俳優・吉田鋼太郎さん「親友・小栗旬さんと同じ舞台に立つことは喜び」

戦争に振り回される人間たちを描くシェイクスピアの歴史劇『ジョン王』。12月に始まる同舞台でジョン王、フランス王を演じ、さらに演出も務める吉田鋼太郎さんに独占インタビュー。2年半越しの上演に向けての意気込みや、主演を務める親友・小栗旬さんへの期待を存分に語ってくれました。

お話を伺ったのは……俳優・吉田鋼太郎さん(63歳)

世相が変わっても芝居への情熱は変わらず。今だから届けられることとは

2年半前に新型コロナウイルス感染症の影響で『ジョン王』が全公演中止になってしまいました。今回こうして上演できることになりましたが、まだコロナが収まったわけではないので、今も「どうか最後までできたらいいな」という気持ちでハラハラドキドキしていますね。一度中止にはなってしまったけれど、もう一度やるぞという空気が徐々に高まってきて、楽しみのような怖いような…。稽古も始まり、「演技だけじゃなく演出もちゃんとやれよ」と言われると怖いなと思いながらも、改めて気を引き締めて挑む決意です。 この2年半の間にコロナだけではなく、ロシアとウクライナの争いもあり、かなり世相が変わりました。そのため、当初予定していた演出やプランを全部見直さなければならないことになって。こういう世の中でどう芝居をしたらいいのか、どういう芝居を作ったら人の心に響くのかということをかなり慎重に考えていかないといけないと感じています。 テレビで戦地の映像を見ると、怪我をしてしまった子供の姿が映し出されていました。去年子供が生まれたのもあり、ものすごく胸が痛くなって。決して他人事とは思えなかったのですが、作り手としてその「他人事じゃない」感は絶対大事にしておかなきゃ、お客様の心に響く芝居はできないんじゃないかと感じました。そして心が傷んでいる今だからこそ表現できることもあると思うんです。

親友・小栗旬さんと同じ舞台に立つことは喜び。演出を担当することはプレッシャー

『ジョン王』では主演を小栗旬くんにお願いしました。実は俳優としての小栗くんと同じ舞台に出て、がっつり絡んだことはあまりないんですよ。いよいよ本格的に共演できるので二人で喜んでいるところです。 小栗くんは今回、彩の国シェイクスピア・シリーズに出るのが16年ぶり。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を1年やって、さらに成長した小栗くんがシェイクスピアにどうやって挑んでくるのかものすごく楽しみですね。僕にとっては待ちに待ったシリーズなんだけど、彼はガチガチになっていて。前回の『ヘンリー八世』や『終わりよければすべてよし』などの舞台は全部見に来てくれたんだけど、見終わったら「ここは面白くなかった」とか正直に言ってくれたんです。でも今は「俺にできるかな…」って珍しく気弱な部分もあったりして、逆に楽しみになってきています。 彼も言ってるし、僕も感じることなんですけど、小栗くんは憑依型の俳優ではないんですよ。僕はその役になりきって怪我してしまったりすることもあるんですが、小栗くんは客観性があって、それが彼の良さではあると思うんです。だけど、今回は是非、髪の毛を振り乱して徐々に憑依してもらいたいな。ドロドロになって涙を流してぐちゃぐちゃになっていく小栗くんが見たいなと思っています。ただ、『鎌倉殿』の評判がとても良かったので、今回演出でどう魅せるかという点でプレッシャーは非常にかかりますね(笑)。

こんな時代だからこそ、人の話を聞く力を磨いていきたい

明らかに僕たちが若い時と時代が完全に変わりました。時代の変化を感じるすべての根源はSNSだと思うんだけど、ちょっと息苦しい時代になったなと感じます。でも、これが正しい姿なんだと自分に言い聞かせるようにはしていて。今の時代についていけないと言っていると、本当に取り残されてしまうので。役者として、テレビやニュースで若い人たちや発言力のある方々が、今何を問題にしているのかを気をつけて見たり聞いたりするように心がけているところはあります。 また、外に出て人と飲んだり食事をする機会がコロナで極端に減ったので、お酒を飲まなくなりました。元々、家でお酒を飲まないですし、飲みながら人といろいろな話をする機会が減って、どこか自分がこの時代に取り残されているのではないかと感じることがあります。その分、人と話す機会があると、皆さんの一言一言にきちんと耳を傾けるようになりました。世の中に対して、「息苦しい」と独り言のような愚痴をこぼしても何も変わらないので、聞く力を磨くことはいくつになっても忘れずにいようと思います。

マスクで口元が隠れていても、相手の目を見て自分の気持ちを伝えることが大事

聞く力も大切ですが、伝える力も今まで以上に必要な世の中になっていると感じます。相手の目を見て自分の気持ちを伝えようとしてくれる方って男女問わず魅力がありますよね。それが嫌味でも押し付けがましくもなく、心を鷲掴みにするような話し方をする方は特に。人見知りというか、相手に伝えたいことがあるけど、なかなか人の目を見て話すというのは勇気がいる人もいるじゃないですか。特に相手が異性だったり、年上だったりすると。 そもそも直接人と話をすること自体がここ最近ずっとできなかった人も多いかもしれません。でも、人と繋がることでストレス解消になったり、メンタルも保つことができるので、ちょっとした会話だったとしても大事にしたいですよね。そして人に何かを伝えるとき、自分は話が得意じゃないからと諦める前に少しずつでいいので気持ちを言葉にすることの大切さを今一度感じてほしいです。マスクはしていても、相手の目を見ることはできますから。僕自身もこうして直接人と会って話をできるのが当たり前であることに感謝する毎日です。

▼インタビュー後編はこちら
吉田鋼太郎さん(63歳)「今、一番キレイなのは50代の女性」

 

《吉田鋼太郎さんプロフィール》 1959年1月14日生まれ、東京都出身。上智大学在学中に『十二夜』で初舞台を踏む。シェイクスピア・シアターや東京壱組を経て1997年に劇団AUNを旗揚げ。1998年の第6回読売演劇賞優秀男優賞をはじめ数々の賞を受賞している。2016年には蜷川幸雄の後を継ぎ「彩の国シェイクスピア・シリーズ」2代目芸術監督に就任。主な出演作は、朝の連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)や『おっさんずラブ』(テレビ朝日)、『おいハンサム!!』(東海テレビ)などのドラマや、映画『カイジ ファイナルゲーム』、『孤狼の血 LEVEL2』など。

〈Information〉 彩の国シェイクスピア・シリーズ 『ジョン王』 作:W.シェイクスピア 翻訳:松岡和子 上演台本・演出:吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督) 制作:公益財団法人埼玉芸術文化振興財団/ホリプロ 企画:彩の国さいたま芸術劇場シェイクスピア企画委員会 ★東京公演 上演時期:2022年12月26日~2023年1月22日 劇場:Bunkamuraシアターコクーン ★埼玉公演 上演時期:2023年2月17日~2月24日 劇場:埼玉会館 大ホール ★愛知公演 上演時期:2023年1月26日~1月29日 劇場:御園座 ★大阪公演 上演時期:2023年2月3日~2月12日 劇場:梅田劇場シアター・ドラマシティ

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