夫婦仲の良し悪しが子どもへ与える影響は? 【尾木ママ連載vol.8】

第8回は、夫婦仲の子どもへの影響や、夫婦喧嘩に関して尾木ママに伺いました。

連載第7回「自己肯定感を高めるにはどうしたらいい」はこちら

O.Tさん(45歳)子ども小学4年生

夫が女性関係で嘘をついていたことが発覚。一時期、夫と一切口を聞かず、一緒に食事をすることも嫌だったので、食事は作るのですが、食卓には座らなかったことがありました。小学4年生の息子は「ママ食べないの?」と私を心配してくれていました。息子には食欲がないからと言いましたが、気づいているようでした。どうやら息子は両親が口を聞かないことに心を痛めていたようで、学校で友達に相談していたそうです。子どもの前では喧嘩はしないつもりでも、どうしてもそういう空気感になってしまう時はどうしたらいいのでしょうか。

尾木ママ’sAnswer

とても難しい問題ですね。夫婦間のぎこちない状態を子どもに気づかれているようなら、子どもにもきちんと対応しなければなりません。
子どもを育てる環境では、夫婦仲が良いに超したことはありませんが、諍いもなくパーフェクトな夫婦関係で何十年も過ごせるなんていうことは実際はなかなか難しいですよ。

このお母さんのように「子どもの前では喧嘩はしないつもり」という意識を持っているだけでも、立派だと思います。
特に、女性問題やそれに関わる嘘が発覚した時には、おおらかに対応できるものではありませんよね。このお母さんのように怒り心頭になるのも当然だと思います。心情はとてもよく理解できますよ。
そして、このお子さんはお母さんを心配できるとても優しい子ですね。その息子さんの言葉に対して、お母さんは「食欲がないから」と言われています。「嘘も方便」で、子どもに心配をかけまい、夫婦で起きているトラブルを見せないようにという一心からそう言ったのかもしれませんが、これでは子どもに二重三重にウソを重ねることになりかねません。これが結果としてお子さんを余計に苦しめてしまっているようです子どもにも親の嘘はわかります。ただでさえ両親の不仲な様子を心配し、心を痛めているのに、お母さんが自分に嘘をついているのがわかったら、お子さんは傷つくはずですよ。その証拠に、お子さんは学校で友達に相談しています。とても辛かったのでしょう。

このような時は、子どもに嘘でごまかすのではなく、正直に「ママ、今パパのこと頭にきているの」とお子さんに気持ちを伝えていいと思います。これは、子どもに相談するという意味ではなく、争いの詳細を話す必要ももちろんありませんが、「怒っている」という事実と「だから一緒に食事をしたくない」という心情なのだということを正直に伝えてみるのです。
その上で気持ちが落ち着いた時にでも「でも、ママもちょっと感情的になりすぎちゃったかな。許せないからってご飯を一緒に食べなかったりして、○○くんにも悲しい思いをさせるなんて良くなかったよね」とお母さん自身にも反省する点があったという姿勢を見せることもできるといいですね。

父親も母親も「親」ではあるけれど、一人の人間。時には感情的になったり、間違えたり反省したりして、試行錯誤しながら、色々な壁を乗り越えようとしているんだという生身の姿勢も見せていく方が、子どもの人間形成にとっては大切なのではないでしょうか。
乗り越えた先に、また家族みんなで笑いながら食卓を囲むことができたら、子どもは安心します。

「子はかすがい」と昔から言いますが、夫婦喧嘩ばかりしている家庭で、さらにはそこに姑も絡んで争っているような環境で育つと、子どもは「自分が家族の仲を取り持つ存在にならなければ」と、必要以上に気を遣ったり大人の顔色をうかがったりする子になってしまいます。そんな重圧を背負わせてしまうのはかわいそうです。

教師をしていると、両親の関係が悪化している家庭は子どもの学校生活の様子からすぐにわかります。特に思春期真っ只中の中学2・3年生くらいの子などは、荒れるほどではなくとも、突然、反応がつっけんどんになったり、どこか辛そうな表情をしていたりと言動にも表われます。成績抜群でルックスもアイドル級で一見、悩みなどなさそうなのに、中学2年生でいつも爪をかんでいる生徒もそうでした。
反対に、夫婦仲の良い家庭の子どもというのは学校生活もとても安定していて、友人関係も良好に築くことができている場合が多いように思います。

今は3組に1組は離婚する時代(※)という話はよく耳にすると思いますが、必ずしも離婚が悪いというわけではありません。夫婦の関係が修復困難だったり、ただの同居人のような状態になってしまっていたりと、一緒にいる意義がなくかえって悪影響なのならば、きっぱりと別れた方がいいかもしれません。家族のあり方もシングルペアレントやステップファミリーなど多様化している時代です。夫婦という形にこだわる必要もありません。肝心なのはその形ではなく、実質、中身です。家庭が子どもが生活しやすく心安らぐ環境になっているかどうかということが最も大切ではないでしょうか。

また、夫婦で諍いが起きたときは子どもにとっての学びの機会でもあるという意識を持ってみてください。感情的になったり、反省したり、親のダメな部分を見ながらも、相手に対してこんな風にすると最終的には仲直りできるんだなというのを間近で見ることで、子どもは夫婦関係や人間関係を学んでいきます。将来、家庭を作ったときのモデルケースにもなるでしょう。
思春期は身の回りの人間関係にも悩み始める時期ですので、今後、友人関係や恋人関係など人間関係においてもめ事があった時に、親の夫婦喧嘩の対処法が何かしらのヒントにもなるかもしれません。
トラブルを未然に防ぐためのアンガーマネジメントは学校でも学んでいますが、起きたことに対する解決法として、「人との関係性を大切にする」ためにはどう対処したらいいのか。夫婦喧嘩はそれを家庭の中で見せる機会でもあるという意識を親が持ち、夫婦間での対処法や子どもへの伝え方も考えてみると良いのではないでしょうか。

※厚生労働省によると2020年の年間の婚姻件数は52万5490件に対し、離婚件数19万3251件で婚姻件数の約3分の1。このように、最近の統計で婚姻件数に対し離婚件数が約3分の1であるために「3組に1組が離婚」と表現されているが実際に離婚した割合ではない。

取材/小仲志帆

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