AI時代、子どもの将来の職業が心配です【尾木ママ連載vol.5】
第5回目は、子どもの夢を応援したい気持ちと、現実的な心配をする親の価値観の間で葛藤しているママのお悩みについて伺いました。
AI時代問題
H.Kさん(48歳)の悩み
中1の娘は将来アナウンサーになりたいと言っています。もちろん娘の夢なので応援したい気持ちはありますし、子ども自身に道を選んで欲しいと思いつつも、娘が社会に出るころに、テレビ業界はどうなっているのだろうかとか、AIの進化で生き残る職業は何だろうとか、つい親の価値観を押し付けてしまいそうになります。やはり親としては将来性のある仕事に就いてほしいという思いもあります。それはやはり親のエゴでしょうか。
尾木ママ’sAnswer
とても鋭い問題意識をお持ちのお母さんで感心しました。確かにAIの進化によって生き残る職業は少なくなります。2030年までにこれまでの27%の仕事が自動化されるもと言われ、AIによって代替される社会になっていくのは必然です。また、コロナ禍の影響もありますが、大企業だから経営が安定しているという概念も大きく揺らぎました。
以前は憧れの職業とされていたアナウンサーですが、インターネットやスマートフォンの普及などによる「テレビ離れ」が指摘されているなか、子どもが社会に出たころにその業界がどうなっているのかと心配になる親御さんの気持ちもわかります。最近では日本テレビの桝太一アナウンサーがテレビ局を退職して大学の専任研究員へ、華麗な転身をすることを発表したのにも驚きましたね。
一昔前は安定した企業に就職することが大学生の目標でしたが、今は就職するという進路だけではなく、自ら仕事を作り出すという学生も増えています。一時期、「1円で会社を立ち上げる」という起業家がもてはやされた時期もありました。その時代とは違い、今は自分自身が儲けるという事より、地球環境や人々のためになる仕事をすることで利益を生むというSDGsに基づいた起業をする若者も増えています。自分の事だけを考えているのではないようです。社会性があって頼もしいですよね。尊敬します。
このお悩みの娘さんもアナウンサーになることが最終目標ではないかもしれませんよね。その職業に就くことによって娘さん自身がどんな未来像を描いているのか、お母さんのほうが子どもの思いを学ぶ気持ちで聞いてみたらどうかしら。結構、しっかりとした分析でアナウンサーという職業を考えているかもしれませんよ。もちろんお母さんの心配も吐露しながら話し合ってみると、娘さんの頼もしさに気づかされることがあるかもしれません。
未来はAIと共存していく時代です。AIを理解し、操作し、上手に活用することが大切になってきます。将棋の棋士、藤井聡太五冠は将棋研究用のパソコンを自分で作ったというのは有名な話ですよね。藤井さんはノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授との対談の中で、将棋の世界は「人間とAIの対決というところから、また新たな段階に入ったというか、AIを活用して逆に人間がどう強くなるかに移っていると思います」と話しています。AIを活用できる思考力を形成していく姿勢はこれからの時代を生きる若者にとって学ぶべきヒントとなるのではないでしょうか。
AI化によりIQ(知能指数)の時代からHQ(人間性知能)が問われる時代になっていきます。知識よりもAIを使いこなせる思考力や人間力をしっかりと固めていくことがこれからの時代には必須です。AIと共存する時代は我々大人たちには経験がないからわからないところではありますが、今の若者はそういう時代に生きていくにあたって、自分らしく輝ける仕事の仕方や関わり方を見いだしていかなくてはなりません。現代の若者達の宿命です。つまずいたり転んだりしながらも時代を切り拓いてくれることを期待しています。
日本では昔から職業や勤め先を変えると「何かあったのでは?」と勘ぐられるような風潮がありました。僕自身も私立の進学校の教師から公立校の教師に変わったときは色々な噂が立って(笑)。今は仕事を変えることは珍しくない世の中ですし、最初の職業で一生を遂げることが必ずしも賞賛される時代でもありません。自分がどういうことをしたいのかを追求しながら、柔軟に変化していくことが自分の人生においてプラスに働くこともあります。これは個々にとってはもちろん、社会にとってもとてもいい流れだと思いますよ。
変化の多い時代に子どもがどんな職業に就くのか、心配する親御さんの気持ちはよくわかります。でも、最初の職業で人生が決まると思わずに、「生き方のひとつ」くらいに捉えるのがいいのではないでしょうか。子どもの夢はぜひ、応援してあげてくださいね。
取材/小仲志帆
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