60代になったら、20代の頃のようにバックパッカーに戻ろうかな(笑) ――作家・角田光代さんINTERVIEW③

「今までの私、これで良かったのかしら?」

「これからの私、どうすればいいのかしら?」

この2つのモヤモヤ感に包まれがちなのが、私たち40代……。
先輩女性たちは、そんな40代をどのように過ごされてきたのでしょう。
夫婦のこと、仕事との向き合い方、住まいについて、歳の重ね方、等々。

直木賞作家の角田光代さんが、30代、40代を振り返り、同時にこれからへの思いを語ります。

目指したのは“目立たない家”、“飲み屋みたいな家”、“地面に近い家”――作家・角田光代さんINTERVIEW② はこちら

角田光代さん

作家。1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。‘90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。’05年『対岸の彼女』で直木賞を受賞。その後も『ロック母』(川端康成文学賞)、『八日目の蝉』(中央公論文芸賞)、『ツリーハウス』(伊藤整文芸賞)、『紙の月』(柴田錬三郎賞)、『かなたの子』(泉鏡花文学賞)と受賞作が続く。最新刊は短編集『ゆうべの食卓』と猫エッセイ集『明日も一日きみを見てる』。

誰にでもできる仕事は、もうやらなくていい

50代になって、〈こんなにも仕事ができなくなるものか……〉と愕然としました。
体力や集中力が保たないんですよね。40代半ばまではできたことが、今は難しい。5年間『源氏物語』の現代語訳に挑み続けたことも関係があるのかもしれません。小説の書き方を忘れるくらいでしたから。
ただ、やはり同世代の作家も同じことを言ってますから、これも年齢のせいなのかと諦めもついてきましたね。今まで仕事の依頼を断ることはなかったからショックでしたけど、量産するのをやめ、誰にでもできることは自分はやらないことにしようと思っています。これまでは毎日、定時での仕事を自分に課してきましたが、だんだんと〈今日は甘えてもいいかな?〉と思えるようにもなってきました。

世の中の変化も大きいですね。
多くの方々の努力の甲斐があって、この10年でジェンダー問題はとても変わりました。異性愛が当たり前だという前提、平気で使っていた性差別的な言葉など、20年前、30年前は何も考えず使っていたようにも思います。私自身、昭和の人間ですから、パワハラやセクハラに気づかず見過ごしてきてしまった責任を感じます。
だからそのぶん今は、意識して、すごく意識して書くようにしています。恋愛小説にしても、今はどの立場で書くかを意識しないと、古い本になってしまいますから。
その点、韓国ドラマや韓国映画は社会の描き方がとてもリアルですよね。ジェンダー問題、差別問題、貧困問題といった社会の闇と真剣に向き合い、見るたびに何かしらの問題を提起してくれるので、いい刺激にもなるし、勉強になる。この2年くらいで、私もよく観るようになりました。女が男の夢に乗っからず、自分の夢を叶えてゆくというような姿には、強いメッセージを受けます。ホント面白いですよね。

60歳を過ぎたら……。
〈仕事は続けられるか?〉という漠然とした不安はあります。
私は旅が好きで、20代はバックパッカー的に楽しみ、暗黒の30代を経て(笑)、自分を取り戻した40代では再び旅行に行きまくりました。
パンデミックも一段落して、だんだん明るい兆しは出てきたものの、いつになれば好きなように旅ができるようになるのか? 日本人だからといっても安全に旅ができる時代ではなくなってきましたし、今は、まだちょっと不安もありますね。
以前は、60を過ぎたら、またバックパッカーに戻ろうと思っていました(笑)。20代の頃はお金のないバックパッカーでしたけど、60代になれば少し余裕もできるし、海外はお年寄りに優しいからチヤホヤされながら……若いときは行けなかった、ちゃんとテーブルクロスがかかっているレストランで食事したりしてね。
今、行きたいところはスペインでしょうか。お酒の飲み方が日本人と似ているんです。
“バル巡り”って、ちょい飲みの“はしご酒文化”みたいでしょ?

撮影/吉澤健太 取材/竹永久美子

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