【東京アートパトロール】名和晃平「Oracle」
名和晃平さんの個展「Oracle」が表参道のGYRE GALLERYで開催中です。名和さんといえば、京都芸術大学教授、創作プラットフォーム「サンドイッチ」の主宰を務める彫刻家。鹿の剥製などをガラスビーズで覆った「PixCell」シリーズや人体の3Dスキャンに様々なエフェクトを施すことで作られた彫刻作品シリーズ「Trans」などでも知られている人気作家です。
今回の展示は、新作が中心で様々なシリーズが入り混じった、見応えのあるものになっています。異なるシリーズを同じ展示空間で見せるのは今回が初めてのチャレンジで、作家自身も空間構成を考えることに時間を費やし、結果そこから見えてくるものを楽しみだったのだとか。
展示で最も目を奪われるのが、奈良国立美術館に収蔵されている14世紀の作品《春日神鹿舎利厨子》へのオマージュとして作られた《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》(通称:雲鹿)。
《春日神鹿舎利厨子》を3Dデータにして、京都の仏師と協力して木彫、漆塗り、箔押しなど伝統的な技法を施したもの。鹿の背中に乗せられた舎利の内部には名和作品で多く用いられる、透明なボールも見られます。
春日大社では神の使いと言われる「鹿」。
14世紀から21世紀へ、この鹿は時空を超え神様からのどんなメッセージを届けたかったのだろうかと空想が広がりました。
“Trans-Sacred Deer (g/p_cloud),” 2020, mixed media, h1320 w1350 d435mm, NARA TSUTAYA BOOKS, Nara / Japan, photo by Nobutada OMOTE | Sandwich
他にも、複数のメディウム・オイル・油絵具などを混合して、新しいテクスチャーを生み出したペインティングや、UVレザーを用いた新作なども。
展示風景より。《DUNE♯16》
DUNEは粒度の異なる絵具、水などを混ぜ合わせてキャンバスの上に流すことによって様々な表情をつくるペインティング作品のシリーズ。
展示風景より。《Pixcell-Reedbuck(Aurora)》
透明な球体に囲まれた鹿、遠目は神々しいイメージなのですが、近づくと球体同士が透けて別のイメージが浮かんだり、鹿の毛が透けて見えたり、不思議な感覚に見舞われます。
更に、この展覧会と一部連動した新しい取り組みとしてリリースされたのが現代アート作品を最新のAR技術を使って体験できるアプリ『AR×ART』。
アプリを入れると名和作品がARで登場して、自分でスマホで撮影する写真画面の中に入れこめるというもの。玄関やダイニングテーブルの上にいきなり名和作品の鹿が出現してアートを楽しむ、そんな使い方もできる新しい体験型アプリです。
作家の名和晃平氏。
1975年生まれ、現在は京都を拠点に活動。奥様は「美女採集」で知られるアーティストの清川あさみ氏。
展覧会名の「Oracle」とは予言、神託、神のことばといった意味。リアルな作品だけでなく、AR作品をも通して様々な未来への道しるべを感じられる、刺激的な展覧会です。
【DATA】
名和晃平 個展「Oracle」
展示期間:〜2021年1月31日(日)
会場:GYRE GALLERY
東京都渋谷区神宮前 5 -10 -1 GYRE3F
開館時間:11:00〜20:00
入場料無料
AR x ART KOHEI NAWA
(URL:https://adp.au.com/augart/arart_kn)
※スマートフォンのAppショップで名和晃平のワード検索で見つかります。
文/安西繁美
女性誌やカタログで主にファッション、食関係、アートの企画を担当する編集・ライター。流行には程よく流されるタイプで、食いしん坊、ワインと旅行好き。家族や友人に美大出身が多いのに私は画力ゼロ。描けないけど書けるようになれたらいいなと。GYREは明治神宮へと続く表参道沿い、神様のお住まいが近いから鹿もたくさんの最新の伝言をとどけてくれそうです。