SAPIX YOZEMI GROUP髙宮夫妻が抱える「家庭内ダイバーシティ」
VERY NAVY 5月号で、これからの時代の“インターナショナルな子育て”について語ってくださった髙宮信乃さん。実はこの時、夫でありSAPIX YOZEMI GROUPの共同代表、髙宮敏郎さんも多忙な中会話に加わってくださっていました。今回は、誌面ではご紹介できなかったスペシャルな夫婦対談をweb限定で公開します!
――「グローバル化する世界で子どもたちに伝えたいこと」記事は<こちら>の通り、やはりこれからの子育てで留学などの海外経験を積ませることは大きな選択肢になると思いました。
髙宮敏郎さん(以下敏郎):そうですね。教育の質を数値化して順番に並べることへの批判の声はアカデミアを中心に強くありますが、世界ランキング上位の多くを占めるアメリカの大学に世界中から優秀な子が集まってきているのは事実だと思います。その結果ハーバードは倍率も30倍近い。その中で選んでもらうためにはかなり頑張らなければならないですし、日本からもアメリカのボーディングスクールに、という例は増えています。さらにジュニアボーディングで中1、2くらいから留学するケースも目立ちますね。
髙宮信乃さん(以下信乃):我が家では分散投資というわけではないですが、3人の子どもたちは日本の学校とインターと、別々に通っています。さらに留学したり海外に出て、動かなければ掴めないチャンスがあると思うんですよね。インターに通っている小3の娘は、自然とアメリカの大学に行くと思っているようです。「海外で寮生活になるとなかなか会えないけど、パパママたち大丈夫?」って心配されています(笑)。
敏郎:僕はアメリカの大学院に留学していた際、指導教授から「ハーバードに面白い学生がいるから会ってきたら」と言われたことがあって、それがFacebook創業者のマーク・ザッカーバーグだったんです。当時の僕には、サービスの価値もわからなかったし自信もなくて。あの時会いに行ってビジネスをとってこれていたら、今日違う形でお会いしていたのかなと(笑)。世界に出れば思いがけない大きなチャンスがあって、子ども達にはそれを逃がさない行動力や語学力はつけてほしいと願っています。
信乃:日本の未来のためにも、グローバルにチャレンジしなければいけないという視点もありますよね。
敏郎:僕は47歳で同じ学年が200万人以上の団塊ジュニア。去年一昨年生まれた子どもは90万人を下回り、今年は80万人を割り込んでしまうかもしれない。そんな日本にあるからこそ、世界に視野を広げていかないといけないと思うんです。
信乃:でも日本の教育がダメかと言ったら全然そんなことはなくて。各国の教育を受けて育ちましたが、例えば中等教育は日本が世界一だと思うんですよ。詰め込みは悪だと言われても、やはりインプットの上にしか学びは成り立ちません。それにアジア人は算数が強いことがアドバンテージ。中学受験で鍛えられていることにも意味があると思うんです。
敏郎:九九も、アメリカと違って日本では覚えますよね。パッとどれくらいの大きさか計算機を使わなくてもイメージできます。アメリカでは計算機使ってもいいよと思考を重要視するやり方で、その良さもある。でも日本式の形を覚える訓練の上での思考力があればより強い。英会話でも80のフレーズだけ暗記すれば大丈夫というアプローチがありますが、深く話をするのに身につけた単語の数は絶対に大事なんです。知識と思考力の両輪を鍛えることが、これからも必要だと思います。日本の教育に携わる立場として、流行り言葉に本質を見失うことがないよう肝に銘じています。
信乃:基礎は大事ですね。インプットありきのアウトプットであって、アメリカの教育はアウトプットばかりかと思われますが、実はものすごい量の本を読みます。インプットは当たり前だから大袈裟にしないだけなんです。
――信乃さんは世界7ヵ国育ちでアメリカの大学ご卒業。敏郎さんは一貫校の中学から大学まで慶應義塾、社会人経験ののちに留学。受けた教育の良さはどのあたりに感じますか?
敏郎:慶應には、小・中・高・大と様々な段階で入学可能ですが、一番倍率が高いのは幼稚舎。その凄まじい競争を見聞きして、正直、費用対効果はどうなんだろうと思っていたんです。でも40歳を過ぎたら、改めてすごい学校なんだなと思い直して。ネットワークもあるし、活躍している同級生がやはり多いんです。
信乃:「ネットワーキング」は日本人には苦手な分野かもしれないのですが、誰を知るかで人生が変わるし、能力の一部に入ってくると思います。これを目指したいと思った時に、その分野で活躍している人にアプローチすることは大事で、会おうと本気で思えば会えるものだと思うんです。最近はSNSなどを駆使して「憧れの人」にどんどんアプローチできるようになってきました。でも、慶應やボーディングスクールで培った濃密な人間関係の価値が損なわれることはないと思います。同級生や卒業生に活躍している人が多い学校をお勧めします。
どこにでもある
“家庭内ダイバーシティ”
リスペクトしあうことが大事
――ではやはり同じような学校にお子さんたちには行ってほしいですか?
敏郎:そうした一貫校の良さも理解しているし、海外のボーディングスクールの価値も知っています。授業料は高いですが、一流ボーディングスクールの教育環境は本当に素晴らしい。中学受験にかぎらず、高校受験、大学受験、海外進学と様々な進路があるわけで、個人的には子どもたちが選択できる引き出しは多様な方がいいと思っています。これじゃなきゃダメということは我が家にはないですね。ただ、教育は誰と受けるかが大事というのは絶対に言えます。例えば留学したことがある子が近くにいるだけで見える世界が違いますから、中学受験をするにしてもいろんな子が集まってきているところの方が、人生の幅は広がる。誰と学ぶかは、誰から学ぶかと同等かそれ以上に重要で、一生の財産になっていくものだと思います。
信乃:私は日本生まれですが、パキスタン、香港、ジャカルタ…と7カ国渡り、NYで高校・大学へ。22歳で帰国してから日本にいます。それぞれの良さもありますが、日本は様々な国に比べても素晴らしい国なのに、どうして後ろ向きなのだろうと。先ほども言ったように公立含めて中等教育は世界一だと感じているので、その後の学びを応援しないといけないですね。
敏郎:これだけ異なる環境で育っているといろいろなことが違って見えるんですよ。例えば、軽井沢にインターナショナルスクールが開校したとき、1学年80人と聞いて、学年に800人以上いた僕は思わず「少ないね」、反対に妻は「そんなにいるの!?」。80人というファクトが、ある人は10分の1に、またある人には何倍にも見える。多様性がなぜ大事かといえば、これは常識ではないんだと気付けることなんだなあと。
信乃:うちは家族内ダイバーシティがありますね。我が家ほど極端ではないにしろ、夫婦で全く同じ教育を受けたという方は少ないと思うんです。経験したことしかやはりわからないですし、そこは理解してリスペクトしあうしかない。あとは夫婦って、子どもたちが生まれてからの発見も多くあるものですよね。
敏郎:先日は子どもに歌っているのを聞いて、妻がコーラス部だったことを知りました(笑)。コロナ禍で今、僕が家にいる時間が長いんです。8歳になる双子がまだ小さかった時は、早朝に出社、出張ばかりで夜も遅く、懇親会だ会食だって、毎日よくあんなことが許されていたな、と今振り返って思っています。ライフスタイルってこんなに変わるんだと。
信乃:コロナ前までは家族で夕食をとったことはほぼなくて、その点ではやっと世界のスタンダードに追いついたというか。海外では家族との時間をとても大事にします。私も仕事柄、春休みなどは繁忙期で自分の子どもとゆっくり過ごせず後ろめたさがあって…。穴埋めはしたいし、無理にでも時間は作っていくものだと今は思っています。
敏郎:うちは、母が専業主婦だったんですね。僕の中学受験が落ち着いた時、社会に役に立ちたいという思いで母が苦しんでいるのを見てきました。だから結婚して妻が仕事を続けることに違和感はなかったし、罪悪感を感じないでほしいなと思っています。
信乃:夫は今、家のことも私以上にやってくれますし、私自身働いていることはとても楽しい。それでも時に良心の呵責にさいなまれ、「働くママは輝いていなきゃ」といったような「~べき」論にとらわれてしまうことも。ただ、今は娘といろいろ話せるようになり、応援してくれるんですね。週末ヨレヨレになっていると、「今日いつもと違うよ。ママどうしちゃったの?」とか。でも、それを含めてママなんです(笑)。女性が働くことをごく当たり前に受け止めてほしいし、将来何になったらいいかな?と自然に話しています。
Profile
髙宮信乃さん
1978年東京都生まれ。イスラマバード、香港、ジャカルタ、ワシントンD.C.、横浜市、ハルツーム、キャンベラと幼少期を過ごし、ニューヨークで高校・大学生活を送る。リーマン・ブラザーズ証券株式会社などの外資系金融機関を経て、現在、SAPIX小学部などを運営する株式会社日本入試センターの国際教育事業本部長、北米ボーディングスクール留学をサポートするTriple Alphaの取締役会長、株式会社ベストティーチャーの取締役副社長。夫でSAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏との間に、8歳の男女の双子、1歳の男の子がいる。
Profile
髙宮敏郎さん
1974年東京都生まれ。1997年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て、2000年より学校法人高宮学園に。ペンシルバニア大学で教育学博士号を取得。09年より副理事長となり、現在SAPIX YOZEMI GROUP共同代表、学校法人高宮学園 代々木ゼミナール副理事長、株式会社日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。信乃さんと2008年に結婚。
撮影/杉本大希〈zecca〉 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子
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