【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす⑧Rouge 秋をあつめて
小雨が続く。庭がしっとりと潤ってきた。
今日の雨はかすかな音。
時折パラパラとせっかちに走り出したかと思うと、雲の上に乗って太陽のひかりとかくれんぼうをしている。
雨音が消えた。
今だ。その隙間をぬって、さっと庭に出た。
家の中で聞いていた冷たい雨音が嘘のような陽射し。まるで別世界に入ったようだ。
たっぷりと水の含んだ芝生を踏みしめ、植物と植物の間をざくざくとかき分けるように歩く。小さな水しぶきが足元を濡らす。長靴を履いてきてよかった。
庭の色がまたほんの少し新しくなっていた。
柿色や赤銅色、鮮やかな赤やオレンジ色、透き通った黄色。庭のあちらこちらにダンサー達がちらりと姿を見せている。ゆっくりと舞台の幕が上がる時が来たようだ。
冬を迎える前、植物は燃えるように色を付ける。
いつも控えめに花の後ろに構えている緑色の葉が秋になると様々なニュアンスの色に変わり、そして潔く、あっという間に散っていく。
自然の色を見ていると子供の頃、母が学校用にと持たせてくれた48色の色鉛筆のことを思い出す。飽きもせずいつまでも眺めていた。赤色や青色などと呼ばれているものの中に何種類ものグラデーションがあることを知りその虜になった。深い赤、爽やかな赤、滑らかな赤。ピアノの鍵盤を一つずつ押し、一音一音、その音色を確かめるように色を目で追うのが楽しかったのだと思う。
自然の色は生きている。
海を見る時、影があり、ひかりがあり、その青の中には無限の青があり移り変わっていく。一日の中で幾度か見上げる空の色も同じだ。
そしてその、それぞれの微妙な色に名前をつけることなど本当はできないだろうなと思う。
それはピアニストが奏でる音のようでもある。
ある人が例え同じ曲を演奏することが何回あったとしても、その度にその時々の音があるに違いない。
秋になると赤をあつめたくなる。
赤の持つその意思の強さとそのひかりが好きなのだ。
家の中はまだ薪スト–ブをつけるほどでもないが、夜になると少し肌寒い。
この色のおかげで部屋がぱっと暖かくなり、膝の上に猫がのっているような、ずしっとしたぬくもりを感じる。
真っ赤なローズヒップを庭から切り出した。
この色はきっと今日だけのもの、明日になればまた違う色に移りかわっているだろう。
秋の瞬間を楽しもう。
音を楽しむように。
文・西田啓子/ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/