現役開成ボーイぎん太さん×元校長先生対談「入学したら勉強どころじゃなかった」
──偏差値40台から、ほとんど塾に行かず、独自の「おうち勉強法」で開成中学に合格!現在開成高校在学中の現役高校生ぎん太さんが、家庭学習や中学受験の方法を紹介する『偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』が9月26日に発売。ぎん太さんの恩師である開成学園元校長の柳沢幸雄先生と素顔の「開成」について話していただきました。(後半はこちら)
もはや勉強どころじゃない……開成生の生活
──開成高校はどんな学校ですか?
柳沢幸雄先生(以下柳沢) 「今年で41年連続で東大合格者数トップの進学校」というと、「生徒はガリ勉ばかりなのでは」「入学すれば毎日厳しく勉強させてくれるだろう」と思われることもまだまだ多いんです。通学中も歩きスマホならぬ単語帳から目を離さない生徒ばかりだから人とぶつかっちゃう。多くの人にとっては、そんなイメージかもしれない。でも実際の中身は全く違います。いざ入学してから「こんなはずじゃなかった」「想像していた学校生活と違っていた」と思うことのないように、私は著書や講演で、開成の実際の姿を繰り返し話してきました
ぎん太さん(以下ぎん太) 開成は行事が多い学校です。毎年4月には、長い伝統を持つ筑波大付属高校とのボートレースがあります。中1の入学直後から先輩の指導のもと、応援の練習がはじまるんです。担任の先生から突然「これから先輩が来るから頑張ってね!」と言われ、体育館に連れていかれました。そこには大きくて何だか怖そうな高校生の先輩たちがズラッと並んでいて、「明日までに校歌と応援歌を覚えてこい!」と。当時は「この学校に通うと先輩のようになってしまうのか」と震えていたことを覚えています。ボートレースが終わると今度は5月の運動会の練習で、また教室に先輩たちがあらわれて……。「こりゃ、勉強どころじゃないな」と(笑)。
──このあたりがイメージとのギャップでしょうか?
柳沢「東大合格を目指して、毎日何時間も勉強しろ」なんてことは先生も先輩たちもいっさい言いません。新入生は今まで必死に勉強するのが当たり前だったでしょう。開成での生活は勉強以外にもやることがたくさんあります。入学後は、中学受験の勉強のやり方を一度断ち切ってもらうことになる。まずはそのギャップを埋めることが非常に大切です。とはいえ、開成は進学校なので入学してくるのは、小学校時代に学校や塾でトップクラスの成績だった生徒ばかりです。でも、上には上がいるから1学期の中間試験で己の真の実力を知ることになる。開成は一学年300人ほどの大所帯です。成績上位層だけが優秀という評価をしてしまったら残りはつぶれてしまいます。そういったやり方はとても教育とはいえません。学校の勉強で一番が取れなくてもいい。好きなこと、得意なことを見つけてその分野で活躍してほしい。入学してすぐの頃から色々な行事を体験するのはそんな思いもあってのことなのです。
名物行事・運動会で育まれる先輩との絆
──開成には先輩、後輩との固い絆があるようです。これは昔からの伝統なのですか
ぎん太 運動会の練習では高校3年生が下級生担当として、色々な相談に乗ってくれる制度があります。
柳沢 そうそう、上級生は実に懇切丁寧に学校のことを教えてくれます。その中で個人対個人の関係ができる。先輩・後輩同士で交換日記をするんだよね。
ぎん太 運動会の練習についても先輩に交換日記で相談していました。開成の運動会は大がかりなもので、多くの生徒が楽しみにしている名物イベントです。生徒たちはチームごとに分かれ、だいたい1ヶ月くらいかけて、騎馬戦や棒倒しなど各競技の研究をして実践に臨みます。先輩との交換日記で、練習で感じたことや悩んでいることを書くと、翌朝返事を書いて返してくれるんです。
柳沢 先輩とのやりとりには、運動会当日に向けた秘密の作戦なども細かく書いてあります。生徒たちは家族にも見せられないと風呂場で読んだりするそうですよ。
──自主自立を重んじる進学校が多くありますが、開成ならではとか、開成に入って良かったと思われる点はありますか。
ぎん太 生徒会、運動会、文化祭準備委員会と委員会組織がたくさんあります。いざ委員会の役職につくと帳簿をぽんと渡されて、管理を任されます。生徒会ともなると、何千万というものすごい金額が動いているそうで、責任重大です。勉強や部活に限らず、社会に出てからも役立ちそうな組織のルール作りや予算、書類作成の方法まで実地で学べる機会がとても多い学校だと思います。
柳沢 例えば運動会当日の仕事だけでも、警備、受付、審判など色々な役割があって時間配分もしなきゃいけない。この経験がある生徒はアルバイトのシフトも簡単に組めるんです。今、会計の話が出ましたが、各クラブから上がってきた予算書を査定して、金額を決める仕事です。つまり、国の予算を扱う財務省の主計官と同じ事を実際にするわけです。今までそういった経験をしてこなかった生徒はどうやって業務にあたればいいのか迷ってしまいます。でも、開成には政財界に多くの先輩がいるから、その気になればアポを取って、「査定について教えてください」とプロに聞きに行くこともできる。他の学校では得られないようなことを学ぶ機会が多いのも開成の特色の一つです。
『偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』(ぎん太・著)より
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とにかく自由! 開成生のファッション
──開成には厳しい校則がなく、髪型や服装も比較的自由なようです。
ぎん太 学年で「スマホの使い方のルールを決めよう」と話し合うようなことはあるのですが、校則自体はとても少なくて「制服を着なさい」「外出するときは届けを出しなさい」といった程度です。髪を染めてはいけないなどといった厳しい校則はまったくありません。着替えが面倒らしく、制服の下にパジャマを着てくる奴もいます。朝起きたらパジャマの上に制服を羽織ってそのまま出てくるらしいです。制服はありますが、上にパーカを着てくる人もいるし、本当に自由ですね。
校長 詰襟に黒ボタンの制服に誇りを持っている生徒が多いから、なかなか制服をなくそうという話にはならないんだよね。
ぎん太 体操着も指定がなくて、白を基調にしていればいいという程度の決まりなのでユニクロで買えば十分という人が多いです。だから服装にはお金があまりかからなかったですね。運動会のときはチームカラーのTシャツを作ります。運動会後、先輩たちが後輩に着ていたTシャツをくれることが多いんですよ。運動会は8チームに分かれて闘います。運動会後の体育ではみんなそれぞれ先輩にもらったチームカラーのTシャツを着ていて、体育の授業風景がやたらとカラフルになります。
柳沢 学校ではみんなのびのびと過ごしているから、牧場の放牧みたいな感じで、気が付くと外に出ようとする生徒も多くて。柵を乗り越えそうなやつはちゃんと中に戻すんだけど……。避難訓練の時など、点呼して誰かがいないとなると大変だから、「外出してもいいから届けは出しなさい」と口を酸っぱくして言ってるんですけどね……。
男子校の恋愛事情は……?
──ぎん太さん、目が泳いでいるのはなぜですか(笑)。開成の恋愛事情も気になっています。
ぎん太 どうなんですかね。高校入試で入ってくる場合、塾や中学で出会いがあるみたいで、彼女がいる子も一定数いるんです。それ以外は本当に出会いがほとんどない。それでもあきらめずに相手を探す子もいますが、「別に興味ない。大学入ってからでいいや」と諦めている子が大半かもしれないです。
柳沢 どうしてもガールフレンドが欲しいというなら、自分で探せばいい。高校から入ってくる生徒に紹介してもらったり、文化祭に行ったり自分でつてを探せば方法はいくらでもあるよね。
自分の進路は自分で決める
──開成の生徒は、将来の進路についてはどのように考えているのでしょうか。
柳沢 進路指導で聞くのは本人の志望校だけです。開成の生徒ってものすごくあまのじゃくです。教師が「君はこの学校を受けなさい」なんて言ったら、それと全く反対のことをしてやろうと思うかもしれない。生徒たちの多くは皆、自分で最終的な進路を決めます。こちらが何も言わなくても、あるクラスでなぜか、東大の理Ⅲを志望する生徒が続出したという年もありました。
──学校によっては「君は理系に行け」「この大学を受けろ」と言われることがあると聞きますが……。
ぎん太 それはないですね。仲間内で「お前は文系。そっちは理系だな」なんて話すことはありますが、親や先生から、この学校を目指せと言われたことは全くないです。先輩とのつながりが強いので、卒業した先輩たちの進路もよく話題に上りますし、実際にOBのいる大学を見に行く機会も多いんです。僕自身もそうやって「あの大学に行きたい」と志望校を決めたところです。クラスの仲間同士、普段の行事や部活、生徒会活動などに全力投球しながら、だんだんと受験に向けて盛り上がっていく。そんな雰囲気になっています。
(後編はこちらから)
ぎん太さんの勉強法、開成の話をもっと詳しく知るなら……
偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法
(ぎん太・著)講談社
開成学園に通う現役高校生が、実体験をマンガで描いた、今までにない斬新な教育本!WEBサイトにて、累計600万PV超の大人気連載、待望の書籍化!!
作者のぎん太君は、小さいころから落ち着きがなく、人に迷惑をかけてばかりの問題児。将来に不安を感じたお母さんが編み出した、「遊びながら自然と学べる独自の教育法」で、メキメキと才能を伸ばし、ほとんど塾に行かずに自宅学習で開成中学に合格!
ぎん太君のお母さんの「勉強法」とは、「なるべく机に向かう時間を短く!」「なるべく楽しい方法で!」という信念の元、しりとり、カルタ、パズル、歌など、楽しい遊びのなかに、知的好奇心を刺激されるような、工夫や仕掛けを施すもの。幼少期から、中学受験まで、年齢問わずアレンジしながらずっと使えるテクニック満載の一冊です。
ぎん太さん
開成高校在学中の現役高校生。家庭での学習法や塾にほとんど行かずに中学受験した経験を公開し話題に。現在、with online(講談社)にて「賢さ控えめ開成ボーイぎん太の家族とおうち勉強法」を連載中。公式ブログ「ぎん太の家族と、おうち勉強法と開成生活」
柳沢幸雄先生
東京大学名誉教授。北鎌倉女子学園学園長、前・開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部卒業後、日本ユニバック(現日本ユニセス)勤務を経て、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から開成中学校・高等学校校長を9年間務めた後、2020年より現職。
取材・文/髙田翔子
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