【男の子の育て方 対談連載vol.6】男の子の性が雑に扱われ過ぎている問題~「女の人からのスキンシップは男なら誰でもOK?」編
男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
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田中さん(以下敬称略) TVのCMを見ていても「男の子の性」が雑に扱われてると思うことがあります。最近あまり良く思えないCMがありまして……。
ある会社の若い男性社員の話なのですが、彼には社内に好きな女性がいます。普段はその子から見向きもしてもらえないんですが、顔にそのCMの商品を塗って会社に行くと、その子が後ろから「おはよう」って声を掛けてきて、彼のほっぺたに人差し指をぷにっとするような感じのボディタッチをするんです。
“今日、あれを肌に塗っていて良かったな”という商品PRなのでしょうけど、僕はそんなことされたらこの女の人を嫌いになるな、と思いまして。
太田 距離感が近いですね(笑)。
田中 このCMで、男女が逆を演じていたら炎上しているのではないかと。
「なんだあの男は! つき合ってもいないのに馴れ馴れしく女の人の頬を触って!」となりますよね。
でも男の子だからということで、好きな子と距離が一歩縮まって良かったみたいな内容になっています。
このCMを見るたびに、僕は子どもに「パパはもしこんなことをされたら、この女の人のことが嫌いになる」と話しています。
でもこれを指摘しているのは、周りで僕しかいないんですね。世間一般からすると「ラッキー!憧れの美人社員がスキンシップしてくれた」という感じなのかな、と。
太田 うっすらとセクシャルで好意的なアプローチが女性から来るのはいいことでしかない、という考えなんでしょうね。
前にも話に出てきたエマ・ブラウンの著書『男子という闇』の中でも、男の人が女の人から意に反するアプローチを受けて、したくないセックスをさせられた、という被害について報告されていました。
日本ではそういうことにスポットライトが当たらないですし、実際にどれぐらいあるのか検討がつかないですよね。
女性だけでなく、男性も性差別や性暴力に苦しんでいる
田中 そうなんです。男に対するステレオタイプを社会が放置してしまっています。だから男性が被害にあった時にも“まさかそんなことあるはずない”と思ってしまう。逆に、そういうステレオタイプを男の子たちが真に受けていくことにより、女性が被害者になるという側面もある。
男の子に限らず、大人の男性も含めてジェンダーの問題に取り組むことが、男女平等を達成するうえで大事なのだと、改めて思いました。
太田 どうしても性差別や性暴力は、女性の問題というふうに扱われやすい。もちろん女性差別は深刻で、性暴力の被害者は女性がとても多いけれど、でも男性自身だって性差別構造に由来して苦しんでいるはずだし、男性の性被害もある。男性が、自分を苦しめているものは何なのか、正しく理解しないと、女性差別解消を求める声に無用に反発してしまうことにもなりかねないと思います。
海外では、その問題について取り組む動きがあります。
エマ・ブラウンの本にも、いろいろなワークショップのようなものが効果を出していると書いてありました。具体的なプログラムが出てきたことには希望を感じます。学校でも実践されているようなので、ぜひ日本も輸入して取り組めたらいいなと思います。
田中 そうですね。僕も希望は持っていますが、日本はまだスタートラインにも立っていないと感じます。ああいったプログラムのようなものはありませんよね。
太田 あの手のワークショップも、アメリカでは当たり前というわけではないのでしょうが、最近は一部の高校でも実践し始めているようですね。アメリカは銃社会で、学校での深刻な暴力事件が現に起きているというのも理由でしょう。
田中 男の人だけが集まって話し合うプログラムもありましたね。どれにも共通していえるのが、誰かが誰かに教えるというのではなく、参加者自身が主体性をもって答えを探っていくっていうところにポイントを置いています。
太田 お互いに注意し合うんですよね。それぞれの話に対して、合言葉のように「それは違うよ」と指摘したり、あるいは、‟他人に優しくできることこそがカッコイイ”という価値観を学んだり。ポルノリテラシーを持つ話なども大変面白かったです。
アメリカでもいろいろあるんだな、と感じましたね。
今は、質の高い恋愛経験や性体験を求められる時代です
田中 本にもありましたが、アメリカでも青年の性行為の数が減っているそうなんです。日本でいう“草食化”みたいな話なのですが、それに対して「ポルノが普及したからだ」とか、「晩婚化してしまう」といった批判があります。でも、性行為が減ってるのは、より多くの人がより良い性体験をし、本当に自分が望んだ性体験を得ようとしているからだということが書いてあるんです。それって結構大事なことですよね。
しっかりとした合意に基づいたうえで、より良い体験を目指す――そう考えると、みんなが慎重になり、経験も回数も減ってくるというのは、別に悪いことではない気がします。
太田 “女性の経験人数が男の勲章”みたいなカルチャーもありました。
「俺は何人の女性とセックスしたことがある」というふうに競い合うと、もう性行為に同意があるとか、より良き体験とか、そういったことはどうでもよくなりますよね。
“こうしたら女の子を落とせる。こうしたらヤレる。これが女の子のサイン”などのナンパマニュアルが流行った時代。私が中高生ぐらいの時が最後かも知れませんが、変な時代だったと思います。バブル時代的価値観だったのかな……。
田中 男の子同士で経験人数の自慢合戦が始まった時、どうやったら対抗できるのかという話ですが、僕が聞き取り調査した男の子は、「俺は20人とヤったことがある」と言われたとしても、「いや、僕は長くつき合ってる彼女がいるから」と言い返せると。
やはり、質の高い恋愛経験やお互いの信頼に基づいた性的経験があれば、ただ単に回数や人数の自慢をされても何とも思わない。それって、大事です。
自分には長くつき合ってる彼女がいる。2年、3年とつき合ってる彼女がいる。
つまらない男同士のマウントの取り合いになった時にも、自信を持って言い返せるのはいいことですよね。
太田 女性を勲章みたいに見たり、トロフィーワイフ的な発想をするのではなく、対等な存在としてつき合うことができる――女の子もそういう男の人が選べるような社会を作っていけるといいですよね。
取材/東 理恵
太田啓子
弁護士。中1と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と2歳男児の父。