BiSHモモコグミカンパニー「迷惑のかけ合いは愛」ネットでも“人の絆”は生まれる?

2021年末に初の『NHK紅白歌合戦』出場を果たし、2023年をもって解散することを発表した”楽器をもたないパンクバンド”BiSHのモモコグミカンパニーさん。本誌9月号の新時代創作プロジェクト連載「1PICTURE1STORY」vol.4で、初の”超短編”小説『インターネットダイビング』を綴った彼女が、作中テーマでもある現代の”絆”を語り尽くします。

「(パートナーであるイラストレーター)からんころんさんの水をモチーフにした作風ありきでスタートしたのもあるんですが、液晶画面と水がリンクしているように感じて。そしたらネットとリアルの境目を、からんころんさんがすごく上手に表現してくださいました。

『インターネットダイビング』というタイトルは、思いついた瞬間に”絶対これだ!”と。ダジャレみたいなんですけど、『液晶画面も液体だからダイブできちゃうんじゃないか』と考えました。

スパッと出てき過ぎて、『もしかしてどこかで聞いた曲のタイトルだったんじゃないかな、邦ロックとかにありそうだしな』とすぐに検索しましたが……出てこなくてホッとしました(笑)。全部カタカナで表現したところが、ネット上のある種の冷たさを表現できているように思えて、自分でも気に入っています」

インターネットを舞台に、人間関係を見つめ直すのが本作のメインテーマ。

「私にとって書くことは”心の拠り所”で、そこが小説の内容ともリンクしています。この作品はインターネットに居場所を求めている大学生の男の子”僕”と顔の見えない女の子”彼女”の物語なんですが、私はネット上の”心の拠り所”って必要だと思うんです。

たとえば、数年前までSNSの裏アカには”ストレスを発散するための悪口が書いてある場所”というイメージがありましたが、今は裏アカで”ほかの自分”を持っていることが当たり前ですよね。リアルな世界だけじゃなくて、ネットでしか会えない人や、そこでしか会えない自分って、現代でうまく生きていくために欠かせないものになっていて。

とくに今はコロナ禍ですし、人とのつながりを”外の世界”だけに持てない人も多いと思います。『インターネットダイビング』の主人公”僕”も、コロナ禍で対面授業が始まらなくて学校では人間関係が築けないから、ネット上のコミュニケーションを”本物”だと感じているひとりです」

現代の人のつながりについての洞察は、音楽活動で得た実感が基になっているそう。

「BiSHの活動でも、以前は特典会でチェキ撮影や握手をする機会があって、リアルで会った人とTwitter上の人が『この人はこのアカウントだよね』という感じで同一人物だとわかっていました。でも今は、TwitterやInstagramでリプライをくれる人と、ライブに来てくれて目の前にいる人の同一性をほとんど把握できていません。

SNSでしか会えない人も、逆にSNSではつながっていない人も、たくさんいるはず。だから、”画面上のつき合いはリアルじゃない”という考え方は時代遅れに感じますし、完全に分けられるものではないと思っています」

「誰にも迷惑をかけずに消えたい」あなたへ…ゼロヒャク思考を脱するための“魔法”

モモコさんは『インターネットダイビング』に、明確なメッセージを込めた。

「まず書き始めるときに、若い世代の読者の方たちに『どこにでも逃げていいんだよ』と伝えたいなと思っていました。たとえば自分の部屋とか密閉された空間で過ごしていてネットにだけ友達がいる人でも、恥じることなく『ネット上だけどれっきとした友達なんだ』って思っていいんです。

作中の”彼女”もそうですが、ネットでもリアルでも、やりとりしてた人がある日パッタリいなくなることが多いように感じていて。でもそれは自分にも言えることで、ある日突然『もうどうでもいい、全部やめちゃおうかな』と思っちゃうこともありえますよね。

でも、いなくなるくらいだったら、どこにでも逃げ場所を求めていいんじゃないかと思っていて。誰もがリアルを楽しむのが正解とは限らないし、居場所が液晶画面の中でもいいんです。だから、『自分が信じたい自分を信じていい』とも伝えたくて。ネットの中のほうが生きやすいんだったら、ネット上の自分を”本当の自分”だって思ってもいいじゃないですか」

メッセージを託した、大切な言葉がある。

「『誰にも迷惑をかけずに消えたい』というキーワードが登場します。書く前から私、この1文だけは入れたいなって思っていて、からんころんさんにもイラストに描いていただいたんです。

ネットに拠り所を求める人は、リアルでは自分はひとりだって孤独意識をもってしまうことも多いと思うんですけど、たとえ自意識がそうでも、実際には誰にも迷惑をかけずに消えることは不可能なんですよね。理由を挙げればキリがないんですけど、どれだけ自分ではひとりで生きていると思っていても、誰にも迷惑をかけないのは絶対ムリだと伝えたくて。だから、自分はひとりぼっちで消えたいと思っている人に響いたらうれしいですね。

じつは私自身、誰にも迷惑をかけないんなら消えたいなって思うことがあるんですよ(笑)。でも迷惑はかかりますし、自分の大切な人を絶対に悲しませます。BiSHのモモコグミカンパニーでいえば、もはや自分のものだけじゃなくて、誰かの一部になっている。つまり消えたら誰かをたくさん傷つけてしまうっていうことだから、消えないようにしようと思い直しています。

『インターネットダイビング』でも画面の中だけにいる”彼女”が消えたら、”僕”にとっては迷惑なわけです。同じように、少しでも自分以外と関わったことがある人なら、消えたら必ず誰かの迷惑になる。『迷惑』という言葉は聞こえが悪いですけど、そんなに悪いものじゃなくて、愛になったりするわけじゃないですか。私、迷惑のかけ合いは愛だと思っていますから(笑)」

そしてこの物語には、生きづらい人が少しでも生きやすくするための”魔法”がかけられている。

「リアルに居場所がないから消えるというのは、ゼロヒャク過ぎる考え方だと思います。”どこにでも逃げていい”というのは、言い換えれば完璧に生きなくてもいいということ。実際はネット上の人格はひとりの人間だって認められにくいかもしれないし、ネット上で出会った人が友達だと言ったら笑う人もいるかもしれません。でも自分が友達だって思ったら、間違いなく友達ですよね。

そういう意味で、ネット上の人格は100%の人間じゃないかもしれませんが、ちょっと透けてるぐらいの”50%の人間”でもいいじゃないですか。とはいえ人間、ゼロヒャク思考に陥ってしまうこともあるでしょう。そんなときは、”半透明”な人が友達でもいいと思うこと、その半分を大切にすることを忘れなければ、少しだけ生きやすくなると思うんです。

完全な一歩を踏み出すのはけっこう大変だから、半歩でも0.3歩でも、0.01歩でもいい。少しでも進めた自分を認めてあげられたら消えずに済むし、もうちょっと消えずに生きてみようかなって思えるようになってほしいなという願いを込めて書きました」

そこには、ほかならぬモモコさんの生き方が影響している。

「私自身が、すごく極端なゼロヒャク思考なんです。うまくできないくせに、間違えたり大舞台で下手こいたら『もう、いなくなるしかないや』という(笑)。たとえば、ライブに遅刻したら消えるしかないとか、この人と喧嘩したらもう終わりだとか。でも、実際はメンバーやスタッフ、ファンの人はみんな許してくれるはずなんですよ。

消えるしかないと思ってしまうのは、自分が助けを求めてないから。助けを求めるのも下手なんです、私。リアルの人にでも”半透明”の人にでも、ポロっと愚痴のようにこぼすだけで、ずいぶん楽になると頭ではわかっているんですが、勇気がいるなと尻込みしてしまうので……。私がいちばん、生き方が下手かもしれません」

手紙もSNSと同じ「画面上の絆」手書き文字に表れる性格とは?

一方モモコさんには、リアルやSNS以外でも、”顔の見えない人”とのつながりを感じていることがある。

「3月に『御伽の国のみくる』という小説を出させていただいたとき、期間中(終了済み)に応募してくれた全員に往復はがきで返信するという企画がありまして。今でも1日100枚とか……時間を見つけては信じられない量のお返事を書いているんですが(笑)、文面で感情を吐露してくれる方が多いんです。

はがき上でしか会えない人たちなんですけど、私はすごく”絆”を感じていて、全部に目を通しています。SNSでも日々たくさんリプライをいただきますし”絆”は感じているんですが、はがきは手書き文字な分、その人の性格がわかりやすくて好きですね。

小さい文字でぎゅうぎゅう詰めに書く人もいれば、イラストを枠いっぱいに描いてくれる人もいたり、反対に1行だけの人もいて。他人の文字を見るのがそもそも大好きなので、全部おもしろいなって思っていて、一人ひとりをできるだけ感じようと1枚1枚その人のことを想像しながら読んでいます。

もちろん小説の感想がいちばん多いですが、”誰にも言わないでください”って秘密を明かしてくれる方もたくさんいて。私がすごく励まされたのは、『また書いたら読みます』というコメント。がんばって書かなきゃなって思うモチベーションになります!」

『御伽の国のみくる』の読者には、おもしろい傾向がある。

「往復はがき企画をやったからかもしれませんが、『御伽の国のみくる』は読者さん同士が横のつながりで感想を交わすより、ハガキのように私とそれぞれ一対一の関係でつながる作品だなと感じています。ツイッターでも感想を話し合っている人はあまりいないんですが、DMで私に感想を送ってださる人はけっこういて。

それは、キャラクターに自己投影をして、自分自身と向き合いながら読んでくれてるからかなと思っています。私自身もそうやって書いていたので、うれしいです」

最後に、モモコさん自身はリアルとネット上、どちらのほうがお好きですか?

「私は……リアルよりTwitterのほうが生きやすい人間です(笑)。でも最近は、Twitterの自分のアカウントが昔よりフォロワーさんも増えて怖いなあと思います。もともとはひっそりやっているただ楽しい場所だったのに、リアルと切り離せない”社交の場”になっている気がしていて、今は下手につぶやけないなとは感じているんです。

でもライブ中は話せないですし、さらにコロナで声出し禁止になってしまったので、来てくれたファンの人がどんな気持ちで見てくれていたかをTwitterのリプライで見て安心しています。こういう子が来てくれていたんだなというのを、しっかりTwitterで見ていますよ、私は」

<PROFILE>
モモコグミカンパニー/BiSH(ももこぐみかんぱにー/びっしゅ)
2023年をもって解散することを発表した“楽器を持たないパンクバンド”BiSHで、2015年の結成時から活動中。メンバーの中で、もっとも多く作詞を手がける。2018年に初の著作『目を合わせるということ』を刊行。2022年3月に上梓した長編小説デビュー作『御伽の国のみくる』(河出書房新社)が好評発売中
Twitter:@GUMi_BiSH
Instagram:@comp.anythinq_

Photo_Takuya Iioka Hair&Make-up_Yumi Hosaka[éclat]