【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす② 土に生まれ土にかえること。
お昼ごはん用の野菜を取りに、畑へ我が家の犬と一緒に出かける。
この犬は農園で生まれた立派な雑種である。
ここで生まれ育った持ち前の本能でこの広大な庭を私以上に知っている頼もしい友だ。
この犬に連れられ、あちこち引っ張りまわされ思わぬ場所に辿り着き思わぬ植物に出会うことが多い。
トマトをもぎ取ろうとしていた私の横を犬がごそごそと通り過ぎた瞬間、
すごくいい香りがした。
バジル。薹が立って花が咲いた後、種ができている。
きれい。
その妙な美しさにドキっとしてしまった。トマトのことをすっかり忘れて、それを、がさっと切り取る。ズッキーニを取りに行くとその近くにボルドー色のスカビオサが咲いているのが目に入り、またちょっと切ってみた。
野菜を取りに来たはずなのにかごの中には花まで入っている。
家に帰ると、裏庭では春に種をまいたコスモスがきれいに咲いていて、これもまた切り足して他の花と共に下葉を取り落とし、急いでたっぷりの水につけて水揚げする。
落とした葉は後でコンポスト(堆肥を作る場所)に出す為に容器にまとめる。
そして束ねる。その花の持つそのままの美しさを壊さないように。
考えてみれば、フローリストの仕事をする時も基本同じだ。その時に美しい季節の花々を切り束ねる。そしてウェディングの花などは、回収後枯れてしまったらコンポストに入れる。
土から生まれたものは土に帰す。
植物・花を土に帰すことは特別なことではなく、日常生活で野菜の皮や卵の殻などをコンポストに入れることと同じなのである。
確かに花や野菜を育てたり庭仕事が生活に入ってくると、自然全体の営みに目が行くようになったような気がする。それは頭からと言うより日々の生活の中で、土を触ることで、何か身体の感覚に自然に入ってきたような感じだ。
種をまき・双葉が出て・大きくなり・花が咲き・種となり枯れていき土に戻る。
植物の一生のサイクルを日々感じながら暮らしていると、ストン、と気持ちがそこに落ち着く。ここではみなきっと当たり前のことを当たり前にしようとしているのだろう。
ローカルの花を使いエコロジーや自然のリズムに敏感なファーマーズフローリストと呼ばれるような人々が欧米諸国でちらほら現れ始めているけれど、今の地球の現状を考えると、それはやはり自然な流れなのかもしれない。
まな板の上の青臭い匂いのトマトとバジルをサラダボウルに入れる。
その香りで急にお腹がすいてきた。
ご飯できたよ!大きな声で家族に声をかけた。
文・西田啓子/ファーマーズフローリスト Instagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/