ママに元気があふれでる!? プロが選ぶ「大笑いしたいとき」の絵本とは?

大人に効く絵本〔01〕 「笑って元気になりたいとき」には『たぷの里』『3びきのかわいいオオカミ』『キャベツくん』がおすすめ

東條 知美

絵本は、子どものためのもの。そんなイメージがありますが、美しい絵に癒やされたり想像力が鍛えられたり、ハッと気付かされたりと、実は大人にとっても感動がいっぱい。子育て中なら、子どもの頃とはまた違った向き合い方をすることで、わが子により絵本のよさを伝えられるかもしれません。

この連載では、絵本のプロがパパママにこそ読んでほしい絵本を、毎回テーマに合わせてピックアップ。

第1回は、絵本コーディネーター・東條知美さんが、「笑って元気になりたいとき」をテーマに厳選した3冊をご紹介します。

説明不要のおもしろさ! ギャグ漫画家の絵本デビュー作

子育てって、楽しいことや幸せを感じることがたくさんありますよね。でも、それと同じぐらい、イライラしたり悲しくなったり、不安になったり、大きなストレスを抱える時期でもあります。子育て、家事、お仕事等々、とんでもなくアクロバティックな毎日を過ごしておられるはずです。

私(絵本コーディネーター・東條知美)自身、息子が幼かった当時のことを振り返ると、今でも胃がヒリヒリするぐらい大変だった記憶があります。そんな、小さなお子さんを抱えた過酷な時期だからこそ、パーッと笑ってほしい。今回は、子育てに日々奮闘するパパママに「笑って元気になりたいとき」おすすめの3冊をご紹介したいと思います。

まずは、大爆笑の1冊、『たぷの里』(著:藤岡拓太郎)です。作者の藤岡拓太郎さんは、若手のギャグ漫画家。私は以前から藤岡さんの漫画が好きで注目していたのですが、藤岡さんが初めて描いた絵本がこちらの作品です。おばあさまのお葬式で従弟の赤ちゃんを抱っこしたとき、「この子が喜んでくれる絵本を作ろう」と思ったのが創作のきっかけだったそうです。絵本の本質をしっかりつかんでいて、絵本についてものすごく勉強されたことが伝わってきます。

ページをめくると動き出す、読み手が主体の構成。絵本独特の間合い。登場人物の子どもたちの、何とも言えない表情。「たぷ」という身体性を伴った心地よい響き……などなど。秀逸なポイントはたくさんあるのですが、こうして解説するのは野暮かもしれませんね。『たぷの里』の世界に浸って日常を忘れ、ただただ大いに笑っていただきたい。文句なしにおもしろい絵本です。

SNSやネットを中心に話題となった、ギャグ漫画家・藤岡拓太郎による初の絵本『たぷの里』(著:藤岡拓太郎/ナナクロ社)。心地よい音の響き、繰り返される不思議なリズムが笑いを誘う

誰もが知っているあのお話の、あっと驚くパロディ版!

次におすすめするのが、『3びきのかわいいオオカミ』(著:ユージーン・トリビザス)。みなさんご存知、イギリスの昔話『3びきのこぶた』のパロディ絵本です。『3びきのこぶた』にはパロディ作品がたくさんあるのですが、その中でも特に秀逸な作品としてご紹介します。

主人公はタイトルの通り、3びきのかわいいオオカミ。ある日おかあさんから広い世界に出て、自分たちの家を建てるように言われます。

「でも、わるいおおブタには気をつけるのよ」

そう、原作とはオオカミとブタの設定が逆になっています。さらに、オオカミたちが最初に建てるのは、なんとレンガの家。原作では、レンガの家を建てるのは最後ですよね? どうなるんだろうとページをめくると、わるいおおブタがやってきて、とんでもないことをしでかすのです! さらに、コンクリートで建てた家で、鋼鉄と鉄条網で建てた家でと、両者の攻防戦は続くのですが、最後はある意外なものを使って建てた家が……。さて、なんだと思いますか?

原作をひっくり返した意外性のある設定と、ドラマティックな展開。そして、想像をはるかに超えた、おおブタの破壊力や凶悪性に大笑いしてしまいます。驚かされたときも人は笑っちゃうんだなぁと、気付かされるでしょう。そして、最後には想像もつかないラストが――。しっかりとしたデッサンで絵も素晴らしく、非常に“噛み応え”のある1冊です。

この作品に限ったことではありませんが、パロディのおもしろさがわかるのは原作を知っているからこそ。まだ小さい子どものうちに読んでしまうのは、あまりおすすめしません。昔話には人生の大切な教訓、昔から人々の間で言い伝えられてきた教えがたくさん詰まっています。子育て中のパパママを含む、大人にこそ読んでいただきたいですね。

名作『3びきのこぶた』をパロディ化した『3びきのかわいいオオカミ』(著:ユージーン・トリビザス、絵:ヘレン・オクセンバリー、訳:こだまともこ/冨山房)。オオカミたちがレンガの家を建てて暮らしていると、そこへ悪いおおブタがやってきて……。

ナンセンス絵本の王様・長新太が描く超現実の世界

最後は、お子さんと読んでほしい1冊として『キャベツくん』(著:長新太)をご紹介します。ナンセンスを描かせたらピカイチな絵本作家・長新太さんの作品で、1980年の発売以来、長く愛されている絵本です。

物語は、キャベツくんとブタヤマさんが道で出会うところから始まります。現実ではあり得ないことがたくさん描かれているのですが、「超現実」の世界に身を浸すのも絵本の喜びです。ここは一つ、<説明ナシ>でまいりましょう。出会ったばかりのキャベツくんを捕まえて、お腹を空かせたブタヤマさんが言うのです。

「キャベツ、おまえをたべる!」

『キャベツくん』の読み聞かせをすると、二通りの反応が見られます。多くの子どもは、「キャベツ、おまえをたべる!」のところで、「えっ、そんな!?」と突然の展開に驚き、続きを読むと「あはは、バカみたい!」と大笑いします。他方で、「なに? 意味がわからない」という表情をする子どもも少なくありません。ナンセンス絵本とご紹介しましたが、「ナンセンス=意味がない」ということ。『キャベツくん』はナンセンスを楽しむための絵本なのに、何をするのにも意味を求められ、成果を求められて育ってきた子どもは、ただただ戸惑ってしまうことがあるのですね。

お子さんと読んでほしいと思ったのは、『キャベツくん』の世界に触れて、心が解放される時間をご家庭でぜひ味わっていただきたいから。「くだらなかったけど、おもしろかったな」。そんなふうに、世の中には意味はないけれどおもしろいことが実はたくさんあるのだと、お子さんと一緒に感じていただきたいのです。

長新太さんが描く、現実と超現実のおもしろさ。お子さんには楽しい世界、おもしろい世界にたくさん出会ってほしいと思いますし、心がお疲れ気味の人、緊張している人、それからおもしろがりの大人にも届けたい作品です。

『キャベツくん』(著:長新太/文研出版)のシリーズ1作目。キャベツくんとキャベツくんを食べたいブタヤマさんの会話が楽しい傑作絵本。

 

構成:星野早百合

監修/東條 知美(とうじょう ともみ)
絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」

公式サイト
https://www.tojotomomi.com/
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本記事は【Mart×コクリコ パパママ応援プロジェクト】の一環としてコクリコの記事を転載したものです。

コクリコ2021年2月24日公開より