「男らしさ」からの脱却。リベラル目線で選ぶ男子校の今

男だから、女だからと性差にとらわれるよりも、自分らしく生きてほしい。多くの親がそう望み、社会のジェンダー意識も高まる中で、女子校のジェンダー教育は盛んな印象がありますが、男子校はどうなのでしょうか? VERY NAVY12月号に掲載された『女性の「自立」目線で考える、女子校選び』の男子校版として、スタジオキャンパスの矢野耕平先生と中学受験カウンセラーの安浪京子先生にお話をうかがいました。

編集部(以下、編)女子校と比べると、男子校のジェンダー教育はあまり見えてこない気がします。学校説明会でも触れられることはまずありません。そこで、学校の内部をご存知のお二人にリベラルな視点を身につけられる男子校についておうかがいしたいのですが、まず、男子校に向いているのはどんな子でしょうか?

矢野先生(以下、Y 女子校と同じで、オタク気質の子は男子校が向いています。男から見ると、何かを突き詰めている奴ってかっこいいんですよね。共学だと女子からかわかわれてしまうような趣味なども、男子校ならとことん突き詰められます。あと、女子のほうが一般的に精神年齢が高いので、共学では男子が幼くなりがちですが、男子校なら男子だけの環境で人間としてぶつかり合うことができる。この経験は思春期の子どもにとって貴重だと思いますね。

安浪先生(以下、K 異性の目を気にせずのびのびできるのは、別学の良さですね。この前カウンセリングしたお母さんが「息子は絶対に共学に行かせたいんです。すごく不潔で、お風呂にも入らないし歯も磨かないので、共学に行ったら少しは気にしてくれるかと思って」と言うので、「お母さん、逆です。絶対に男子校ですよ」とお話しました。

 「御三家などの男子難関校は、専業主婦の母親が勉強をしっかり見ている家庭が多いイメージ」という読者の声も聞きます。そこで男子校に入ると、さらにジェンダー意識が偏りそうな気がするのですが……

Y 僕の体感として、専業主婦家庭の比率はどんどん減っています。共働きは当たり前ですし、難関校だからどうということはないと思います。ジェンダー意識で言えば、御三家のひとつである麻布の平校長は「男しかいないので、女性を大切にする子が多いと思います」とおっしゃっていました。ある時、生徒が女性教師をからかったところ、授業中に泣いて職員室に戻ってしまったことがあったらしいのですが、生徒たちが「どうするよ」と慌てて、みんなで職員室に謝りに行ったと。妊娠してお腹が大きい先生のところに、生徒が授業前にやって来て「先生、荷物持ってくよ」ということもあるようです。男だらけの環境だからこそ、女性に丁寧に接しなければと心がけているように思います。女性との距離感がわからなかったり、奥手になってしまう子がいるのは、女性を特別視して慎重になっているからではないでしょうか。男子校出身だから男尊女卑になるとは、僕は思わないですね。

K むしろ共学のほうがそういった意識は作られやすいかもしれません。共学では生徒会長は男子、力仕事は男子などの性別役割分担が生まれる傾向があります。もちろん、学校の雰囲気にもよりますが。共学校でフェアな価値観を身につけてほしいなら、帰国子女が多い学校を選ぶのはひとつの手かなと思います。

Y 先日、桐朋の取材に行ったのですが、桐朋は生徒の発案で勉強会をやっているんです。ある時のテーマが、乳幼児をお持ちのお母さんと妊娠中のお母さんに集まってもらって、お腹を触らせてもらったり、赤ちゃんと触れ合ったりする会で、それがとても盛り上がったんだそうで。すごく素敵な話ですよね。実は、男の子がいる同業者と集まって「息子にどこの学校に行ってほしい?」なんて話していた時に、全員から名前が挙がったのが桐朋でした。

K 性教育もまったく違っていて、別学は比較的しっかりやりますよね。女子校はオブラートに包みませんから、生々しいくらいだと聞きます。

 リベラル目線もふまえた上で、お二人がおすすめする男子校はどこですか?

Y 僕はなんと言っても、桐朋ですね。環境がとにかくいい。設備が充実していて、プラネタリウムや天文ドームもあるし、野球場は夜間照明付きで本格的。サッカー場もあるし、図書館の蔵書もすごいです。僕は学校の器って大事だなと思っています。その点では、学習院も魅力的です。豊島区の緑の4分の1は学習院の森というくらいで、目白という都心にありながら緑が深くて広々している。附属校なので大学受験は考えず、たとえば理科の授業ではずっと実験をしていますよ。じっくりと考えることを教えてくれます。武蔵も贅沢な環境ですね。敷地内を川が流れていて、サッカー場も野球場もありますし。良いコーチがいて、最近はサッカーがすごく強いみたいですね。

K 私は世田谷学園です。ちゃんと子どもを見てくれて、特に不登校の生徒へのケアが手厚い。出口としての進学実績もいいです。無難に見えますが、イメージ以上に良い学校だと思います。

Y あと、城北もおすすめです。広々していて、部活動にも一生懸命。先生はすごく丁寧に子どもを見てくれるし、なにしろ出口がいい。できない子もちゃんと見てくれて、学力を伸ばしてくれる学校です。

K 私は巣鴨も好きです。将来を見据えた知力とは何か、を元に様々な仕掛けを作っています。あとは、栄光学園と聖光学院。栄光は人間教育に熱心ですし、聖光はちょっとキラキラ系なイメージがありますが、徹底的な勉強と深い教養を身につけさせるカリキュラムが徹底しています。

Y 聖光は、先生の教養の深さは他校の追随を許さないですね。先生はほとんど院卒ですし、工藤校長の統率力が本当にすごい。今回のコロナ禍のオンライン対応も一番早かったのが聖光。3月の時点で、9時から15時まで勉強する環境を整えた対応力は素晴らしかったですね。

 旧来の男らしさを象徴するような行事が残っている学校もありますが。

K 確かに行事として残っている学校はありますが、女子校でもそういう学校はありますし。その行事のマイナスイメージだけが一人歩きしているみたいですね。実際はその行事にももっと奥深い意義があります。

Y 今の男の子は優しくていい子が多いですし、中学受験をするような家庭の子なら尚更、ほんわかしています。男らしさを押し出す学校は、逆に思い浮かばないなぁ。

K 基本的には、入ってみて「ついていけない!」という位、強烈な個性の学校はそれほどないですよね。

 となると、何を基準に学校を選べばいいのか迷います。

K 親御さんが学校選びに真剣になるのはわかりますが、学校に入れたからといって、子どもを染め上げてくれるわけではありません。あくまで環境があるだけですから。

Y 保護者を見ていると、学校に期待しすぎかなぁと感じます。それでもレベルの高い学校に行ったほうがいいと思うのは、会話のレベルが全く違うから。中高6年間にどんな友達と付き合うかは非常に重要ですし、語彙も豊富で考えをしっかり持った友達と会話するのはプラスになりますよね。

 そう聞くと、少しでも偏差値の高い学校に入ってほしいと思ってしまうのが、親の本音ですが……

Y ひとつ重要なのは、親が一生懸命になりすぎないこと。子どもの勉強に付き添いすぎないことですね。中学受験では親力が試されるなんて言われたりもしますが、必死になって勉強を見るのではなく、上手に距離をとって見守れるのが親力。必死になればなるほど、上手くいかないことのほうが多い気がしますね。

K 中学受験は学びの基盤を作る時期ですが、とはいえ、期限も決まっているわけで。どうしてもそこを醸造できないジレンマはありますね。

Y 聖光学院の先生から聞いた話で、入学してくる子は確かにみんな優秀だけど、1年の夏が終わると、親がべったり付き添っていた子は成績が落ちてしまうそうです。親にとっては志望校に入学したことがゴールですが、子どもにとってはそこがスタート。大切なのは、中学受験勉強を通して自立させていくこと。それができた子なら、どこの学校に入っても大丈夫だと思いますよ。

Profile

安浪京子先生

中学受験カウンセラー
中学受験算数のプロ家庭教師として、数年先まで予約が入るほどの人気と実績を誇る。中学受験に関するセミナーや著書も多数で、中学受験カウンセラーとしても活躍。通称「きょうこ先生」。

Profile

矢野耕平先生

スタジオCAMPUS
大手塾に十数年勤めた後、中学受験専門塾スタジオキャンパスを設立。著書『旧名門VS.新名門校』『早慶MARCHに入れる中学・高校』など、学校への取材経験も豊富。

撮影/杉本大希 取材・文/宇野安紀子

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