40代の心が軽くなる話!――ポーラ初の女性社長が語る「子育て・仕事・これから」
女性の社会進出、働き方の多様化などさまざまな要因から、近年意識されるようになった「ワークライフバランス」。STORY5月号「私たちのCHALLENGE STORY」でも、「ワークとライフのさじ加減」をテーマに、5人の女性リーダーたちにご登場いただきました。
そのなかのお一人は、大手化粧品メーカーとして知られる「POLA(ポーラ)」初の女性社長に一昨年就任した及川美紀さん。
誌面では、ご自身の家事・育児と仕事の両立経験や、女性のワークライフバランスの考え方・これからについてなどを掲載させていただきましたが、実は書ききれなかったお話がたくさんありました。
まるでママ友みたいに気さくに話してくださった及川社長の、懺悔エピソードから趣味に至るまで…読めばなんだか心が軽くなる4つのお話をWEBではご紹介いたします!
及川美紀さん
株式会社ポーラ 代表取締役社長
1991年東京女子大学卒業後、ポーラ化粧品本舗(現:ポーラ)に入社し営業部配属。入社三年目で販売会社へ出向し、美容スタッフ、ショップの経営をサポートするフィールドカウンセラーとして実績を重ね、埼玉エリアマネージャーに就任。その後商品企画・宣伝・美容研究・デザイン研究担当取締役などを経て、2020年代表取締役社長に就任。
母として女性としての苦労や想いはみんな一緒! きっと明日への活力となる「及川社長が語った4つのSTORY」
① あのときは本当にごめんなさい。30年経っても忘れられない“電車事件”
当時は18時ぴったりに退社し、ダッシュで保育園に娘さんを迎えに行っていたなどのエピソードも話してくれた及川社長。子育て経験から得た強みを伺うと、「人に優しくなれたこと」だといいます。
「今から30年ほど前、会社の同僚と電車に乗っていたとき、隣にいた小さなお子さんが私のワンピースを靴のまま踏んづけたんです。私は思わず、その子のお母さんに『足をどけてください』と言うと、お母さんからは『ごめんなさい、でもこの子まだ歩いてないので大丈夫です』と返事が。確かに靴は汚れていないし、ましてや小さなお子さんがしたことで、怒ることではありません。でも当時の私は疲れていたのか、イライラする気持ちを抑えることができなかったんですよね。隣を見たら、同僚がものすごく蔑んだ目で私を見ていました。
自分がいざ子どもを育ててみると、荷物を抱えながら子どもと一緒に電車に乗ると隣の人にちょっと迷惑をかけちゃうなんて日常茶飯事なんです。でも、愚かな私は経験して初めてそのことに気づきました。
同僚が私に対して向けた目が忘れられず、若いころどれだけ自分中心に生きていたのかを思い出します。あのときのお母さん、本当にごめんなさい。
思い通りにならないことの連続だった子育てで、少し人に優しくなれたのかなと思います。“経験は財産”です」
② 例えるなら、子育ては山登り。頂上からしか見られない絶景がある!
「同期から遅れてしまう」「独身の頃はもっと働けたのに」など、子育てとの両立にもどかしさを感じてしまうときは、時間軸を長く捉えてみてほしいと話してくださった及川社長。子育てを山登りに例えた、続きのお話がありました。
「山も登り始めはルンルンですが、傾斜が急になってくると荷物も重いし、足も動かなくなるし、何もかも投げ出してこのまま下山したいって思う瞬間ってあるじゃないですか。でも、そこを頑張って超えるとなだらかな稜線がやってきて、ひと息つけたりする。
子育ても同じで、乳幼児期を過ぎてひと息つけたと思ったら、次は受験期や反抗期がやってきて、“いったいいつまで大変なの…”なんて思いながらも頑張っていると、頂上について素晴らしい景色が目の前に広がっていたりします。
その景色を見た瞬間、今までの疲れも吹き飛び“頑張って登ってきてよかった”と思うわけです。山の登り方は、体型や体力によっても違うように、子育ても一人で頑張っても手伝ってもらってもどちらでも構わない。最後ワーキングマザーたちはみな、晴れ晴れとした表情で頂上に立ち“頑張ってきてよかった”とこれまでの道のりを感慨深く振り返っているはずです」
③ 足らないことには慣れている。その環境下でいかにやっていくかが大事
「育児に時間を取られて7割の力でしか仕事ができないとしても、7割の力で成果を出す自分が生まれるチャンスでもある」など、物事をすぐにポジティブな考えへとシフトする及川社長。その力が生まれた背景には、学生時代のままならない状況がありました。
「私はアルバイトしなければ学費を払えない貧乏学生でした。“アルバイトさえなければ、もっと勉強する時間がとれて成績があがったのに”と言うのは簡単ですが、変えられる状況ではないですし、アルバイトしなければ勉強すらできなくなってしまうわけです。全部ひっくるめて私であり、その状況でいかに成果を出すかということを常に考えるようになりました。
あと、私の弟が大病をして学校に通えない時期があったのですが、何でもできることがいかに恵まれているか気付かされました。
足らないことには慣れていて、でもその中で努力すればなんとかなる環境に置かれている幸せも自覚していたので、ポジティブ変換力が鍛えられたのかもしれません」。
④ 人生は長い…定年退職後は大学に行きたい!
「これまで育ててもらったポーラという会社をよりよくして、次の世代にバトンタッチするというのが当面の目標」と語る及川社長ですが、仕事とは違いプライベートでは飽きっぽい部分も?!定年後の夢については、同じ女性として考えさせられます。
「この前も娘に『お母さんって飽きっぽくて何にも続かないよね。唯一続いたのが仕事だね』なんて言われて笑いましたが、プライベートでいろいろやってみるもののあまり続かなくて(笑)。珍しく4年続いているのが茶道です。といっても1ヶ月に1回か2回くらいしか行けていませんが(笑)。
あと変わらず好きなのは読書です。コーヒーとチョコレートと本さえあれば、そこからピクリとも動かずに一日中ソファに座って読書しています。でも、読んでも読んでも理解できないことが多すぎるので、基本となる知識が足らないんだなぁと思う日々……
だから定年退職後は、大学へ行って文学や歴史などの分野を学びたいなぁと密かに思っているんです。経済学とか経営学?それはもうやらないですね(笑)。人生100年時代としたら、まだ折り返し地点を過ぎたばかり。自分ができること、やりたいことをその時々で考え、楽しんでいきたいです」
悩み・苦労・不安などは同じでも、そこからどう考え行動するかが、幸せな人生になるかそうでないかの分かれ道かもしれません。及川社長のお話から、何かヒントとなる言葉を見つけてもらえたら嬉しいです。
撮影/西 あかり(及川さん) 取材/篠原亜由美