Aぇ! group『ガチネバ』全公演完走を記念して振り返りレポ【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.43】
関西ジャニーズJr.のAぇ! groupのメンバー6人が毎月一つの舞台に挑戦するテレビ番組『THE GREATEST SHOW-NEN』。先日、好評のうちに幕を閉じた舞台ツアー THE GREATEST SHOW-NEN 『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』のゲネプロ取材会に参加した辛酸さんに、その魅力を振り返っていただきました。
LOEWEのコレクションかと見まがうドット絵風衣装で登場
今,関西ジャニーズJr.で一番勢いがある6人組、Aぇ! groupが気鋭の演出家や脚本家とコラボして、演劇を作り上げるレギュラー番組『THE GREATEST SHOW-NEN』(ABCテレビ)が満を持して舞台ツアーを開催。大阪、東京、広島、愛知の各地で公演が行われ、笑いと勇気と感動の渦を巻き起こしました。『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』というタイトルだけでもわくわくしてきますが、舞台が始まるとそこはRPGの世界。それぞれ、勇者(末澤誠也)、僧侶(正門良規)、武闘家(草間リチャード敬太)、魔法使い(小島健)、ギャンブラー(福本大晴)、戦士(佐野晶哉)の姿に扮し、2Dゲームのドット絵風の衣装で上下に体を揺らしています。演出がまず斬新ですが、最近「LOEWE」でもゲーム風のドット絵デザインの服を発表していたので、ファッション的にも最先端です。
「勇者」のゆうやはゲームのプレイヤーであることが判明し…
ゲームではバトルの真っ最中。オースター(戦士)が敵の攻撃を受けるとアレックス(僧侶)は薬草を使い、ルンダ(武闘家)も攻撃、ジャイロ(ギャンブラー)はサイコロを投げ、スタッド(魔法使い)も呪文を唱えます。ゆうや(勇者)が伝説の剣を使い、ついに敵を倒してゆうやたちの勝利に。歓喜にわいた後、「お疲れさん」「ラスボス倒したから終わりだもんね」「じゃあ、まあ帰りますか」と流れ解散に。
そんな中、勇者のゆうやだけ「帰る? もうちょっと冒険の余韻に浸って喋ったりとか……」と異を唱えて皆を引き止め、それがネバーエンディング状態の発端になってしまいます。ゲームの主人公でプレイヤーとして主導権を握っているのは末澤誠也演じるゆうやで、他の5人はゲーム内のキャラらしいことがわかってきました。
「俺たちは世界を救ったんだよ!」と興奮がおさまらない様子のゆうや。ゲームのキャラたちはおそらくもう何回もゲームをクリアしてきたので感傷も特にになさそうですが、ピュアなゆうやの説得で打ち上げっぽいことをする流れに。6人は焚き火を囲んで、冒険の旅の思い出話などを語り合います。
女性キャラクター不在なので安心して没入できる
このゲームの登場人物は基本的にAぇ! groupのメンバーでメンズのみ。RPGだと姫を救い出すミッションとかありそうですが、今展開しているゲームには恋愛要素どころか女性の影もなく、安らかな気持ちで没入できそうです。
戦闘シーンの思い出で、薬草よりも回復呪文のほうが良かったとか、戦闘中なのにサイコロ振ってるギャンブラーはどうなのか、魔法の呪文がキショい、ルンダ(リチャード)の必殺技がおかしい、などとお互い軽くディスり合い、不穏な空気に。今回のゲネプロではルンダ(リチャード)に必殺技を何度もムチャぶりするシーンがあり、終わった後にスタッフに「ちょっとリチャードのシーン、長いかな?」と言われてしまったとか。こんなふうに関西のノリのよさでアドリブもところどころ出てくるのが魅力です。
思い出話からちょっと殺伐とした空気になったところ、ゆうやが「みんな、ケンカをやめよう! せっかく力を合わせてこの世界を救ったんだよ!」と勇者っぽい台詞で仲裁し、そのあとは思い出話に花を咲かせる6人。
「光の神殿まぶしすぎ」とか、海の端に行ったら透明の壁があって、触っていたらパントマイムみたいになったとか、肉泥棒の疑いをかけられたウサギ(リチャード)が踊ってごまかしたとか、シュールでかわいいエピサードが次々出てきて和みます。RPG経験がなくても、ファンタジーを通ってきてなくても楽しめる舞台です。焚き火を囲んで集まっている姿がアットホーム感あふれている、と思ったら、ゲネプロ後の記者会見で「1年で350日くらい一緒におるんちゃうかな。家族以上に一緒に時間を過ごして、裏でもずっとしゃべって、寝るときはみんなで寝たりするけど」という小島くんの発言があったようで、そんな関係だからこそ醸し出せる空気に心暖まりました。
Aぇ! group6人がゲームキャラなら現実に戻らなくてもいいかも
冒険を振り返っていた6人。ゲームのアビリティで「歌う系のアビリティ使ってないよね」という話になり、「みんなでうたう」を選択。ハモりながらバラードを6人で歌いました。歌唱力を感じさせるソロパートもあり、舞台公演だとかなり近くでAぇ! groupの生歌を聴くことができます。これでフィナーレっぽくなって解散かと思ったら、「帰りたくない!」とまただだをこねるゆうや。「もっと冒険したい!」、ゆうやが再度「みんなでうたう」アビリティを選択すると、強制的に集まって歌い出すゲームのキャラたち。何度も歌を聴ける観客としてはありがたいですが……。
「何歌わせてくれてんねん」「なんでゲームをやめたくないの?」と、メンバーたちが苛立ちながらもゆうやに問いかけると、ゆうやは現実の世界から逃避したかったことが判明……。そこからリアルな世界を巻き込んだ新たな冒険がはじまります。6人の絆に胸が熱くなり、周りのゲーム中毒気味の友人知人の気持ちがわかる作品です。ゲームに夢中な友人におざなりにされてきたけれど、キャラたちや仲間との絆がそこにあったのかもしれない、と少し理解度が高まります。
そしてこの舞台は新たな2.5次元エンターテインメントといってもいいかもしれません。ここ数年、コロナ禍でゲームやドラマ、映画など画面の中のストーリーに没入する人が自分も含めて多かったように思います。そんな生活に慣れるうち、2次元と現実を自由に行き来したり、現実と2次元の妄想を融合させたり……現代人の現実逃避アビリティが高まったのかもしれないと感じました。実際にAぇ! groupメンバーがゲームキャラだったら、現実に戻って来なくても良くなりそうですが……。コロナ第8波のさなか、41公演、無事に完走。本当に彼らはゲームの中に住んでいるのかと思うほど、安全な世界に存在しているようです。
『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』
‘20年11月よりスタートした、Aぇ! groupのレギュラー番組『THE GREATEST SHOW-NEN』(ABC テレビ)の初回公演でタッグを組んだヨーロッパ企画が再び参加し書き下ろした新作はRPGを題材にした物語。出演/Aぇ! group 演出・脚本/諏訪雅(ヨーロッパ企画) 監修/上田誠(ヨーロッパ企画) ●大阪、東京、広島、愛知の全4都市41公演を好評のうちに完走。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。