛藤しているその時に、「そういう態度がダメなんだよ!」と言ってしまう。いやいや、今整えているところなのに!そういうタイミングがうまく摑めていないというか。何かというと、「だからダメなんだよ」って。塾でクラスが変わった時に「だから落ちるんだよ」「だから点数が取れないんだよ」とダメなほうダメなほうに引っ張ってしまう。
オ:なるほど。
T:私はポジティブなほうに引っ張りたいので、そこがちょっと相容れないなと。前後の様子、ここまでがんばっていたんだよっていうのを見ないで、ちょっとした瞬間に怒ってしまったりとか、人格否定みたいなことを言ってしまったりとか。いまは上の子が大きくなっているので、どうにもならないくらい揉めるってこともあるんですが(苦笑)。
オ:今もお兄ちゃんに対して?
T:そうですね。夫も一瞬反省するんですが、またすぐ戻る。よくあるモラハラ夫です(苦笑)。下の子の受験を始めるときに「もっと別のやり方をしようよ」と伝えたら、その時は「そうだね」って本人も言いました。
オ:あ、一応同意をしているんですね。
T:一応。「上の子の時ほど俺も肩入れしない」って。
オ:なるほど、意図的にこれが正しいと思ってやっているんじゃなくて、本当はやらないほうがいいって思いながら、とめられなくなっている。
T:ですね。今話をしながら少し思ったんですが、彼の中では上の子との違いを出しているつもりなのかもしれない。
オ:お母さんから見て、少しはマシになっているかなと。
T:そうですね、少しは。
オ:お父さんなりに変えようと思っていて、お母さんにも多少はそう見えるのは、光が見える部分。これが全くゼロなら、結構絶望なんですけれど、少しでもよくなっているとしたら、お父さん自身が変わる可能性があるのかなって。というところで論点整理の2番目の、お兄ちゃんの成功体験についてはどう思っていそうかっていう答えは出ていて。確かにやりすぎたって自覚はあるわけですね。
T:多少はあるんだろうなと思いますね。ただ、勉強のやり方とかは、自分が正しいと思っている節はありますよね。
オ:お父さんの中に、何か自分では抑えきれないものが潜んでいるのかもしれませんね。自分が持っている弱さを子どもが見せた時に、親ってものすごく反応しちゃうものです。「だからダメなんだよ」って、もしかしたらお父さんは自分自身に言っている言葉なのかも。お父さん自身も受験に関して過去の傷を持っているのかもしれない。
T:すごく納得感があります。
オ:ああ、そうですか?
T:はい。実はすごく弱い人なんだなっていうのは、一緒に生活していて感じるというか…。高圧的で強く見えるんですが、「自分に自信がないんだろうな」って。大学受験ですごく苦労した結果、自分がどうしても行きたかったところに一応行くことができて。ただ行くまでが長かった。
オ:自分の古傷を思い出させるみたいな。そういう作用があるのかもしれないですよね。
T:ああ、スッとしました、ありがとうございます。
オ:人間誰しも弱いんでね。弱いことは悪くはないけれど。そのお父さんの弱さがお子さんの中学受験で炙り出されてしまう。だからその、ちょっとお母さんにとって負荷がかかってしまう話なんですが、お父さんに対して怒りに近い感情を抱く瞬間に、一方で、「この人も傷ついているんだ」「この人も弱いんだ」って、視点を持っておくことは大事かもしれないですね。なんだかちょっと聖母マリアみたいになっちゃうんですけれど。
T:いや、それが必要なんだなって。
オ:実際には難しいですけどね、夫婦ではね。赤の他人のほうが「あの人大変なんだな」ってやりやすい。だとすると、何ができるんだろうな、そういう時に。
T:なんか、あれですかね、苦労して苦労して今の自分がいるってことだと思うけれど、私が「今のあなたって素敵じゃない」って認めてあげることで、「そうか、今の俺でも大丈夫なのか」って、今の自分への肯定感が持てたらいいなって、今ちょっと思いました。
オ:素晴らしい、それができたらいいですね。
T:そういう意味では、自分自身にも課題があるなって思っていて。仕事でいろんな役割を担わせてもらっているので結構忙しいんですよね。世の中の旦那さんと比べてもかなり家のことをやってくれているので、本当はもっとわかりやすく感謝を伝えるべきなんだなって。仕事も大事だけれど、自分自身も家庭に比重を置かなくちゃって、正直考えますね。
オ:そんな、無理して優等生にならなくても大丈夫ですよ。
T:あはは。いや、でも思いますね。難しいけれど。
オ:もしかしたら二人でね、「悪循環になりがちだよね」って確認するだけでも、どこかでストップしようってそれぞれが思う機会になるかもしれない。
T:うんうん。
オ:お父さんの自己肯定感を高めてあげるのは、すごく根本的だし、好きで結婚した人に改めてそういうメッセージを伝えられるのはすごく勇気づけられると思う。常に競争社会を生きる男性は、自信を削られながら生きていると思うんですよ。それと、先ほど、少しだけでもよくなっているという話があったと思うんですが、人の変化を促す時って、いい方向に1ミリでも進んでいるなら、それを見てあげて、「すごいじゃん、進んでいるよ」ってサインを送ってあげるといいです。もしかしたら悪い方向に10cm進んでいるかもしれないけれど、それでも1ミリの前進に焦点を当てるのが、いい方向に推進していくコツだと思います。
T:うんうん。そうですね。
オ:それにしても、お母さんはこうして話をしている中で、現実的にできるかは別として、自分の選択肢に気づくっていうのはすごいですね。もしかしたらお仕事のご経験が生きているのかなって。
T:仕事も子育ても夫との関わりも一緒だなって。
オ:チームビルディング的な視点がおありなんですね。先ほどお仕事が忙しくてって仰っていたけれど、決してお仕事されていることがマイナスになっていないというか。家庭とお仕事の両立は難しいと思いますが、これを乗り越えることで、結果として夫婦として成長できる、いい家族になれるって、そのための課題なのかなって。今の状況は。そんなように思いました。
T:すごく勇気が持てました。ありがとうございます。
第一志望合格よりも大事なものはたくさんあると
全員が認識して家族が成長するきっかけに
オ:そこで論点の3点目はどうでしょう、受験の神様から、「Tさん。今悩んでいるね?あなたの望みを叶えて、魔法でお父さんを変えてあげる。その代わり第一志望を諦めてね」って。そういう究極の質問を、受験の神様が枕元に現れて聞いてきたら?どう答えますか?
T:難しいですね。ただ第一志望に受かるかどうかは、最終的には子ども自身の頑張りと運の掛け合わせだなと思っているので、夫のそれがないと受からないなら、それはなくていいと思いますね。上の子を見ていても、勉強そのものに対してはいまだにネガティブな構えをもっているので、それはよくないなと。今はそれに困っているというか。学ぶ楽しさを犠牲にしないでやれるのがベストだなと。
オ:勉強を苦行に思わせて第一志望に行くくらいなら、そうじゃなくてもいいですよと。それは正しいと思います。僕は極度の過干渉というか、教育虐待ってレベルの話も色々と取材していて、なんかね、親ってその時は子どもを傷つけても、何がなんでもいい学校に押し込んであげれば元が取れる、報われると思っているけれど、全然そんなことない。
T:本当にそう思います。
オ:確かにいい学校に通っていれば「すごいね」って言われるかもしれないけれど、それだけのことですよね。一瞬の自尊心っていうか。いい車に乗っていてかっこいいって言われるようなもんで。それが軽自動車でも一緒じゃんって。誰とどこにいくか、それが楽しいかどうかじゃんって。そういうのが本質だと思うんです。傷つけた結果得られるものの違いが、思ったほど大きくない。特にお仕事をされているお母さんなら、感じると思うんです。出ている学校なんてどうでもいいって。
T:そうですね。
オ:でも中学受験していると、そこに大きな違いがあるような錯覚にとらわれる。実際によその子だったら、第一志望じゃないって言われても「いい学校じゃないですか」って普通に思えるじゃないですか。
T:そうですよね!
オ:仮にお兄ちゃんの進学先が第一志望じゃなかったとしても楽しい学校生活を送っていたと思うし、「あなたが手を緩めることで娘があと一歩で第一志望に届かなくても、私はあなたを責めないし、あの子もあなたのことを恨んだりしないよ」と。「そこに大きな恐怖を感じるのはやめましょう、中学受験の期間が家族にとって苦痛になるのはもったいないよ」と。「第一志望合格につい過度な期待を持ってしまうなら、それより大事なものを私たちはすでにたくさん持っているよ」と。「大事なものを犠牲にしてまでほしいものなんてないよ」って。そんなこと、夫婦の間で照れくさくて話しにくいとは思うんですが、一気に伝えようと思わなくていいので。
T:はい、折に触れて。
オ:いいタイミングでね。お父さんの気が楽になるような。うーん、相似形ですね。子どもに「ダメダメ」言ってるお父さんに「ダメじゃない!」って言うんじゃなくて、どうやったらダメな状況を抜け出せるかを考える。これもマネジメントしていれば日頃やられていることだと思うんですが…家の中でマネジメントなんてね(笑)。
T:ふふふ、でもそうなんですよね。期待してしまっているんですよね、夫に。
オ:ああそうか、そうかもしれない。さすがですね、お母さん。物事を捉える視野が広いというか冷静というか。とはいえ、お母さんが全部責任を負うことじゃないから、別にブチ切れてもいいんじゃないかと思うんです。で、お父さんもただ高圧的なだけじゃなくて家のことをやるっていうところがね、家族への愛情がある方だと思うので。
T:そうですね。
オ:相手がそういう人なら、ある程度ぶつかっても修復しようって気持ちが働くはずです。
T:ですね。まずは感謝を伝えながら、ちょっとずつちょっとずつ。
オ:さすがですね、まとめまでしてくれちゃって(笑)。お母さん相当仕事できるでしょ?部下50人くらい?
T:そんなことないです、20人そこそこの。
オ:すごい!やっぱりね。
T:できるかできないかは別として、こういう方向に進めばいいんだなって思って、心に入ってきて、それだけで整理できる気がします。心が軽くなりました。
論点整理をちょっとお手伝いしただけで、どんどん自分のすべきことを見つけていくお母さんでした。仕事と家庭の両立は大変ですが、その仕事での経験が家庭でも役立つということもあるんですね。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など80冊以上。http://toshimasaota.jp/
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イラスト/Jody Asano コーディネート/樋口可奈子 編集/水澤薫
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