《連載》「それどこの?」と訊かれるフレグランスは、爽やかで女らしくてモダンな香り〈30年間 美容エディターのコラム〉
編集Iの「30年目のコスメ愛」第20回
夏は香りを楽しむというよりはデオドラント目的だったり、さらに今年はマスクスプレーのような防御&快適に過ごすものや、気分を安定させるアロマオイルなどが主流だった気がします。しかし秋冬はフレグランスのオンシーズン。楽な服からおしゃれスタイルにフルチェンジしたら、本格フレグランスをつけたい気分が高まりますよね。 フレグランスにももちろん流行があるのですが、1925年に発表されたシャネルの「ガーデニア」以外では、私は2014年~2018年に出た香りが好きで、そのままリピートしているものが多いです。その頃のフレグランスは、洗練された爽やかさと女性らしさが共存しており、少しスパイスが利いていて、それによってモダンな感じに仕上げがっているような気がします。 ニットやストール、コートの中からほんのり香って「どこの香水?」と訊かれることが多い、くどくない、でも馥郁とした香りを紹介します。
2016年発売:ジョー マローン ロンドン/バジル & ネロリ コロン
ジョー マローン ロンドン(以下、ジョー マローン)では、香りの構成をトップノート、ハートノート、ベースノートと言い、「バジル & ネロリ(写真左)」はトップノートがバジル グラン ヴェールとシダーニードル(杉葉)、ハートノートがネロリとオレンジビガラード(苦みの強いオレンジ)、ベースノートがホワイト ムスクとベチバー。 私は香水を選ぶとほぼネロリが入っているほどのネロリ好きです。ネロリは何の香りかというと、ビターオレンジの花を水蒸気蒸留してエッセンシャルオイルが得られます。名前の由来は17世紀に流行させた公爵夫人がローマの北西にある町「NEROLA」に住んでいたことから。植物の名前じゃないのが面白いですね。 ジョー マローンはライム バジル & マンダリン コロン(1994年ロンドンでのオープン当時から人気のコロン)もありますが、こちらはバジルがハートノート。バジル & ネロリはネロリの花の香りのおかげで優雅さが加わっており、少し女性的で、そこが好きです。 ジョー マローンは「フレグランス コンバイニング」という〝重ねづけ〟が有名ですが、バジル & ネロリとライム バジル & マンダリンをコンバイニングすると、ネロリの花の香りよりも上質な柑橘系の香りが立ってきて、強さが欲しい人向きに。つけた瞬間よりもしばらくたってからがいい感じです。 もう一つ、ジョー マローンで人気の香りである「イングリッシュ ぺアー & フリージア コロン」(写真右)。トップはキングウィリアム ペアー、ハートはフリージア、ベースはパチョリ。果物の中でも洋梨は官能的な甘さを持っていますが、甘くなり過ぎないのがジョー マローン。バジル & ネロリが普段使いなら、こちらは少し改まった時にもOK。ちなみにバジル & ネロリとイングリッシュ ぺアー & フリージアをコンバイニングするとこれがまた素敵。フレッシュでありながら、温かみのある香りに変化します。
2018年発売:CLEAN/クリーン リザーブ アクアネロリ オードパルファム
もう一つもネロリの香りです。好きすぎて家と会社に1本ずつ置いている「クリーン リザーブ アクアネロリ オードパルファム」。2003年、石鹸の香りとして大ヒットしたCLEAN、美ST世代には懐かしい香りですね。清潔感ある心地よさはそのままに、グレードアップした豊かな仕上がりになっています。 トップはベルガモット、マンダリン、シシリアンオレンジ、ミドルはジャスミンとネロリとラベンダー、ラストはムスクとアンバー、サンダルウッド。なんと、調香師のスティーブン・クライスはトップからラストまで香りの印象が変わらないように作りました。香水は自分の身体の香りと馴染んで変わっていくのが醍醐味とはいえ、テイスティングして好きだったのに香りが変化してしまい残念だってこと、私、よくありました、それは正しい! 南イタリアのベルガモットの農家支援を行い、スリランカ産サンダルウッドは生態系や環境に配慮した方法で抽出しているのも、今の時代、購入したくなる理由の一つです。
2014年:クリード/オードパルファム アクア アジアン グリーンティー
以前、パルファムソムリエールの診断を受けたことがあります。香水をまったく嗅ぐことなく、「休日は何をしていますか?」「好きなファッションは何ですか?」「旅行で行きたいのはどこですか?」など、かなり多くの質問を受けて、自分に合う香りを選んでもらいます。その時、私に選ばれたのはクリードの「オードパルファム アクア アジアン グリーンティー」。 私はそれまでクリードはノーチェックでした。1760年ロンドンに創設され、1854年にパリに移転したという歴史の長さやボトルのクラシックな印象が強かったからです。調香師オリビエ・クリードによって作られ、2014年に発売されたこのフレグランスは、トップ・ミドル・ラストと単純に3つに分けられず、ベルガモット、ミカン、レモン→ヴァイオレット、ローズ、ブラックカラント、グリーンティー→アンバー、サンダルウッド→ムスク、とそれぞれが重なりながら香りが移り変わります。私はお茶のフレグランスも好きなのですが、アジアン グリーンティーは最初のシトラスが相当長く持つのがすごいです。
2014年:メゾン フランシス クルジャン/ア ラ ローズ オード パルファム
バラは特別な存在ですが、実はバラの香水が苦手でした。重くて「香水つけてます!」感が出てしまったり、甘すぎたり。本物のバラの香りって林檎のような爽やかさがあるのになぁ(林檎はバラ科です)……と、残念に思っていたところ、このメゾン フランシス クルジャンの「ア ラ ローズ オード パルファム」は違っていました。 フランシス・クルジャンは1969年生まれ。1995年、ジャン ポール ゴルティエのメンズフレグランス「ル マル」を初調香してスター調香師の仲間入り、2001年にオーダーメイドフレグランス専門アトリエ、2009年にメゾン フランシス クルジャンをオープンしました。香水に関する世界的な賞、芸術文化勲章も受賞し、欧米ではクルジャンが調香する香水は話題の的に。 2014年10月に日本発売された「ア ラ ローズ」は、本物のバラの香りがします。バラの香水にありがちなねっとり感がないのです。「ア ラ ローズ」の中のバラは2種類、グラース産のセンティフォリア・ローズとトルコ産のダマセナ・ローズの上質なバラ。トップにベルガモット、レモン、オレンジ、ミドルにスミレ、パウダリー、ベースにシダー。バラの花の華やかさに加わった「軽さ」「新しさ」「知的さ」「自由さ」。やっぱりクルジャンは天才なんですね。 「ア ラ ローズ センティッド シャワークリーム」もゆっくり入浴できる時に使用しています。「ア ラ ローズ オード パルファム」よりももっとフレッシュですが、香りが長続きしてうっとりします。
おまけ:シャワージェルで癒される
ロジェ・ガレ/エクストレド コロン テ ファンタジー、エクストレド コロン ジンジャー エクスキ
我が家の浴槽は入浴剤を入れることができずちょっと楽しみが少ない。だから香りのいいジャワ―ジェルをいろいろ試しています。その中で使い勝手がよく香りも好きでリピートしたのが、ロジェ・ガレの「テ ファンタジー」「ジンジャー エクスキ」。 「テ ファンタジー」はその名のとおり、お茶のフレグランスなのですが、調香師アルベルト・モリヤスは「よくあるアールグレイとは違う新しいベルガモット風味のお茶、そんな香りを目指しました」と言っています。ブラックティーにレモンの爽やかさ、ベチバーやサンダルウッドに加え、インドに自生するスパイシーな香りのシピオルとメープルの香りを感じるベンゾインで、スモーキーな紅茶のイメージを与えています。甘すぎない香りがバスルームにぴったり。 「ジンジャー エクスキ」は、トップはジンジャーとレモンやベルガモット、グレープフルーツ、次にジンジャーフラワー、ジャスミン、オレンジブロッサム、アイリスが香り、ベースには砂糖漬けのジンジャーのような濃厚な香りを演出するムスクやアイリス、ジンジャー根。調香師のナタリー・ローソンが「この香りの主役はジンジャー。ジンジャーそのものすべてに光をあてたい」と言っていますが、シトラス→フローラルの優しい香りに少しスパイスが利いているくらいなので使いやすい香りです。
〈Information〉
ジョー マローン ロンドン:https://www.jomalone.jp/
CLEAN:https://www.latelierdesparfums.jp/
メゾン フランシス クルジャン:https://www.latelierdesparfums.jp/
ロジェ・ガレ:https://www.roger-gallet.jp/
クリードは現在公式サイトがありませんが、オンラインで購入できるサイトがあるようです。
編集I/ビューティ編集歴29年。愛ある視線で厳しく化粧品を選ぶ。アジアエンタメ、「NODA MAP」、「大人計画」関連好き。糖質コントロールで9キロ減量しましたが、コロナ自粛で運動不足になり、先日の健康診断では3キロ戻っていました(涙)。美ST本誌で連載「新・名品コスメの殿堂」が2020年1月号から再開されています。Netflixで待ちに待った「ザ・クラウン」 シーズン4が配信開始になり、シーズン4から故ダイアナ元妃が登場。サッチャー首相の時代になりイギリスは暗くてツライ社会情勢、チャールズ皇太子とダイアナ妃も希望が見えかけてはまたすぐに上手くいかず……。全体的に沈鬱なシーズン4ですが、それでも人間模様や感情の細かい表現が素晴らしい。それに、ここまで赤裸々に描くドラマに英国王室がプレッシャーを与えない度量の広さがすごいと思います。