マイペースな性格の子だと 中学受験には向かないですか?[受験進路相談室]

Wさんの場合

[家族構成]夫、息子(小4)、娘(5歳)

[今回相談する子供の状況]

息子(年中から小3までZ会、小3春期講習からSAPIXに通塾)

[習い事]サッカーチーム(週4)、そろばん(週2〜3)、英語(週2)、塾(週2)

 

子どもはマイペースな性格です。勉強するのは嫌いではないですが、計算ミス、覚えない、わからない問題は直ぐに諦める、問題をきちんと読まない……塾のテストでどんどんクラスが下がっていってます。それでも、全く気にしません。「同じ学校に一番上のクラスに行っている子がいるんだけど、その子は考え方が凄いんだよ」と楽しそうに話してくれるほど、人は人、自分は自分。毎日が楽しいそうです。私は中学受験経験者で、受験はそんなに甘くないと思っていますし、途中でやっぱり受験をしたいと思っても間に合わないと思うのでやめたくありません。でも、毎日息子を怒ってしまって私も辛く、反省する日々です。

W: 新小4年の最初のテストで成績が下がって焦りました。でも、今回のコロナ休校で勉強時間がとれたので、この間のテストでは少し成績が上がって、本人の自信もだいぶついてきたところではあるのですが……。一番の悩みは、マイペースな子どもにどうやって受験勉強っていう長いスパンでの目標設定をしていくかということです。メモしていいですか? 受験ノートを作っていて。

 

おおた:すごいですね、そのノート、見たいです。

 

W:毎日やるべきことを書いていたんですけど、もっと見える化しようと思って、こっちが新しく用意したもので、何をどれだけやったかをノートにつけて、反復練習を何回やったかとか全部書いて。

 

おおた:噂には聞いていたけど、やってる人が本当にいるんですね。

 

W:でもこれも使い勝手が悪くなって、今はExcelで何ページから何ページまでやるって管理して、それが今は一番いい状態ですね。何をどうできてないかとか、どの理解度が少ないかとか、毎日記録しています。

 

おおた:学校がない間は、どれくらい勉強していたんですか?

 

W:朝は1時間。これは学校がある時も元々やっていて。今回の休校期間中には、午前中2時間くらいと午後3時間くらいで、夕食後に1〜2時間くらいかな。

 

おおた:すごいですね。トータル7〜8時間はやってるということですよね。

 

W:でも、これを本人が納得してこなさせなきゃいけないのが、すごく大変で。

 

おおた:まずお母さんはしっかり目標を決めたいんですよね。それから、ただこなすだけじゃだめで、本人が納得しなきゃいけないとお考えなのですね。

 

W:何事もまず目標設定をして、いろんなことを達成してきているので。たとえば、小学校1年生の時に硬筆でクラスの代表に選ばれて、2年生でも選ばれたいというので、もっときちんと一文字一文字確認しながら練習するっていうのを何時間もやらせました。本人が「もうできない」って言っても、「もっと頑張るんだ」「あなたの目標は何だったの?」ってやらせて。そしたら東京都の賞に出してもらって。そういった目標を掲げて、練習してっていうのがいままでのパターンでした。私自身がそういうやり方しかわかってないんだと思うんです。

 

おおた:お母さんが、そういうやり方しか知らないとおっしゃっているけど、お母さんも中学受験したんですよね?

 

W:はい。ただ、私はスポーツをやっていたので、受験勉強を始めるのがすごく遅かったんです。で、途中で投げ出した経験があって。一度投げ出して、でもやっぱり6年生になって受験したいって言い出して受験した経緯があるので、子どもが受験をやめるって言ったことをどうしても受け入れたくないんですよ。

 

おおた:お子さんが受験をやめると言った?

 

W:どんどん成績が下がる一方なのに本人はマイペースなので、それならこのままやめた方がいいんじゃないかって私から言ったら、「ママがそう言うならやめるよ」って言われたんですけど。「ママは絶対やめてほしくないけど、本当に別のことをしたいならやめるっていうのも一つの選択肢だし、本当の気持ちを聞かせてほしい」と言ったら、「やる」って。性格が本当にマイペースなので、「自分がこれをやるんだ!」っていうのがあまり伝わってこないんですよね。習い事もこれだけこなせるっていうことは、本人がボーッとしてるんですよ。きちんとしてる子だったら、こなせないと思う。

中学受験が人生の一部だとするのなら、スポーツやビジネスみたいに単純なものじゃないのかもしれないですね。

おおた:2つ質問していいですか。まず、お子さんにとっての究極の目標は何ですか? 要するに、今いろんな目標を目の前に設定してクリアしているけど、それはどこに行き着くためなのか。

W:うーん……そこまでは考えてないですね。

 

おおた:もう1つの質問は、お母さん自身の目標は何かってことです。

 

W:……それもないかもしれないですね。目の前の今やるべきことの目標しか立ててないですね。

 

おおた:その、やるべきことっていうのは、本当にやるべきことなのかしら?

 

W:そうですね……確かに……難しいですね……単に本人の特技を伸ばそうってしか考えてなくて。

 

おおた:うん。人生の目標設定ってなかなかできないじゃないですか。そもそも中学受験が人生の一部だとするのなら、スポーツやビジネスみたいに単純なものじゃないのかもしれないですね。

 

W:そうなった時に、本人に納得させて勉強させる方法とか、こうしたいって気付かせる方法ってあるんですかね?

 

おおた:お母さんの話を端的にまとめると、子どもに主体性を持ってほしいっていう話なんですけど、成績を盛り返すためにやらなきゃいけないっていうのは、本当の主体性なんでしょうか。お母さんの現状認識と子どもに求めているものが、ズレちゃってるのかなって思ったんですね。

 

W:Excelで管理しているくらいのなので、危機感を煽っているのかもしれないですね。

 

おおた:主体性を持ってほしいと言いながら、実は子どもを追い込む構図になっているとしたら、お母さんが望んでいる息子さんの姿と、実際に誘導している方向性がズレているのかもしれない。そもそも中学受験をする目的は何ですか?

 

W:別に合格させたいとか、良い学校に入れたいとかじゃなくて、この時期に勉強するのがいいことだと思っていたので。でもやっぱり結果を求めちゃってますよね、私が。

 

おおた:そうことでしょうね。子どもとしてはこんなに勉強して、これだけ点数が取れているのに、やればやるほど「じゃあ、次はこれが目標ね」って言われて、「えっ?」っていう。頑張れば頑張るほどゴールが遠のいていくマラソンみたい。あくまでもこれは僕の中学受験観だけど、中学受験っていうのは、子どもにとっても親にとっても人生を学ぶ絶好の機会だと思うんですよね。スポーツやビジネスと違って、人生は勝ち負けとか損得勘定とかコスパじゃない。中学受験に最適化している人間って、きっとろくでもないですよ。親子が成長すればいいんだっていう原点を忘れてしまって、少しでも良い偏差値をとるっていうことが目的になって、大事なことを見失いがちになってしまうのは子育ての観点からすれば本末転倒。今までお子さんは、お母さんの設定してくれたゲームを達成することに喜びを感じていたけど、これから思春期になって自分自身の人生を歩み始めるとそうはいかなくなるから、もしかしたら中学受験を機に今までのやり方を卒業するチャンスなのかなって。

おかしいなと思ったら、足すんじゃなくて引くの。それができればすごくうまくいくと思います。

W:中学受験は勉強することが目的でって本人に言っても大丈夫なんですよね? 人生の一部に過ぎないんだよって。

 

おおた:僕はそれでいいと思う。

 

W:「合格するぞ!」っていう子しか、成績が上がらないのかなあって思って。

 

おおた:勉強すること自体が大事なんだよっていう価値観を伝えることによって、伸びるものも伸びないって心配されているのかもしれないし、実際そうなるのかもしれないけど、それは悪いことだと思わないので。本質を隠して焚きつけるために「ここしかないの!」って追い込めば、もしかしたらそれでブレイクスルーする子もいるかもしれないけど、それで潰れる子のほうが多いと思うし。15歳や18歳での受験なら、外から発破をかけられてもはね返すことができますけど、12歳でそれはできなくて本当に自分が否定されたと思っちゃうからリスクが大きい。それが中学受験の怖いところ。とは言え、お母さんは、普通の人がやろうと思ってもなかなかできないこれ(Excel)ができるんだから、これはこれで続けて、本人が「これはちょっと使えるぞ」と思うなら使ってもらえればいいというくらいにすればいい。

 

W:けど、このスケジュール、パツパツですよね。

 

おおた:そうね、ちょっとパツパツかな。さっきお母さんが、ボーッとしてるからできるんですよって言ってたけど、確かにちょっと意識を飛ばさないとできない量かもしれない。それをお母さんがわかっているなら、勇気がいることかもしれないけど、ちょっと間引いてあげて、子どもの目の輝きとか身体の躍動感とか、心が落ち着いているなとか見てあげて、調整してあげればいいんですよ。間引いてあげることでイキイキした表情になるかもしれない。でも、子どもってイキイキしている時に成績が上がるわけじゃないので、「じゃあ、どっちをとる?」ってなっちゃうかもしれないけど、長い目で見たらイキイキしているほうをとったほうがいい。テストの点数は無理やり縛り続ければ上がるかもしれないけど、それって一生続けられないから。でも、目の輝く方向に進むのは一生続けられるから。とは言え、そこそこの偏差値をとってほしいとか、そこそこの学校に行ってほしいっていう願望を持っているということですよね。その点については、ここから3年間あるので、その中でお母さんも鍛えられて、「足し算」じゃなくて「引き算」で子育てできるようになるから。おかしいなと思ったら、足すんじゃなくて引くの。それができればすごくうまくいくと思います。それにお子さんが持っているマイペースという特性は本来すごくいいことだから。マイペースでとぼとぼ歩くのが結局は一番遠くまで行ける。お母さんの場合、インターバル走のように、「はい、あそこまで! 次、あそこまで!」っていう感じだから(笑)。

 

W:そうですね。

 

おおた:確かに中学受験って期限が決まっているから、マイペースというのは、その期日までに偏差値的に高い学校に入ることを中学受験の目標にするのならもしかしたら向いていないかもしれないけど、最後までマイペースでやりきって、入れる学校に入って、そこで自分の頑張りに誇りを持てるなら、中学受験としては大成功だと思う。おそらく彼には彼のやり方があるし、それを一緒に見つけてあげる3年間にできれば、お母さんも「あ、こういうやり方もあるんだ」って感動すると思う。そしたら、思春期以降の息子さんの生き方がすごくカッコよく見えて「私にはこれはできないわ」ってなると思いますよ。それって、すごく楽しみじゃないですか。

【おおたさんからひとこと】

中学受験生の学習を支えるという意味ではものすごく高度なことができてしまうお母さんなのだと思います。まねしようと思ってもなかなかできるものではありませんから、大きな財産です。一方で、そういうことができてしまうからこそ、お子さんに対しての期待も高まり、ふがいなさも感じてしまう……。中学受験をするしないにかかわらず、10歳を過ぎたら親は少しずつ手を引くことを学ばなければなりません。このお母さんもそれができるようになれば、鬼に金棒だと思います。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野亜紀子 編集/羽城麻子

 

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