“人生多毛作時代”になった今、50歳からが「女の人生黄金期!」です。【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.16】
進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。
【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.15】デジタルなつながりだけでもダメ。親の役目は選択肢を広げてあげること
「超高齢社会と男女」について①
Q.男女共同参画白書によると、今や女性の半数以上は90歳まで生きると。平均寿命は女性で87.71歳、男性で81.56歳。100歳以上の方は女性で69,757人、男性は9,766人もいます。人生長くなりましたよね……。
昔は100歳になるとお祝いとして自治体から「金盃」がもらえたのに、そのうち「金メッキ盃」に、さらに「銀盃」に代わって、今は記念品程度になりました。
Q.確かに昔はありました!
自治体が賞状と一緒に持ってきたりしていましたね。今は数が多すぎて対応できません。
Q.今40代の人がこれから長生きすることで、変わっていくことはたくさんありますか?
たくさんあります。40代の人は〈あと半世紀生きる覚悟〉をしてください。
Q.そんなに長いんですか……想像できないです。
そして、今の40代女子は“人生多毛作時代”に入ります。
50代というのは、家族を卒業する年代ですから「女の人生黄金期」と言われています。
まず、第一に子どもの手が離れるので教育費負担がなくなってきます。ただ、今は出産が遅くなってきているので、30歳で産んだ子どもが「大学院に行く!」などと余計なことを言って、教育年限が長くなる場合もありますが(笑)。
Q.先生も大学院に行っていたじゃないですか(笑)。
私が大学院に行ったのは「就職したくない!」という不純な動機でした(笑)。親にはもうしわけないことをした、と思っています。
Q.でも就職したくないから大学院に行く方は多いと思います。
私は大学院に向学心・向上心ゼロのモラトリアム入院をしたので、えらそうなことは言えません。「もっと勉強したい」といえば、親は騙せましたから(笑)。親は卒業までは面倒みるけど、それから後は自分で責任をとりなさい、と通告しておく方がいいですね。
まあ、それはさておき、一応これまでは、50歳は<親業卒業>の年齢です。それに加えて
①夫の定年まで時間がある
②自分の親や夫の親の介護適齢期までまだ少し時間がある。
③自分にまだ元気がある
この3つの条件が重なります。
ですので女の「黄金期」なのです。
Q.自由をいちばん謳歌できる時ですか?
そうです。場合によっては「卒婚」の時期でもありますし、人生をこれからやり直そうと思っても大丈夫です。
それこそ大学や大学院に行って資格を取ってもいい。50代の初めで資格を取れば、あと20年は働けますからね。全然OKです。
Q.確かに50歳ぐらいで大学入試を受ける方もいます。
50代で会社を早期退職して、転身する人もいます。サラリーマンを辞めて、自営業を始めるとか、地方に移住するとか。けっこう大きな選択をする方もいらっしゃいます。
Q.50代からでも、全く別の職業を始められるということですよね。
そうそう。
八ヶ岳南麓に私の仕事場がありますが、そこには50代で元気なカップルたちが移住してきています。どちらか一方が移住してきて、もう一方が都会に残って、行ったり来たりしているカップルももいらっしゃいます。
しかも、そういった二拠点生活のご夫婦は、わりと仲のいい夫婦が多いです。
人生多毛作です。50代で始めたことは、あと20年できる――そう思えば何でもできますよね。
Q.そういう話を聞くと、楽しそうな50代を送れそうな気がします。これからに希望が持てます!
あと、もうひとついいのは、女性の場合メノポーズ(更年期)が終わると体調がとても安定します。生理がなくなって最高よ(笑)。
Q.でも新しい仕事を始めてうまくいくかどうか、ちょっと不安です。
ちょうど私が50代の時に介護保険制度が始まったのですが、介護事業を起業して成功した女性たちが各地にたくさんいました。
その人たちがスゴいのは、起業する前にちゃんと先に行動を起こして、準備をしてきたこと。地元に根を張って、ボランティアやリサイクル活動をしたり、地域の人脈を広げてから起業をされています。介護保険前からやってきた活動に制度がのっかってきて、それまで食えなかった事業が食えるようになりました。
現在、50代で起業した方たちは70代になっていますが、今も元気に働いていますよ。自分で作った仕事がいいのは「定年がないこと」です。
Q.自分で決められるから仕事がやりやすいですよね。
はい。
50代の人は、あと20年働ける。でもその時に大事なのは、自分に「売るスキル」があるかどうかです。そして「やりたいことがあるかどうか」です。
Q.これからやりたいことを見つけなければなりませんね……。
何もない状態から、急にやりたいことを見つけることは難しいかもしれません。
でも、人間は半世紀ぐらい生きてくれば、人脈や情報などの蓄積がたくさんあるはず。それに自分には何が向いていて、何が苦手なのか、ある程度わかっていますよね。
大きなことを望まず、自分の身の丈に合ったことをやればいいんです。
Q.新しい環境に変えてみるのも手ですよね。
私が八ヶ岳南麓に新しい家を建てたのは50代の時です。
土地を買って、そこに家を建てるなんて、それまでの私は一度も考えたことがなかったんだけど(笑)。
そしてね、八ヶ岳に以前から住んでいた人に、「ここに家を建てる人ってどんな人なのかしら?」って質問してみたら、面白い返答があって。
Q.どういう返答だったのですか?
「そうね、東京で家を建てるのをあきらめた人たちかしら……」だって(笑)。たしかに東京でマンションを買うより安い値段で土地付きの家が持てますから。この続きは、また次回にお話します。
取材/東 理恵
上野千鶴子
1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。
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