みんなに同じ言葉を使っていない?シーン別「敬語」の使い分け
一口に“敬語”と言っても、上司やお得意様、同僚など、相手との親密度や内容の重要度・深刻度なTPO(Time/Place/Occasion)によって、言葉の使い分けがあります。
もし、マナーやビジネス会話の勉強をして、高度な語彙、礼儀正しい話し方を身に付けていたとしても、TPOに合っていなければ、相手に違和感を与えてしまいます。
たとえば、年の近い同僚に書類の提出期限を尋ねるのに、「大変不躾なお願いではございますが、提出期限を何卒ご教示くださいませ」などと送ると、距離を感じさせて、かえって失礼な感じになります。それは「締め切りはいつですか?」で十分です。
ここでは、同じシチュエーションでも、相手によって言葉を使い分ける例をご紹介します。
(1)初対面の挨拶で
■友人から紹介された人なら
「お会いできて嬉しいです」
■取引先の立場が上のほうの人、業界では有名な人なら
「お目にかかれて光栄です」
「お目通りが叶い、光栄に存じます」
(2)プレゼントや差し入れ、おみやげを手渡す時に
■同僚や付き合いの長い仕事相手なら
「たいしたものではないんだけど、良かったら」
「お口に合うか、分からないけれど」
■上司や顔なじみの取引先なら
「ささやかですが、よろしければ、お納めください」
■初めての取引先、気を遣う顧客なら
「ほんの心ばかりの品ではございますが、ご笑納ください」
※「心ばかりの」は、品物自体はたいしたものではないが、気持ちの一端を表す物としてお渡しします、という意味。
※「ご笑納ください」は、粗末な品なので笑ってお受け取りください、と謙遜した言い方です。
(3)お礼を言われた時に
■同僚や付き合いの長い仕事相手なら
「いいえ、どういたしまして」
「全然たいしたことないよ、気にしないでくださいね」
■上司や取引先、顧客に
「お役に立てたのでしたら光栄です」
「お力になれましたかどうか」
※仮定形や疑問形でいうと、控えめな印象です。
(4)職場や集まりから先に帰る時
■職場などから
「お先に失礼いたします」
※まだ残っている人が多いなか、早めに出る場合には、「すみませんが」などと気遣いの一言を添えても良いでしょう。
■取引先や目上の知人の同席する会食・パーティから
「この辺りでお暇(いとま)させていただきます」
(5)はっきり言えない内容を相手に察してほしい時
■同僚や付き合いの長い仕事相手なら
「ご理解いただけると幸いです」
■取引先や顧客に口頭で言うなら
「お汲み取りいただきますようお願いいたします」
■取引先や顧客にメール・書面で伝えるなら
「何卒ご斟酌(しんしゃく)いただきますようお願いいたします」
「ご賢察(けんさつ)の程、お願い申し上げます」
※「賢察」は賢さにより察すること。相手を立てながら、理解を求める言い方です。
気を遣いすぎて、かえって相手に失礼な印象を与えることを「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」といいます。
敬語が使えない「無礼」、使い過ぎる「慇懃無礼」、どちらにもならない「ちょうどいい丁寧さ」が必要です。
相手や状況、関係性を踏まえて、適度な言葉遣いを選びましょう。
文/吉田裕子 国語講師。塾やカルチャースクールなどで講師を務める他、『テストの花道 ニューベンゼミ』(NHK Eテレ)に国語の専門家として出演するなど、メディアでも活躍中。東京大学教養学部卒。
画像/PIXTA(ピクスタ)(Claudia、Fast&Slow 、Ushico、アン・デオール) 参考書籍/吉田裕子『大人の語彙力 使い分け辞典』(永岡書店)