身を削って全身全霊で音と一緒に踊るダンサーは失敗を恐れない【王子様の推しドコロ】
vol.3 大塚 卓さん
バレエダンサーやフィギュアスケーターなど、アスリートの中でも特に「王子様」と評されるイケメンたち。“王子様っぽさ”の理由は何なのでしょうか。それぞれの魅力をそれぞれの見所から紐解いていきます。
©Nobuhiko Hikiji
PROFILE
おおつか・すぐる/バレエダンサー(東京バレエ団所属)。1996年生まれ、千葉出身。5歳からバレエを始め、ハンブルク・バレエ学校、オーストラリアのクイーンズランド・バレエ団を経て、2020年に東京バレエ団にセカンドソリストとして入団。2021年には早くもソリストに昇進。類まれなる音楽性と身体性を持ち味に、グランドバレエからコンテンポラリーまで幅広く踊れる期待の若手ダンサー。これから踊ってみたい作品は、モーリス・ベジャールの『ザ・カブキ』と『くるみ割り人形』。
2021年、東京バレエ団の公演を観に行った際、ひとり飛び抜けて立体的で、滑らかな踊りが印象的だったのが東京バレエ団の大塚卓さんでした。
才能を感じるその踊りは「初めて踊る演目では、時々聞き慣れない曲があります。そういう時は、何も考えないところまで自分をもっていって踊りたいから、家でもその曲を流しっぱなしにします。鼻歌で歌えるようになるまで繰り返し。バレエは音楽を可視化したものだから、音楽はすごく大事。音に助けられて踊っているので、音と一緒に踊りたいと常日頃思っています」と聞いて納得してしまいました。
身を削って表現する踊りが好き
1996年生まれ。小顔ですらっとしたスタイルが舞台上で目を引く大塚さん。
「バレエを習っていた姉の影響で、自分も踊りたいと両親にねだって5歳でバレエを始めました。転機となったのは中学生で都内のバレエスクールに移ったこと。元東京バレエ団 芸術監督の溝下司朗先生に出会い、バレエにさらに夢中になり将来を考えるようになりました。ふたつめの転機は、18歳の時にローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップを受け、ハンブルク・バレエ学校に留学したこと。世界のバレエを体感し、体の使い方や知らなかった作品などを学ぶことができ、自分の可能性が広がったんです。苦手だと思っていたコンテンポラリーに挑戦し偏見をなくすことができたのもこの時。その後、クラシック演目のレパートリーの多かったオーストラリアのクイーンズランド・バレエ団に入団、昔からいずれは日本で踊りたいという思いがあり、2020年にオーディションを経て東京バレエ団に入りました」
※写真は『くるみ割り人形』でのパ・ド・ドゥ ©Shoko Matsuhashi
2021年にはソリストに昇格。早くも主役を踊る同団きっての若手注目株。背中が柔らかく優雅な踊り、身長175㎝の佇まいには王子様の風格が宿ります。
「身長が高いわけではなくても、体型的に『王子様が似合うよね』と言っていただけるのですが、現実の僕はエレガントな王子よりも、自分を犠牲にして身を削って表現する踊りが好きなんです。全力を出し切って、作品が生きてくる感覚が好き。クラシック演目を踊りたいと思いつつも、ベジャール作品、ノイマイヤー作品、キリアン作品などを踊っている時のほうが、生き生きしているかもしれません。ストーリー性のあるクラシック演目では、物語をいかに崩さずに、でも存在感は消さずに踊るか大切にしています。クラシックは女性が主役のことが多いから、女性を引き立てるようにパートナリングを大事にして、お客様が自然にストーリーに入り込めるように気を配り、そのぶん、ソロの部分では自分らしさを発揮してバランスをとります。僕は、“魂を削って表現するダンサー”になりたいんです。小さくまとまりたくない。だから失敗を恐れず常に舞台には全力で挑んでいきたいですね」
4月28日から3日間の公演では、東京バレエ団の新作グランド・バレエ『かぐや姫』の第2幕と、ジョン・ノイマイヤー振付の『スプリング・アンド・フォール』に出演予定。それぞれの見どころは?
※写真は『かぐや姫』のリハーサル ©Shoko Matsuhashi
「『竹取物語』が『かぐや姫』のベースストーリーですが、演出振付の金森穣さんのオリジナリティ溢れる展開があり、すごく新鮮です。東京バレエ団オリジナルの世界初演作品なので、“帝”という役を僕以外まだ誰も踊ったことがありません。自分に振付けてもらった役であり作品なので、キャラクターを作っていくことのやりがいを感じています。帝は従者を多く従えて宮廷では威厳があるけれど、実は誰からも尊敬されていない孤独な面も持ち合わせている複雑な役。かぐや姫に出会って変わっていくのですが、“威厳”と“孤独”の表現のギャップに注目して観ていただけたらうれしいです。また、男性の群舞は迫力があり見ごたえがあると思います。日本古来の世界観をバレエにした舞台装飾、衣装、そしてドビュッシーの美しく聞き馴染みのある音楽に酔いしれてください」
もうひとつの演目『スプリング・アンド・フォール』はストーリー性のない抽象的な演目です。
「とても爽やかな演目なのですが、踊るのがすっごくきつい作品なんです(笑)。筋書きのない作品は、役を演じないぶん、音楽に溶け込んで夢中で踊れます。もちろん振付は正確に踊った上で、自分らしさを出すと作品のクオリティがアップする。だから、作品からダンサーたちの楽しさが伝わってくると思います」
その舞台でしか観られないことこそバレエの魅力
幼少期から今に至るまで、とにかく踊るのが大好き。趣味がバレエで、趣味が仕事になり、常にバレエを好きでいたいと話します。
「毎日忙しくても、踊ることが好きなので特にストレスはありません。なので、リフレッシュ法などもないのですが、あえていうならお笑い番組を見ることかな。『アメトーーク!』は欠かさず見ています(笑)」
大好きなバレエの魅力を聞くと……。
「劇場に行って観ることは非日常的で、家で観るのとは確実に違う感動や特別感が味わえると思います。舞台は水物なので、ハプニングを含めてその日のその舞台でしか観られないものがあります。舞台装飾や衣装、音楽の芸術性、ダンサーたちの人間離れした身体能力を、言葉がないぶん、五感をフルに使って楽しむことができるのがバレエの魅力。敷居が高いと思われがちですが、気負わず観にきていただきたいです! 今回は、バレエにまつわる色々なイベントやワークショップを体験できる〈上野の森バレエホリデイ2023〉の中で上演されます。公演を観る以外にもバレエを様々な角度から楽しむことができると思います」
大塚さんの姿を見られるのは……〈上野の森バレエホリデイ2023〉東京バレエ団公演『かぐや姫』第2幕、『スプリング・アンド・フォール』東京文化会館(2023年4月28日~30日)
日本を代表する振付家・金森穣による演出振付の東京バレエ団オリジナルの新作グランド・バレエ。『竹取物語』をベースに、ドビュッシーの楽曲と日本古来の世界観を融合させた創造性溢れる話題作『かぐや姫』。竹から生まれ成長したかぐや姫が、都へ旅立つまでが描かれた第1幕が上演されたのが2021年11月。今回は都を統治する帝を中心に大臣や女官たちがひしめく宮廷が舞台の第2幕。全編完結は2023年の秋予定。大塚さんは、“帝”役で出演予定。『イン・ザ・ナイト』と『スプリング・アンド・フォール』が同時上演。ジョン・ノイマイヤー演出振付の『スプリング・アンド・フォール』にも大塚さんは出演予定。東京文化会館(上野)にて、4月28日(金)19:00、29日(土)14:00、30日(日)15:00の上演。詳しくはNBSの公式ホームページでご確認ください。
取材・文/味澤彩子