【アートで共創教育 連載vol.10】直感的な色彩感覚が大事!――デジタルアートの世界で子どもから教えてもらったこと
行ったことはあるけれど、ただ「きれい!」で終わってませんか? チームラボボーダレス――この新感覚ミュージアムが目指す「共創社会」について、子どもたちと一緒に考えてみます。
【アートで共創教育 連載vol.9】デジタルな河原の中での飛石遊びに母が思ったこと
デジタルは色のコントラストがわかりやすい! 直感的な色彩感覚が養えそうだ
私の息子、運動は得意ですが、絵がとっても苦手。実は私もそうだったので、小中高時代の図工や美術が好きではありませんでした……。
でも、絵を描くのが苦手な人に、いえいえ、そればかりか絵が得意なマンガ家の人たちにも役立つのがデジタルツールです!
チームラボボーダレスには、「チームラボ」の名前を一躍有名にした代表的なアートがあります。それが、アナログな絵とデジタルが融合した「お絵かき水族館」!
自分の描いた絵がそのままスクリーンに飛び出します。
他の仲間とともに自由に泳ぎ回る姿は、あの『スイミー』の絵本のようです。
絵に苦手意識がある方でも大丈夫!
「絵を描くのはイヤだって。妹だけがすればいいじゃん」と何回も言っいた息子……。ですが、いざ紙とクレヨンを前にすると、直感で色を塗り始めました。
なぜなら、用意されているお絵かき用紙にはいろんな魚や亀などのアウトラインが印刷されてあります。簡単で安心です。なぞるだけでもう、魚になるのです。あとはもう、好きに色を塗るだけ。
一方、娘はもともとイラストを描くのが大好きなので、隣で「私のマイキャラ描くね~」と鼻歌を歌いながら楽しんでいます。
ちらっと、嫌がっていた隣の息子の絵を見てみると……
「めっちゃ、素敵やん!」
なんと、息子は原色を上手に使いこなし、亀の甲羅をイメージしながら色合わせをしています。
その色鮮やかなこと! 色の組み合わせに関心してしまいました。子どもならではの素直な直感で塗られています。
大人の場合、<この色の組み合わせは派手すぎるから、穏やかな薄い色で塗ろうかな……>、<黒と白のモノトーンでシックに言ってみようか……>など、あれこれと考えて塗ってしまいがちです。
服の色選びと一緒で、結局無難な色に落ち着いてしまう……そんなことを思っていたときに新たな発見をしました。
そうです。<塗り絵は服のコーディネートを考えるのと同じなのだ!>ということです。
原点に返ることの大事さを息子のお絵かきから教えてもらいました。
凝り固まった色の組み合わせは、自分の幅も狭めていた。
私の場合、「黒には白を」「茶色にはベージュが合う」「白はオールマイティ」「3色内で服をまとめるとキレイにおさまる」……など、服の色合わせは無難にまとめてきました。
でも今は、服もカラフルになり、カラーコーディネートの幅も広がっています。だから、色の組み合わせだって幾通りもあるはずなのです。
もっと豊かな色使いで服を楽しめば、きっと今までと違った新しい自分に出会えることは間違いありません。
あぁ、息子よありがとう(涙)。
まさか、お絵かき水族館で、息子にカラーコーディネートを教わるとは思ってもみませんでした。
魚だけに、目から鱗が落ちました。←うまい! by 編集者
さて、娘は、マイキャラのうさぎを黙々と描いています。ちなみに、「水族館」とはいいますが、ここは海の生き物だけでなく、お絵かき用紙に自由に好きな絵を描くこともOK。
小さい絵ですが、娘は配置に気をつけて描いているように見えます。これも余白の美学、なのでしょうか。とても可愛らしく、うさぎたちが楽しんでいるのがわかります。
絵ができたらスキャンしてもらいます。
すると、大スクリーンの水族館でその絵たちが泳ぎだします。
ここでは、ぜひそのスクリーンの絵に触ってみてください。
絵がウィンクしたり、涙を流したり、時にはハートが飛び出したり……。
表情がコロコロ変わるのも魅力です。
実は、私たち3人で初めてここへ来たときは、それを知らずにスクリーンで泳いでいる絵たちをただ眺めているだけでした。
今回、チームラボボーダレス広報の桑原さんに教えていただき、ちょっと興奮。
ぜひ親子一緒に、魚たちに触れあう体験をしてください。
「世界とつながったお絵かき水族館」をはじめとしたチームラボの教育的プロジェクトの作品群のテーマは「共創」。
「現状ある多くの仕事は機械によって代行されていくと考えられています。今の子どもたちは、30年後、僕らが想像もつかない仕事に就いていることでしょう。これからの社会では、人間にしかできないこと、つまり共同的な創造性が最も大事なことの1つになっていくと考えています」
と以前のインタビューでもお話されていました。
この水族館では豊かにお絵かきをすることで、巨大なスクリーンで他の鑑賞者のお絵かきと一緒に1つの水族館を形成する。
他の鑑賞者が描いた絵に影響され、さらに2枚目3枚目と工夫をしてお絵かきをしていくことでさらに素敵な作品に成り立っていきます。
ひとつの自分の絵が、他者と関わりを持つことで想像もしない世界が広がることを発見できます。
想像力は無限です。子どもたちが大人になったら、クリエイティブな考えを多方面から見られるような人になってもらいたいです。
そういえば昨年10月号の本誌企画で「答えのない時代、『アート』が子どもを強くする!」というページを作ったのですが、その際、東京藝術大学准教授の伊藤達矢さんから“対話しながら鑑賞することが大事”とお聞きしました。
「思いを聞いてあげることで、言葉にして伝えてみたくなり、“観る”ということが子どもにとって楽しくなる。意見を発言しあい、対話によって掘り下げることで、自分なりの”納得できる解答”を見つけることができる」と教えていただきました。
社会に出ると、答えのないことばかり。だからこそ、子どもたちには、たくさんの意見の中で、自分の意見を発信する力やプレゼン力をもってほしいものです。
美術館や博物館では、学校教育だけでは補えない「多数の解答」「答えのないもの」に向き合うことができます。
伊藤さんは、こうも語っていました。
「自分以外の他者の意見を聞き、考え方を更新し、自分なりの解釈で、納得できる答えを見つけていく。そのプロセスが重要。いろんな見方ができる「アート」鑑賞から、それらを学べる」。
それを聞いてから、意識的にアート鑑賞で子どもたちと感想を言い合うようにすると、うちも親子で思いがよく伝わるように。
「そんなことを思っていたの⁉」という子どもたちの新しい側面もたくさん見つけることができました。
社会は矛盾だらけ。大人でも、未だに納得できないことだらけです。
子どもには、学校で習うことがすべてだと思わず、何事も柔軟に対応できるようになってくれたらいいと思います。
そうすることで、生きやすい、心地いい人生にしていってほしいな。
撮影/西あかり 取材/東 理恵
森ビル デジタルアート ミュージアム : エプソン チームラボボーダレス
森ビル株式会社とアート集団・チームラボが共同で2018年6月から東京・お台場のパレットタウンで展開する「地図のないミュージアム」。10,000平方メートルの中に520台のコンピューターと470台のプロジェクターを駆使して、圧倒的なデジタルアートを繰り広げる。
2023年に東京都心部において新たなチームラボボーダレスを開館する準備に入るため、2022年8月31日をもって閉館。
https://borderless.teamlab.art/jp/
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