作家・山内マリコさんが推薦! モテ呪縛から解放される「 女性のためのハンドブック」3選

5月27日、『The Young Women’s Handbook』を発表した作家の山内マリコさん。

これはもともと雑誌『JJ』読者向けに発信していたものですが、前向きに生きながらもあらゆる社会規範の中で自由になりきれないすべての女性たちへのメッセージとして、VERY世代にも刺さる内容になっています。発売を記念して、山内さんにインタビューしました!

 

作家・山内マリコさんが推薦! モテ呪縛から解放される「シスターフッド本」3選

山内マリコ/作家。1980年生まれ。25歳で作家を志し、32歳のとき『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。他の著書に『あたしたちよくやってる』など。

 

 

――山内さんは今年40歳。20代の頃はまさに赤文字系雑誌のモテOLブームの真っ只中でしたよね。

 

10代を過ごした90年代、私は雑誌『mc Sister』を愛読してました。ベーシックなファッションを教えてくれる正しい少女雑誌で、恋愛を押しつけるようなことは一切ない。自分の好きなものを着ればいいんだよと、教わった気がします。でもモテOLブームが盛りのとき、20代も後半となり、赤文字系ではなかった私にも焦る気持ちが生まれました。

20代をずっとモテ路線ブームに浸かり、知らず知らず、男に選ばれる女にならなきゃっていう考え方を、無意識にインストールしている部分があったんですね。30代は少しずつ、それを解毒していった感じ。やっと元の状態に戻りつつあるというか。40歳を前にして、年齢にとらわれすぎず、好きな格好しててもいいじゃないと思えるようになってきました。

 

――そう思うと、2000年代はどんな時代だったんでしょう。

 

経済的に余裕があった80年代は、自立した強い女性がかっこいい存在だった。90年代は不況といえども、まだ女性が個性を打ち出すことが許されていた気がします。ところが2000年代も中盤に入ってからは、派遣や契約の仕事に疲れ、女性たちは保守化していく。外で働くことがキラキラしていた時代が終わり、働くことが苦痛でしかなくなってしまった。若い女の子の専業主婦願望が目立つようになったのもこの頃からですよね。

「負け犬」という言葉が曲解されて広まったのが2003年頃。『SATC(セックス・アンド・ザ・シティ)』などでシングル女性たちのライフスタイルに憧れていたけれど、主体的に生きることに夢を持てなくなっていった。2000年代は、女性が獲得した経済力や自由が、奪われた時代だったのかな。

 

――大人になってから雑誌『JJ』で連載をされましたが、当時との違いは感じましたか?

個人的にはすごく変わったと思いました。私たちの頃は、ダイエットの特集はあったけど「服が似合う体を作ろう」という特集はなかったですよね。服の提案も、自分の着たい服を着ながら、彼目線をミックスするという考え方に変わっていたりして。今の20代は、SNSでいろんな情報、いろんな考え方を取り入れているから、おかしいと感じることはちゃんと「違う」と気づいて拒否できる。自尊心を大事にした、ゆとり教育の賜物かも(笑)。

 

――「モテ」への呪縛は、他にどんなことで感じますか?

 

世の中に浸透している物語ですね。たとえば男子を主人公にしたドラマや映画は、マドンナ的な少女にあこがれるっていう展開が必ずありますよね。だけど話自体は、スポ根ものだったり男同士のバディものだったりする。男の子にとって恋愛は、いろいろある中の一つの要素でしかない。一方、女性がターゲットの作品は、どんなジャンルでも、恋愛成就が最大のテーマになる。女子の自己実現は恋愛でしかできないっていう、刷り込みになっていたように感じます。

2010年代は、映画『アナと雪の女王』にはじまり、女性が主人公のスーパーヒーローものも登場。異性との恋愛以外にも価値を見出す物語が増えてきました。恋愛一択しかなかった女性の物語のステレオタイプが、淘汰されつつある気がします。

 

――VERY読者は、一応は恋愛からはもう自由になっています。

 

恋愛から解放されると、穏やかで平和。私も、恋愛の楽しい部分は二次元で補給してます(笑)。ただ、恋愛至上主義の物語で育ったせいか、もう恋愛しちゃダメとなると、これから先、どういう物語を生きればいいかわからなくなる人も多いのでは。祭りのあとみたいな気持ちで、この先ずっと人生がつづくのかと思うと、倦みますよね。

ここ10年で顕著だったのは、「シスターフッド」(女性同士の連帯)を描く作品がたくさん出てきたこと。今まで、女同士の友情は男同士のものと比べて弱いと思い込まされてきました。でも、本当は恋愛と同じくらい熱かったり、真実がある。女性を幸せにできる物語だと思います。

 

――結婚していても、いずれ1人残される場合の方が多いですしね。

 

女性が結婚すると、独身時代の友達関係を維持するのが難しくなって、疎遠になりがち。だけど、根っこの部分でシスターフッド的な、同性への信頼感があれば、孤独ではない。ママ友も、子育てを助け合う同志だと思えるかどうかで、違ってきそう。自分と同じ性が苦手なまま生きるのはすごいしんどいことだから、結婚した女性ほど、恋愛至上主義よりシスターフッドの物語が必要な気がします。

 

 

――本の中で、女性の自立を「自分の舟を自分で漕ぐ」ことに喩えられていました。コロナ禍で価値観が揺らいでいる女性たちも多いですよね。

 

男性の経済力をクルーザーにたとえましたが、立派なクルーザーだって沈んだり、座礁するかもしれない。そもそも乗組員同士がいいチームでないと前には進まない。コロナ禍に限らず、自分に正直でいられることは大事ですよね。「これが幸せの形だから」ではなくて、自分がのびのびできる、自分の幸せをつかむのがいちばん。

というのも、中年女性が主人公の小説や映画では、「欺瞞」がテーマになってることが多いんです。自分を偽ったまま50歳くらいになると、自分自身をあざむいてきたツケがまわるんだなぁと。

 

――それでもクルーザーを捨てるのは怖いし、「これが幸せの形だから」と押し込めている人は多いと思います。良き妻、良き母という呪縛はやはり強くて。

 

良妻賢母って言葉は、明治時代に作られたんですよね。昔ほど押し付けられてはないはずなのに、それでも女の人は真面目に、良き妻、良き母にならなくちゃと自分自身を縛って、家庭をみんな背負い込んで、苦しい思いをしています。我慢しているぶん、他人をやっかむ気持ちが生まれやすくなる。でもそれって結果的に、自分をますます苦しめることになる。まずは自分を解放して、楽にしてあげないと。女性が女性を同じ穴のムジナに押し込め合う図式は、なんの得にもならないから……。

 

――女性への「こうあるべき」が強い世の中で、女の子を育てていくのが怖いというママも多いです。

 

古い価値観は自分のところで食い止めて、濾過して、若い世代には自由でのびのびしたメッセージを伝えていく。それしかないのかなぁと思ってます。個人的には、女性の「こうあるべき」をちょっとずつ解毒するようなエッセイなり小説なり、女の子を肯定できるような有益な作品の数を増やすことに貢献したいなと。

私はフェミニズムを知ることで、自分の中の女の嫌な部分と和解できたし、楽になれた。「こうあるべき」を打破するのに、いちばん有効でした。

 

――山内さんの新著『The Young Women’s Handbook』も、「こうあるべき」からそっと解放してくれる解毒剤の1つですよね。娘が生まれたら読ませたいと思いましたし、自分のためにも読みたいなと。

 

ありがとうございます! 25歳の女性に向けて書いたメッセージ集ですが、読み返すと自分でもハッとすることがあったりします(笑)。年代問わず、女性が生きていく指針や、軸になる言葉を見つけてもらえれば、こんなにうれしいことはありません。

 

山内さんおすすめの“女性たちへのハンドブック”3選

『女子の人間関係』水島広子著 1,300円/サンクチュアリ出版

「私がフェミニズムに解決を見出したことを、心理学的に対処した相談本。噂好きや群れたがるといった女性によくある性質は、いじめられっ子の特性と近い。それは社会の中で、女性がいじめに近い待遇を受けているということ。そんな指摘にドキッとしつつ、深くうなずきました」

 

『女の子って、どうして傷つけあうの?』ロザリンド・ワイズマン著・小林紀子、難波美帆訳 1,700円/日本評論社

「映画『ミーン・ガールズ』の原作。映画では、クイーンビーをトップとする学園ヒエラルキーの人間模様が描かれていましたが、背景には消費文化があるんですよね。この本は親の立場から、10代の女の子特有のいじめと向き合った、具体的で即効性のあるHow-to本。女の子ママにおすすめの1冊」

『The Young Women’s Handbook』山内マリコ著 1,400円/光文社

雑誌やSNSの素敵なあの子にキリキリしちゃうあなたへ――。雑誌『JJ』の巻頭を飾る特集コピーに対し、思うことを綴ったエッセイを書籍化。カバーはVERY世代懐かしのクレールフォンテーヌ柄!

撮影/相澤琢磨 取材・文/有馬美穂