長女と性格が違う、成績が違う、受験方法が違う。次女の受験に戸惑っています。
Tさんの場合
【家族構成】
夫、長女(私立中3)、次女(小6)
【今回相談する子供の年齢】
小6女子 中規模進学塾 (小5から通塾)
長女が小6、次女が小3の時に、海外から帰国。上のお姉ちゃんは、帰国生枠での受験が可能だったため英語+国語・算 数のみの受験で、現在は慶應SFCに通っています。長女はそつなく効率よく勉強ができ、スポーツも好きだったので共学難関校を中心に受験しました。一方、次女は帰国生枠ではなく4教科受験なのですが、姉との学力差が違いすぎ て……。また、性格も違い、次女はインドアでちょっとオタク気質なので、女子校のほうが向いているのではないかと思っています。長女の受験の時には考えていなかった中堅女子校の選び方や、学校説明会でのポイントについてもアドバイスが欲しいです。
T:姉妹でまず性格が違う、成績が違う、受験方法が違う。姉は塾で10聞いて来たら8か9を理解して戻ってくるタイプで、妹は1くらいしか残らない。でも妹は理解に時間がかかるけど覚えたら忘れないタイプで。
おおた:お母さん、すごい。両方のいいところをちゃんと見ていますね。
T:海外にいた時も、長女の方は英語の中に入れて溺れさせても這い上がってくるタイプだったんですけど、妹の方は潰れちゃって。最終的に髪の毛を抜いたり不眠になったりして、日本人学校に転校したんです。
おおた:それは大変な経験をされましたね。
T:姉は帰国生枠でうけたんですが、妹は帰国生枠が適用されないので、普通に4教科で受けます。そこにも戸惑っていて。海外在住者の中学受験って、上が終わってから下の子で「どうしよう!」ってなるんですよね。
おおた:なるほど。それは考えたことなかったです。
T:帰国生枠はある種妬まれるような部分もありましたが、次女で普通の4教科入試対策をやってみたら、偏差値50とるのがこんなに難しいのかと実感しました。
おおた:中学受験で偏差値50はものすごく難しいんですよ。
T:ぼんやりした子なんですけど、でも一方で、長女は偏差値とか全く興味がない人だったのに、次女は偏差値表をじっくり見て、ここだったら行けるかなとか、そういうのも心配というか……。
おおた:自分で偏差値表を頼りに見ているわけですよね。お母さんの心配ももちろんわかりますが、とりあえず「そうだね」って言ってあげればいい。
T:次女はお姉ちゃんには何しても敵わないと思っていて、「そうじゃない」といくら言ってもだめなんですよね。劣等感をもってしまっているので、どうしたらいいかなと思って。
おおた:「そうじゃない」と言うよりは、次女ちゃんのいいところをどんどん指摘してあげることですよね。子どもは親が見ているところを伸ばすから。悪いところばかり見ていると悪いところを伸ばしちゃう。これは子育ての大原則。
T:幼稚園の時に「花子とアン」を見てから東洋英和には憧れがあって。歴史と大河ドラマが大好きなので、沿革の中に渋沢栄一とか伊藤博文とか出てくる学校があると喜ぶし。その一方、長女との違いも意識する。結構面倒くさい女子なんですよ。
おおた:ポジティブに、自分から学校名を挙げているのであれば、今の時点では「そういうところを見るんだね」とか、「そういうのが好きなんだね」って、そういう視点を評価してあげればいいんじゃないかな。一方で、学校のランク的なものを気にしているのも、娘さんの頭の良さの裏返しだと思う。
学校が人格を設計してくれるわけじゃないから。
要は、学校って燻製器みたいなもんなんですよね。
T:おっとりしたタイプの子には、学校規模が大きくないほうがいいとかありますか?
おおた:あまり関係はないと思いますけどね。
T:いじめとか見えない部分はどう探ればいいですか?
おおた:僕は知る必要はないと思うけどね。生徒に「この学校って、いじめあるの?」って聞いて、 ありますよって言えるのは、オープンにして学校が対策しているっていうことじゃないですか。それを「ありません」って言って、あっても気づかないほうがそれこそやばいから。人間と一緒で学校にも長所もあれば欠点もあるのが当たり前のことで、じゃあ長所を5つ並べました、欠点は3つだからいい学校です、逆に欠点が6つだからダメな学校かっていったら、そんなの比較のしようがないはず。いいところだけ見て、いいところが子どもにいい影響を与えるかどうかっていうところで判断すればいい。どんないい学校だって悪いところは絶対に出てきますから。そこを探したらキリがない。
T:起きてもないことに過剰に反応しても仕方ないですね。
おおた:ベストな学校がどこかにあるはずだって幻想を抱いている保護者は多い。「白馬の王子様」みたいにいつか現れるはずだっていう。でもそんなのないよって。どこの学校も良いところと悪いところがあって、悪いところすら子どもは肥やしにしていくもの。だから、そんなに学校選びに必死にならなくてもいいし、どんな学校に行っても通用する子に育てるのが親の役割なんだから。どんな世の中になっても、生きていけるようになってほしいわけでしょ?うちの子はどんな学校に行っても大丈夫だからって自信を持って送り出せるように育てるのが、親の役割です。親の役割は偏差値を上げることじゃないんです。どこの学校でも大丈夫だって自信を持って送り出せて、行くことになった学校の中で最大限学べたら、そこから先どんな大学でもやっていけるし、どんな会社でも、どんな世の中になっても大丈夫ですよ。最終的にそう育てたいと言っているのに、「どこの学校が安心でしょうか?」って言うんだよね。
T:学校に過剰に期待しすぎちゃってますよね。
おおた:そうそうそう。学校が人格を設計してくれるわけじゃないから。要は、学校って燻製器みたいなもんなんですよね。サーモンを燻製してもベーコンの燻製にはならないの。いくら燻製したってサーモンはサーモン、ベーコンはベーコンなの。サクラのチップを使うのか、ヒッコリーのチップを使うのか、ナラのチップを使うのかで風味は違うかもしれないけど、それも最後にお皿に盛り付ける時にどんな味付けをするかで結局全然変わっちゃうんだから。その薫りを、素材にできるだけ合うものにと選ぶ感覚はわかるけど、少くとも東京の私学の中から選ぶんだったら、どこに行ったって恵まれた学校なんですから、それなりにいい薫りがつくんですよ。
T:お見合いのサイトを見ている気分になるんですよ。外側からしか見えないじゃないですか。もちろん誰と結婚しても一緒だよっていう話だと思うんですけど、できれば良い結婚相手と結婚させたいと思うのも親心じゃないですか。文化祭なのか、カリキュラムなのか、説明なのか、学校選びのポイントってちょっとだけでもないですか?それは親として、喉から手が出るほど知りたい。
おおた:にべもない返しで申し訳ないのですけれど、答えは簡単で、「正解は子どもが知っている」ってことです。文化祭でも学校説明会でもいいんですけど、自分が適した環境に行けば、人 間おのずと目がイキイキしているんですよ。結婚相手もいっしょですよね。理由はわからないけど「なんか、このひとといる時の自分が好き」みたいな。「文化祭でどこを見ればいいですか?」って聞かれるけど、学校を見る必要はないの。子どもの目を見ればいいの。
T:でもうちの娘ってどんどん上書きされていっちゃうんですよ。全部いいって。
おおた:それは既にどこに行っても大丈夫な子になってるの。ただ、言葉だけを捉えるんじゃなくて、ちゃんと子どもを見ていること。どれだけ躍動しているかを見なきゃいけない。でも難しいのは、小さな頃からちゃんと見ていないと、子どもの躍動感には気づけない。将来ばっかり見ていると目の前の子どもの躍動感に気づけない。それまでにいかに子どもを見る目を養ってきたかがそこでものをいう。
スキル系の方に人気が集まっているのは、今の世の中に対する不安の裏返し。
T:上の娘はスポーツが好きなんですけど、次女はレゴがすごく好きで、今はマインクラフトが好きで、勉強していない時は、マインクラフトをずっとやっていて。そういうタイプの子、ちょっとオタク気質な子は女子校が向いているんですか?
おおた:どちらかというと、女子校向きかもしれないですね。別学の方が同調圧力が低いので、そういう子は別学の方が向いていると私は思います。
T:一方で、最近なぜ伝統的な女子校の人気が下がっているんですかね?
おおた:それは数値化できないものを査定する目が衰えているから。骨董品の何万円というお茶碗を見ても、100均のお 茶碗と見分けがつかない人が増えてる。たしかに機能的には同じですからね。もう一つ、世の中の風潮として、教育の目的がビジネスマンとしての成功みたいに思われちゃっている部分も大きいんじゃないかなと。
T:どういう意味ですか?
おおた:大学入試なんて通過点だというのはみんなが同意するはずなんですけど、「じゃあ、その先に何を見ているの?」といった時に、「どう美しく生きるか」を伝える学校と、「これからの時代はこういうスキルが必要だよ」という学校の2つに分かれる気がしています。前者には文化が必要なんです。言葉で教えられるものじゃないから。それがない 学校は、わかりやすいスキル系で勝負するしかないのは同情するんだけど、スキル系の方に人気が集まっているのは、今の世の中に対する不安の裏返し。これからビジネスシーンがどうなるかわからない。その中で少しでも有利に生きていけるような、スキルなのかコンピテンシーなのかを子どもに授けてくれる学校がいいんじゃないかという、短絡的な考えに陥っている。それってでも、ビジネスのことしか見えてなくて、子どもの人生のことを考えてないよねって思う。ただしこの1、2年の傾向では、一時期そういう学校に振れたものが、原点回帰して伝統校人気が復活の傾向にあるって部分はちょっと見えてきています。大学入試改革への期待が外れたってこともあるんだと思うのですが。
T:実は私も私立中高一貫校出身なんですけど、もう学校の名前くらいしか残ってないんです。校名だけは一緒だけど全てが変わっていて、ブレすぎてますよね。心の中ではああいう学校じゃない学校に行かせたいなと。
おおた:軸がブレていたら文化が蓄積していかないはず。一方で学校も変わり続けなきゃいけない。じゃあ、どういう変化が好ましいのか。本当に適切に変化に対応している学校は、先生が個人レベルで随時対応しているんですよ。先生は人間で実社会に生きて、変化を目の当たりにしているわけだから先生たちが個別に反応していけば全体としては変わっていくはずなんですよ。「学 校としてこうします」ってまとめる必要がない。学校として一気に 大きく何かを変えるって、変化の仕方としておかしいんですよ。学校は生き物みたいなものであって、生き物っていうのは気づかないうちに、じわりじわりと、後から見たら変わってたよねって形で変化をするものであるはずなので。逆に「こうするぞ」って旗を振るような学校組織では、先生たちに裁量がなくて柔軟な変化ができないからいつも時代遅れになって、時代を追いかけるように「学校改革します!」って言うことになる。
T:今の話を聞いて思い出しました!先生が自分の視点でお話をしてくれる学校っていいなって思ってました。じゃあ、学校に行って、不意打ちに質問して、「私は……こう思う」って先生が自分の言葉で堂々と応えてくれたら自己裁量の学校で、「えーっと、ちょっと確認します……」だったら、「あれ?」っていうことですね(笑)。
おおた:それ大事かも!
【おおたさんからひとこと】
まったくキャラの違う2 人のお嬢さん。さらに中学受験の状況も違う。でも、お母さんがその状況をとても冷静に分析して、親としてしなければいけないことを意識化していることが印象的でした。「自分がやらなきゃ!」という責任感ゆえのお母さんの力みが少しゆるめば、きっといい中学受験ができると思います。
Profile
おおた としまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験「必笑法」』(中公新書 ラクレ)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/
イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野亜紀子 編集/羽城麻子 デザイン/attik
VERY NAVY5月号『おおたとしまささんの悩めるママのための、受験進路相談』から
詳しくは2020年4/7発売VERY NAVY5月号に掲載しています。