【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.13】SE女子頑張れ! オジさんたちが過去、職場配慮差別した問題。
進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。
【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.12】コロナ禍であぶり出されたIT後進国の日本。そして理系女子が少ない問題。
「デジタル社会と男女」について②
Q.実は私、大学ではSE養成のための「パソコン学科」にいたんです。〈商学部の経営情報学科〉というところで、大学入学の条件が、学校指定のノートPCを買うこと。あと、〈女子特別推薦〉という枠で、いざ入学してみたら、必修クラスは50人中、女の子が6人だけ! 学科全体でも、女子は20人ほど。同学科の女子はみんな顔を知っていて、仲も良かった。逆ハーレムで楽しかったです(笑)。
そのスキルは今活きていますか?
Q.いや、無理だったんです。私には全然合わなくて……。
えっ? 合わなかったの? せっかく情報関係に進んだのに。
Q.残念ながらそうなんです。これからはPCの時代だ! と思って入ったものの、プログラミングが全くできなくて。丸い円を書く簡単なプログラミングさえもできなくて「こりゃダメだ……」と挫折しました。できるようになったことは、ブラインドタッチだけ(笑)。
結局、その学科でSEの道に進んだ女子はたった1人。
では、そうやってSEになった女性のその後を知っていますか?
Q.知らないです。
社会学者の大槻奈巳さんがとても面白い研究をされています。IT起業の男女SE(システム・エンジニア)の採用10年後の比較研究です。
(*大槻奈巳『職務格差 女性の活躍推進を阻む要因は何か?』勁草書房、2015年)
採用時は完全に能力主義の総合職採用で入社した男女SEを、10年後比較してみてわかったのは、ポストと給与の差がついていたことです。
10年の間に、女性SEは保守点検業務中心の女性向け配置を受けていました。他方、男性は新規プロジェクトのような挑戦的で新しい仕事を配当されました。管理職のアンコンシャスバイアスによる誘導の結果、女性SEと男性SEとのあいだにスキルとポストの差がついていたのです。
配慮という名の差別です。
そういうことが職場の中で無意識に起きてしまっていたのです。
それまでの工業社会、例えば「重化学工業」などは“男の仕事”と考えられてきましたが、IT産業には腕力もいらないし、スキルに男女差はありません。だから情報化の初期には〈情報化社会ではジェンダーギャップが解消されるだろう〉、〈ソフト化エコノミーや情報革命が「家父長制」を解体するだろう〉と楽観視していた人たちもいました。
にもかかわらず、情報革命から20年以上経った今日、ジェンダー研究からわかったのは「情報革命はジェンダー格差を解消せず、ただ再編成しただけだった』」いう事実です。
同じIT企業の中でも男女の格差があって、女性が下位に置かれていた、という事実が大槻さんの研究でわかりました。
〈女性をどう処遇するか〉というオジサンたちのアンコンシャスバイアスは非常に根深いようです。
Q.やっぱり配置が違うのですね……。
人の能力はポジションで育つものです。リーダ―シップだって、リーダーの立場に立つことで育ちます。女性にリーダーシップがないと言われますが、リーダーシップを発揮する機会が与えられなかっただけです。いちばん罪深いのは、オッサン粘土層と呼ばれる中間管理職ですね。
Q.そういえば、ある大企業が「これから力を入れるのはデータだ!」と言い、TVのニュースで会議風景が写っていましたが、みんなオジサンだらけ……でした。デジタルやITといったジャンルこそ、実はオジサン社会が残っているのでしょうか。
今は第四次技術革新、AI革命の時代と言われています。
AIはディープラーニングができると言いますが、AIに読み込ませるデータは全部既存のもの。
アメリカのある研究では、AIに面接させると“性差別と人種差別を再生産する”ことがわかりました。人間が過去にやってきたことを学ぶわけですから、AIはオジサンたちの経験の蓄積を取り込んでしまうのです。
AIは自ら学習するって言うけど、自己変革するとは思えません。
Q.悪いところも取り込んでしまう……。AIも善し悪しですね。
AIに取り込むのは人間の得た情報ですから。AI以前に人間がアップデートしないといけないんです。
Q.人間自体が更新されたデータを入れないとダメですね。
そうです。
それだけでなく、スマホユーザーとPCユーザーの情報格差がこれからもっと拡大するでしょう。
主婦の方たちはほとんどスマホで情報処理をすませますよね。
今はどのサイトもスマホ対応に力を入れていて、主婦の方たちはスマホを使いこなすのがとても上手です。
私は、実はスマホが苦手で、PC派です。TwitterもPCに向かわないとやれないほど、キーボードがないとできないんです(笑)。タイプライターやワープロ世代だったものですから。
Q.私もワープロ世代、キーボードがないと打ちにくいです(笑)。
スマホで、QRコードとかを処理しているとほとんど不便を感じませんよね。最近の学生はちょっとしたレポートもスマホで書いてしまうようです。ですが実際にPCを使ってみると情報処理の質も量も格段にアップします。スマホでは卒業論文や学位論文は書けません。
これまでの調査によるとスマホユーザーとPCユーザーとが分極化して固定する傾向があることがわかっています。そうなればスマホユーザーとPCユーザーの情報格差は拡大し、その情報格差が経済格差につながるでしょう。
子どもにPCをいつ与えるか迷っている親を見ますが、迷っている場合ではない、スマホやタブレットより、本格的なPCを早い時期に与える方がよいと思います。その上で、ネットの正しい使い方をきちんと教えるべきでしょう。
取材/東 理恵
上野千鶴子
1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。
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