開成学園元校長・柳沢幸雄先生「入試結果よりも注目すべきは中1の学年末試験です」
塾にほとんど行かない、あまりお金をかけない「おうち勉強法」で開成中学に合格したぎん太さん。初の著書となるコミックエッセイ『偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』は幼児から小学生~まで受験する人もしない人も役立つ話題が満載です。現在、開成高校に通う現役高校生であるぎん太さんが、恩師である開成学園元校長の柳沢幸雄先生に、勉強のこと、子育てのことを質問しました。(前編はこちら)
共働き家庭の子育てのヒント
ぎん太さん(以下ぎん太) 僕の場合は、母が専業主婦だったので、一緒に家庭で過ごす時間が長かったのですが、今は共働きのご家庭も多いですよね。
柳沢幸雄先生(以下柳沢) 今は夫婦ともに働いているケースも多くなったね。私は育児をする上で重要なのは、「長い時間を一緒に過ごすこと」だけではないと思っています。仕事や家事で忙しくても、たとえば週末のこの時間だけは一緒に過ごすと考えて、その間だけは子どもを第一優先にする。それがたとえ週に一度だけであっても意識して時間を捻出することができるといいと思います。
ぎん太 勉強が嫌いになっちゃったとか、学習習慣がもともとないので困っている、といった悩みもよく聞きます。
柳沢 何も「勉強とそれ以外」にきっちり分ける必要はないと思うんだ。生きるためには生活力をつけなくてはいけない。そのためには多くの知識が必要になるし、家事の一つひとつも勉強になるはずです。たとえば料理の味付けをするときに、よく言われる「さしすせそ」。子どもは「なんで最初が砂糖なのかな?」と思いますが、「そうか。浸透圧の関係なんだ」と分かると学習につながってくる。料理をするには、色々な知識や経験が必要だということがわかります。普段の家事をやらせると、それだけで子どもをほめるネタがいくつでも見つかります。そういった場面では子どもを具体的にほめてあげこと。料理をさせるとはじめは下手でも、卵を割ったときにカラがボールに入らなかったとか、卵焼きが作れるようになったとか、一つひとつ具体的に、成長をほめることができます。それは子どもにとって自信につながるし、親も子どもの得意、不得意が何なのかわかりやすい。机に向かってする勉強だけを重視するのではなく、家の仕事を学びにつなげていくのはとてもよいやり方だと思います。
中学受験……もしも志望校に受からなかったら
ぎん太 僕自身、中学受験ではいくつかの併願校に落ちるなど、挫折も経験しました。これから中学受験を考える人にとって大事なことはありますか。
柳沢 いちばん大切なのは最終的な進学先が子ども本人にとって良い場所だと思えるようにしてあげることです。中学受験で第1志望の学校に入学できる子どもは全体の一割程度でしょう。本人にとって不本意な結果が出ることは少なくありません。「中学受験の入試結果と、その後、高3の大学受験の結果にはあまり相関関係がない」と多くの教育関係者が言います。中学受験で成績が良かった生徒が必ずしも難関大学に合格するわけではなく、その逆も多いのです。むしろ注目すべきは入試結果よりも、中1の学年末試験の成績です。これは出口を予想する重要な情報になります。お子さんが進学先に納得し、環境に馴染んでいるかどうかのバロメーターになるからです。たとえ志望校でなくても、自分の居場所を見つけて心地よく過ごせていれば、おのずとその後の成果につながっていくと思います。
「大人になったわが子」との時間は宝物
柳沢 例えば、親の人生を考えたとき、子育て中心の時期はだいたい子どもが生まれてから大体10年ほどの間なんですよ。中高生になると、反抗期もあるし一人でできることが増えてだんだんと親の手を離れるようになる。子どもが成長し、「親と子のお互いが大人同士」である時間を過ごせるということは、子育てをするうえでの大きな喜びであると私は思う。
人生の初めと終わりは「世話している、されている」状態なんです。親は生まれたばかりの子どもの世話をして、親が年をとったら今度は子どもが世話をすることも多くなる。ちょうどその間にある子どもが成人した後の時期は、お互い大人同士の会話ができてとても楽しいものです。だから、子育てをするときは、なるたけ早く子供を自立させることを目標にするのがいいと思います。そして親は、年を取ってもできるだけ健康でいることを心がけるといい。わが子と「大人」として付き合える時期はかけがえのないものだと思います。
(前編はこちらから)
ぎん太さんの勉強法、開成の話をもっと詳しく知るなら……
偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法
(ぎん太・著)講談社
開成学園に通う現役高校生が、実体験をマンガで描いた、今までにない斬新な教育本!WEBサイトにて、累計600万PV超の大人気連載、待望の書籍化!!
作者のぎん太君は、小さいころから落ち着きがなく、人に迷惑をかけてばかりの問題児。将来に不安を感じたお母さんが編み出した、「遊びながら自然と学べる独自の教育法」で、メキメキと才能を伸ばし、ほとんど塾に行かずに自宅学習で開成中学に合格!
ぎん太君のお母さんの「勉強法」とは、「なるべく机に向かう時間を短く!」「なるべく楽しい方法で!」という信念の元、しりとり、カルタ、パズル、歌など、楽しい遊びのなかに、知的好奇心を刺激されるような、工夫や仕掛けを施すもの。幼少期から、中学受験まで、年齢問わずアレンジしながらずっと使えるテクニック満載の一冊です。
ぎん太さん
開成高校在学中の現役高校生。家庭での学習法や塾にほとんど行かずに中学受験した経験を公開し話題に。現在、with online(講談社)にて「賢さ控えめ開成ボーイぎん太の家族とおうち勉強法」を連載中。公式ブログ「ぎん太の家族と、おうち勉強法と開成生活」
柳沢幸雄先生
東京大学名誉教授。北鎌倉女子学園学園長、前・開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部卒業後、日本ユニバック(現日本ユニセス)勤務を経て、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から開成中学校・高等学校校長を9年間務めた後、2020年より現職。
取材・文/髙田翔子
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