フィクションとノンフィクションの間を漂い、どんどん引き込まれる|大久保佳代子のあけすけ書評
フィクションとノンフィクションの間を行ったり来たり…
不思議な感覚で「彼女たち」に引き込まれます
この一冊は、著者·恩田陸さんが新聞で見かけた三面記事がずっと心の棘として引っかかっていて、それを小説にしたという「事実に基づく物語」。実際にあった事件をベースにした小説が好きなのもあり、手に取りました。
その事件とは「年配の女性2人が、一緒に橋の上から飛び降りて自殺した」という記事。しかも2人は大学の同級生でルームシェアをしていたという関係性。彼女たちはなぜ自ら死ぬという選択をしたのか? しかもなぜ一緒に? 昔見かけた小さな記事だけをもとに書かれた300ページ超えの壮大な長編は、読み応えをひしひしと感じつつ一気に読了できました。
物語は3章に分かれて続いていきます。1つめは自殺した2人をTとMという頭文字で呼び、彼女たちの自殺に至るまでの状況が描かれたノンフィクションをベースにしたフィクション。2つめは著者が実在の事件を小説化することへの苦悩を私小説風に。3つめはこの小説が舞台化されていくまでのストーリー。
この中で私がいちばん心惹かれ読み進めたのはTとMの物語。特にここ最近「人はなぜ自殺するんだろう?」「はたから見たら幸せそうな人でも自ら死を選ぶことがあり、何が彼らを死へ導いてしまったのだろう?」と考えてしまうことがあって。
Tの離婚を機に同居し始めた2人、その関係性は楽しいけれどどこか停滞している。2人は同居を仮の形と考え、すぐ次の展開があると思っていたのにいっこうに次のステージは訪れず、お互いの誕生日のお祝いがケーキから酒のあてになっていくあたり非常に共感できます。
私も30代の頃、地元の同級生とルームシェアを6年していたことがあり、3度めの契約更新を前に「このままではダメな気がする」とルームシェアを解消した経験が。特に重大な挫折や不幸はなく安定はしているのだけど、この安定した平凡な日常が地続きみたいにダラダラと続いていく、今日という日が何年後かにも全く変わっていないかもと考えると……、それはそれで恐怖で。そんな漠然とした恐怖を抱いている時に、普段であれば笑って済ませられるミスが絶望と感じ、死という選択肢が現れてしまう。
この作品では、それが「固めるテンプル」のストックがなかったという些細なことで。日常を緩やかな死と捉えていたとしたら、死への境界線は非常に薄いのかもしれません。
現在、私は50歳。独身だけど、ありがたいことに仕事があって淡々と幸せだと思える日々が続いている状況。しかし急に生きることに倦み、変わらない日常に絶望する瞬間があるのかもしれません。
物語のラスト、自殺をするために出かける2人が家のブレーカーを落とすかどうか相談するシーンがあるのですが、このブレーカーがライフゲージなのかも。いとも簡単に自らの人生をゲームオーバーできるブレーカー。「死」というものを改めて考えさせられた一冊でした。
おおくぼかよこ / ’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」(TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。
撮影/田頭拓人 取材/柏崎恵理 ※情報は2021年6月号掲載時のものです。