夫が受験に全然協力的じゃないんです。

Hさん

Hさんの場合

【家族構成】
夫、長男(小6)、長女(小2)、次女(保育園年少)
【今回相談する子どもの状況】
長男 小3の2月〜小4の1月までは早稲田アカデミー→小5の夏期講習から現在まで 栄光ゼミナールに通塾。

私は中学受験経験者。中高一貫女子校から付属の短大へ進学しています。一方の夫は、地方出身者、中学受験については消極的。小3の2月、長男が「塾に行ってみたい」と言い出したことでスタートした中学受験でしたが、自ら勉強する意識が低くて、母親である自分がかなり口出しをしてしまいます。わたしがガミガミ言うので、家庭内の雰囲気も悪化。塾の先生が変わって長男のやる気も低下したところで一度リセットすべく、小4の1月で退塾しました。仕切り直しで小5の夏から別の塾で受験勉強をスタートさせたのですが、やっぱり口を出してしまうし、夫は「お金は出すけど、今からそんなことさせて何になるの?」と言い出す始末。家庭内の足並みがそろっていないのが気になります。

H:夫が協力的じゃないんです。夫は地方出身で、中学までは公立で、高校は私立の男子進学校に入って、塾にも一度も行かないで国立大学に入って、理系で、今も本人がやりたい仕事をやっているんです。だから、「勉強なんて、本人がやる気になればやるよ」っていう感じ。

 

おおた:具体的にいま何に困っています?

 

H:子どもの面倒は基本的によくみてくれるのでいいんですけど、学校見学とかに来てほしいよなぁとは思ってます。学校について、私とじゃなくて息子と話してほしい。息子が今興味を持ってることに興味を持ってほしいというか……。

 

おおた:お母さんとしては、何のために中学受験をしているのか理解してほしい。そのきっかけとして、いい学校を見れば、少しは気持ちも変わるんじゃないかっていう意味ですよね。

 

H:はい、そうなんです。うちの夫は、自分がやりたいことがなければどこに行っても意味がないと思ってるんですけど、そんなの11歳の子どもにあるわけないじゃないですか。

 

おおた:自分のやりたいことがなければどこに行ったって意味がないと言うなら、私立に行く意味は、反抗期を含む最も多感な時期を高校受験に邪魔されず、6年間のゆったりした時間の中で、本当の自分と向き合えること。昔の地方の学校であれば高校受験と思春期の両立も問題なかったのでしょうけれど、今の都心の高校受験でトップ校を目指そうと思ったらその余裕はなかなかない。中学受験を知らない人がよく言うのが「私立一貫校っていい大学に行かせるために行くんでしょ」ってやつで、「そこじゃないよ」っていう。お母さん自身は中学受験を経験し、私立中高一貫校の良さも身に沁みてわかっている。だとしたら、そもそもなぜ中学受験をするかという根本の価値や、お母さんにとって私立中高一貫校の何が良かったのかっていうのを、改めて説明してあげてもいいのかもしれないですね。

 

H:なるほど。

 

おおた:ここから先は夫婦関係の話になりますけど、すぐにわかってくれることを期待しちゃいけないんですよ。「説得モード」になるとたいてい空回りしちゃうので。伝えたいことを予めできるだけ端的にまとめておいて、それを伝えたら、相手が「?」な顔をしていてもそこでおしまいにする。そうすると、彼の中で、反芻しながら少しずつ理解するから。説得するんじゃなくて、あくまでも自分の価値観として伝える。それに1oo%同意してくれなくていいっていうスタンス。これは夫婦のコミュニケーションの大原則。そうすると、忘れた頃に意外と協力的になってくれたりするから、その変化は見逃さないでください。そこでやっぱり「ありがとう」を伝えることでいい循環に入っていく。それが夫婦関係を少しずつよくしていくコツかな。

今、価値観がぶつかり合ってるけど、それは中学受験がなくてもいずれどこかでぶつからなきゃいけなかったこと。

H:子どもから塾に行きたい、受験したいって言ってきたから始めちゃったので、そこのすり合わせもしたことないし。うちはなんでもお互い関与しない感じなので、子どもの受験とかで初めて、お金も手間暇もかかるっていうことになって、初めてぶつかるっていう。

 

おおた:いいじゃないですか。それは中学受験が夫婦にとっての進化の機会になってるんですよ。何かあれば夫婦や家族は必ず衝突するんです。それは悪いことではなくて、関係性が進化する上で必要なこと。今、価値観がぶつかり合ってるけど、それは中学受験がなくてもいずれどこかでぶつからなきゃいけなかったこと。「これを乗り越えた時に私たち夫婦はどうなるだろう?」って、楽しみにすればいい。どちらかが逃げなければ必ず乗り越えられるから。それこそセックスレスも同じ。決して悪いことではなくて、「セックスレスになりました」「解消しました」「またなりました」「解消しました」の繰り返しで夫婦関係はだんだん進化するんだから。そこに向き合い続けることが大事なんですよ。

 

H:面倒くさがらずに、機会を見て伝えてみようと思いました。わかってくれないからいいやってどこかで思ってたから。

 

おおた:そうそう、理解してもらおうとすると喧嘩になっちゃうけど、自分の考えを伝えるだけでいいから。で、学校見学の話でしたよね。

 

H:学校見学に行くのって土日が多いじゃないですか。下の子が小さいのでどちらかが見てなきゃいけなくて、ぜんぶいっしょには行けないという現実もあります。情報が偏ったなかでどうやって志望校に対するコンセンサスをつくればいいのか……。

 

おおた:「私はここがいいと思ったんだけど、あなたの目から見てどう?今回は私が下の子を見てるからお父さんが行ってあげて」とか、「あなたがどう思うか知りたいから見てきてよ」って、いくつかピックアップするのはいい作戦だと思いますね。お父さんご自身が男子校出身なら、男子校とかを見たら素直に「懐かしい」って思うんじゃないかな。

 

H:そうですね。今でも友達付き合いは続いているみたいだし。

 

おおた:あとは学校選びというよりは中学受験に向かう意思統一の手段として、これはウルトラCかもしれないけど、都立高校の説明会に行ってみたら?中学生の親しか行けないことになっている場合が多いとは思うけど、なんとかならないかな?昔の公立高校に通っていた人たちは、自分たちがのんびりしていたっていう意識があるから、私立なんて入れたら管理されるんじゃないかって思うかもしれないけど、実は逆だと気づくから。少なくとも東京においてはそうだと思う。要するに、かつてこれほど私立が人気じゃなかった時代に、私立進学校が進学実績を上げるための教育をしていたのと同じことを、石原都知事の時代から都立高校でやり始めたという話なので。地方と東京の状況が違うっていうことを知らないままの人が多いんですよね。知り合いの公立出身のお父さんたちと話をしていても「いまは私立の方が大らかなんだね。知らなかった」って口をそろえるんですよ。だから、お父さんも、都立トップ高校の様子を見に行くと、「私立の方が、俺の昔の公立高校のイメージだわ」って思うかもしれない。

 

H:息子は内申とかも絶対に取れない気がしているので、それもあって中学受験だなと思っているんですけど、そういうのも知らないですもんね。

 

おおた:高校受験すればそこそこのいい高校に入れるだろうって思ってるでしょ?

 

H:思ってるんじゃないですか?でも残念ながら息子と夫は頭の出来が違うんです。

 

おおた:お父さんは中学受験を否定したいわけじゃなくて、「家の中がギスギスするくらいならやめようよ。後でいくらでも取り返しがつくものなんだから」っていうスタンスなんだろうね。

 

H:そうですね、否定的というよりも本当に無関心。あと、知らないから関心も持てないんだろうなって気づいたので、説明会とかに行ける範囲で行かせてみようと思いました。じゃあ、ちょっとのびやかな校風を選んで、見に行ってもらおうかな。あと、トップ校ってみんな様子を語りたがるけど、中堅どころの学校の様子ってあまり聞かないから、そのへんの情報を知りたいです。学校を見に行っても、そんなに学校の雰囲気も変わらないし……。

 

おおた:それはよく言われますね。僕もトップ校の本ばかり書いてると言われるんですけど(笑)、それはそういう学校じゃないと書籍の企画にはなりにくいからであって……。実際は偏差値に関係なくいろんな学校を取材していろんなところに記事を書いているんですよ。塾で配られるような、学校情報がたくさん書いてあるフリーペーパーみたいな雑誌とかにも。僕が書いたということが表向きわからないだけで。そのうえで、「偏差値が5や10違ったって、入ってみればそんなに変わらないから」っていつも言ってるんです。いわゆる中堅校と難関校を比べた時、確かにテストをやらせれば平均点は違いますけど、そんなの、スポーツ推薦でたくさんとっている学校の体力測定の平均点が高いのといっしょで、どんなモノサシで比べるかの違いでしかないから。じゃあ、中堅校と御三家の生徒たちが放つ絶対的な輝きが違うかって言ったら違わないんですよ。だったらどっちでもいいじゃないですか。ほんの少しの偏差値の違いにそんなに必死にならなくていいのになって思う。

つまり、子どもの目が輝いているか、体が躍動しているか、その風景に子どもが馴染んでいるか、そこを見る。

H:もう一個だけ聞いてもいいですか?子どもに学校を見せに行く時って説明会って大して楽しくないじゃないですか。でも、学園祭を見に行っても正直あまりわからないじゃないですか。何を見せに行くのが正解なのかなって。授業体験も本当の姿とは限らないし。

 

おおた:おっしゃるとおり、なかなか日常を見ることはできない。一週間くらい体験入学させてくれたらわかるだろうけど(笑)。文化祭や説明会に行ったところで学校の姿は見えないし、学校の本当の姿って通っている生徒ですらわからないですよ。でもあえて言えば、文化祭は生徒の雰囲気が垣間見える機会で、説明会は先生たちの雰囲気が垣間見える機会。あとはね、根拠のない話にはなっちゃうんですけど……。恋人選びと同じで、この人と一緒にいる時の自分が好きだとか、そういう感覚あるでしょ?おしゃべりの得意な人と出会って、表面的な会話は楽しいと思っても、じゃあその人とずっと一緒にいて自分らしく心地よくいられるかって別じゃないですか。それと同じで、子どもはたまたま面白いお土産をもらったら「この学校好き!」ってなっちゃうけど、それは当てにならない。むしろ子どもの無意識が発するサインを感じとらなきゃ。つまり、子どもの目が輝いているか、体が躍動しているか、その風景に子どもが馴染んでいるか、そこを 見る。AIなら各学校のメリットデメリットを洗い出して論理的に比較するんだろうけど、人間には「この環境は自分に合っているか」ってことを瞬時に嗅ぎ分けるセンサーがある。逆に、直感的に違和感を持ったら、それは確実にやめた方がいい。違和感の種があったら、それはどこかで必ず膨らむと思うので。

 

H:一緒に見に行って、息子がここでこの制服を着ていても違和感ないだろうなっていうのを頼りにして決めていいんですね。

 

おおた:そうそう。自分の感覚の方がスペックよりも大事。

 

H:なるほど。

 

おおた:ついでにもっと低学年の読者のためにアドバイスするのならば、小さい頃から子どもの無意識が発するサインをキャッチする練習をしておいてくださいということです。中学受験では、文字にはできない子どもの雰囲気を感じとって判断しなきゃいけない場面がたくさんある。それは急にはできないから、小さい頃から子どもを見る目を鍛えておく必要がある。どういう時にうちの子はイキイキするのか、目を輝かせるのかを見ていてほしい。子どもをよーく見ていると、「この子がいい状態にいる時は、こういう表情するんだ、こういう歩き方するんだ!」っていうのがわかってくるはずだから。

【おおたさんからひとこと】

中学受験の相談かと思いきや、本質的には夫婦のコミュニケーションの問題でしたね。子どもの中学受験が夫婦を進化させる機会になることはよくあります。向き合うことから逃げず、前向きに乗り越えてください。面倒くさいでしょうけれど、しょうがない。面倒くさいもんですから、夫婦って。

Profile

おおた としまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験「必笑法」』(中公新書 ラクレ)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野亜紀子 編集/羽城麻子 デザイン/attik

 

VERY NAVY6月号『おおたとしまささんの悩めるママのための、受験進路相談』から
詳しくは2020年5/7発売VERY NAVY6月号に掲載しています。

サッカーと中学受験の両立、本当に可能なのでしょうか。

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次女の受験に戸惑っています。

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夫が受験に全然協力的じゃないんです。

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