【アートで共創教育 連載vol.4】チームラボ・松本明耐さんに聞く 「親子でどんな体験をしてほしいと思っていますか?」
行ったことはあるけれど、ただ「きれい!」で終わってませんか? チームラボボーダレス――この新感覚ミュージアムが目指す「共創社会」について、子どもたちと一緒に考えてみます。
【アートで共創教育 連載vol.1】デジタルアートは「インスタ映え」だけじゃなかった!
【アートで共創教育 連載vol.2】触れたり近づいたりすることで子ども自身が作品に関わる
【アートで共創教育 連載vol.3】子ども目線ってどういうこと? ここではそれがわかります
なぜ、子どもも一緒に楽しめる大規模アートミュージアムができたの? 「チームラボボーダレス」の裏側が気になる!
誰もがアートの素晴らしさに感嘆の声をあげる「チームラボボーダレス」の作品群。私も子どもも、触ったり、飛んだり、滑ったり。
視覚・聴覚・体幹などをフルに使い、
帰ったらアタマも体もへとへとになるほど、楽しすぎます!
そこで、このミュージアムのメンバーの一人、チームラボ松本明耐さんにインタビュー。
この新感覚ミュージアムに託した思い、教えてもらいました。
チームラボ 松本明耐さん
チームラボの教育的プロジェクト、「チームラボ 学ぶ!未来の遊園地」を世界に拡げている。13歳、11歳、5歳の3児の父としての顔も持つ。
きっかけは「父」になったときの雑談から始まった!
Q.このようなミュージアムを始められたきっかけはなんだったんですか?
チームラボ自体は2001年の創業期からアートを制作を行っていたのですが、美術館での初めての個展は2012年で、台湾美術館でアートからプロダクトまでを含めた19作品を展示しました。
当時、驚いたのは、週末になると、その美術館は子ども連れが非常に多くなることです。僕らが展示した作品の中の一つに、同じ空間で大勢が同時に関わることができる作品があったのですが、そこに子どもが大勢集まり、大はしゃぎを続けていました。美術館で、みんなと一緒にわいわいとアート作品を楽しんでいたのです。
そんな様子に衝撃を受けました。
日本にいると、美術鑑賞は型どおりにしないといけない、従わなければいけない、と思いがちですが、台湾は違った。
〈もっと自由に楽しんでいいんだ!〉というのを教えていただきました。
当時、私の子どもは、3歳と1歳でしたが、日本で自分の子どもにも同じ体験をさせたいと思い「日本でも展覧会をやろう。そして、アート作品で教育プロジェクトをやろう。」とメンバーに話しました。
でも中には「俺はアーティストになりたいんだけど……」という意見もあったりして(笑)。
そしてチームで話し合い、チームラボの教育的プロジェクトである「学ぶ!未来の遊園地」がはじまりました。子どもがアートに触れながら、同じ空間で、他の人々と、共同的で創造的な体験をしてもらいたい。そう思ったのです。
ひとりでなく、みんなで「共に創る」から楽しい。それが「未来の遊園地」
デジタルというと、スマートフォンをまず思い浮かべる人が多いと思います。子どもたちは生まれた時からスマホが好きだし、もう2、3歳から平気でバンバン使いこなしています。でも、ひとりで下を向いて、指だけで動かしているのではなく、同時に、もっとからだを動かしながら五感を使い、ひとりでなく“他者と共に活動する”ということを体験してもらいたいと思いました。
Q.「学ぶ!未来の遊園地」の代表作であり、チームラボボーダレスでも展示されているの「お絵かき水族館」は初期の作品ですよね。子どもたち自身の描いた魚の絵が目の前で泳ぎだす! という衝撃はすごかったです。
確かに「お絵かき水族館」で、〈チームラボは楽しい!〉〈「未来の遊園地」は面白い〉と認識された方は多いと思います。自分の作品に生命が吹き込まれ、他のみんなが描いた魚と共に泳ぎ出す。みんなが描いた絵で、世界が変わっていく。
”他者と共に創造することは楽しい”と感じてもらえるといいなと思っています。
Q.私は「お絵かき水族館」を日本科学未来館で見ました。開館以来のすごい大行列で2時間待ちだったとか!
はい。2014年に日本科学未来館で「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」という大きな展覧会を行いました。約48万人が最終的に来場し、その年の美術展の入場者数で年間3位となりました。
日本科学未来館での反響もあって、2018年、お台場に常設の「森ビル デジタルアート ミュージアム : エプソン チームラボボーダレス」を作りました。
ここでは、さらに「身体で世界を捉え、世界を立体的に考える」をコンセプトに、脳の海馬を成長させ、空間認識能力を鍛える新しい創造的運動空間「運動の森」を加えました。
Q.それは「日本科学未来館」ではできなかったことですよね。
はい。期間限定でのイベントでは設置が難しい、常設だからこそできるアスレチックのような作品が体験できるのが特徴です。
例えば、大型テーマパークを企画展でできるかといったら、できないですよね(笑)。
Q.お台場のチームラボボーダレスはかなり大規模な施設だと思います。当初からこれぐらいのスケールを考えていたのですか?
もともと1万平米くらいのスペースでやりたいとは思っていました。
規模も体験に大きな影響を与えると思っていたので。
広い空間だと、真っすぐな壁、まっすぐな床に作品を映すだけではなく、立体的な造作物が作れるうえに、映像だけでない体験ができる。身体的にぐらぐらするものだったり、トランポリンみたいなものだったり、造作物と作品が連動したものができるじゃないですか。
規模も大きいので、大体の親子が3時間程度は楽しんでいただいています。
Q.そうですよね。作品の中で時間の感覚を忘れて楽しむ体験ができるという感じですよね。
そうなんです。規模や期間が限られている企画展ではできない表現ができるので、常設であり、この規模であることがとっても重要だと思っています。
Q.〈さまよい、探索し、発見する〉というのが、チームラボボーダレスのテーマですが、どうしてこのテーマに?
チームラボボーダレスは、館名の通り、「境界がない」ことをテーマにしていてます。デジタルテクノロジーで作品は物質から解放されました。アート作品そのものも、自由になり、作品が、ひとつの部屋から出て、別の部屋に自由に移動するわけです。作品に順番はない。だから体験する側にも順路は必要ないのです。
teamLab Borderless Tokyo, Transcending Boundaries – Crows / チームラボボーダレス 東京、移動していく
Q.いろんな場所でアートがうろうろしてますよね。
そうです。同じ部屋でも時間によって別の作品になってたりするし、作品と作品の境界もない、作品と自分の境界もない。
Q.「境界がない」ものを作っていきたかったから「トリセツ」のようなものも外した。“ここに存在する”という固定概念を取っ払って、解放しちゃおう! という感じでしょうか。
そうですね。デジタル以前のアーティストは、自分の思いをモノに込めていた。でもデジタルテクノロジーで解放された今は、お客さんにモノではなく「体験」を提供することができるようになった。作品の提供の仕方が変わったんです。
Q.大げさかもしれませんが、私はここに宇宙のようなものを感じるんです。作品も変わり続けていて、同じ作品がないし、絶対にコレ!というものがないから、何が起こるかわからない……。そういうのがやっぱり楽しいですよね。
そうですね。そういっていただけると嬉しいです。
世界というものは、他者とともに新たに生み出したものが積み上がってできています。チームラボボーダレス内で体験できる作品は、一つの世界を他者とともに創り出していくという体験が親子でできます。
自分が描いた動物と他の子が描いた動物が一緒に生態系をつくりだしたり、
横の子が触ったところから色が変わって空間が変化したり、
自分のよく知っている他者だけではなくて、
名前も知らない話をしたこともない他者とともに一つの世界が創られていく。
これは現実の世界でも同じです。
一つの世界を他者とともに創造していくという行為そのものを、
楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は、松本さんが「この場所好きだな」と感じる「チームラボボーダレス」内の
とっておきの場所を、ご紹介します。
【アートで共創教育 連載vol.1】デジタルアートは「インスタ映え」だけじゃなかった!
【アートで共創教育 連載vol.2】触れたり近づいたりすることで子ども自身が作品に関わる
【アートで共創教育 連載vol.3】子ども目線ってどういうこと? ここではそれがわかります
撮影/西 あかり 取材/東 理恵
森ビル デジタルアート ミュージアム : エプソン チームラボボーダレス
森ビル株式会社とアート集団・チームラボが共同で2018年6月から東京・お台場のパレットタウンで展開する「地図のないミュージアム」。10,000平方メートルの中に520台のコンピューターと470台のプロジェクターを駆使して、圧倒的なデジタルアートを繰り広げる。