「実はVERYの愛読者」タワマン作家・外山薫さんが語る
「タワマン住民」や「小学校受験」など、新刊が出るたびにそのリアルな描写が話題を呼ぶ作家・外山薫さん。実はVERYの読者で、雑誌は小説執筆の参考にもなるとか。今年創刊30周年を迎えた「VERY」について熱く語っていただきました。
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創刊30周年の「VERY」は小説のネタの宝庫
──外山さんご自身も共働きで、育児中でもあります。家事や子育てのバランス、執筆業と本業のバランスはどのようにとっているのでしょうか。
今は会社員、夫、子の親、そして作家という4つの自分が存在しています。優先順位は何より家族で、次に仕事、その息抜きで作家をやっている感覚です。朝起きたら子どもにごはんを出して犬の散歩をして、それから仕事へ。夜はまた家族と過ごして、子どもが21時に寝たら23時まで執筆の時間に当てます。週末は基本的に書きません。執筆時間は毎日最大2時間で、コツコツ書いている感じです。
──とてもストイックな生活のように感じますが……。
専業作家ではないので、「執筆は趣味です」という言い訳もできます。疲れていたり気が乗らない日は書かないこともありますよ。締め切りは守りますが(笑)。
でもやっぱり、家族が最優先です。執筆ルーティンは何がなんでも守るわけではなく、子どもが寝た後妻と一緒に飲みながら、子どもや仕事の話をすることも。妻が出張に行くこともあるので、その間の子どもの習い事の送迎や食事などをどうするかといった擦り合わせをすることもあります。アラフォー、女性総合職の身近なサンプルとして、妻の話はかなり執筆の参考になっています。
──VERY読者は30歳前後、乳幼児から未就学児を育てている人が中心です。若い世代の価値観の変化を感じるようなことはありますか?
私よりもう少し若い世代は共働きも当たり前になっていて、価値観もアップデートされています。VERYを見ても変化を感じますね。昔はもっとファッションページが中心の雑誌だったような気がするのですが、今は子育てやキャリアなど、ライフスタイルが見える特集が増えているような気がして。これぞ令和っぽいなと感じます。VERYって、私が読んでも興味深い媒体なんです。キャリアも積んで、子育てもしっかりやる。仕事が休みの日も気を緩めずオシャレだし、友人への手土産にも手を抜かなそう。これだけ忙しいなかで資産形成までしっかり考えている様子。「がんばらない」と言いつつも隙がなさそうなんですよ(笑)。それから、プロのモデルさんでも読者モデルでも「こういう人になりたい」と思わせてくれるところがあります。私はファッションにはほとんど興味がないのですが、VERYを読むとつい洋服が欲しくなります。
──かなりしっかり読み込んでくださっているようで、うれしい限りです(笑)。
小説の参考にもなるので、できるだけ女性誌を読むようにしています。最近のトレンドも掴めるので。すでに専属モデルは卒業されていますが、私にとってVERYといえば申真衣さんなんです。VERYは単なる憧れの存在を超えてロールモデルの一つとしてシンマイさんをクローズアップしていたように思うんです。シンマイさんになるのは難しいけれど、誌面を見ているとどこか親しみやすさを感じて、自分でも真似できる要素がありそうに思える。とはいえ、これが正解、シンマイさんを目指せと押し付けるのではなく、「こういう生き方もありますよ」という見せ方をしている匙加減もVERYならではだと思いました。
「子育ては大変。だけど楽しい」その思いに共感
──特集や読みもの記事など、細かなところまでご覧いただいていて驚きました。
シンマイさんとは年齢が近いこともあり、学生時代からの女友だちと話題に上ることが多いです。VERYにインタビューが掲載されると、すぐに何人かの女友だちが「読んだよ」「面白かったよ」と連絡をくれます。反響が大きく、私にとっても励みになっています。読者の皆さんも雑誌をつくる側も、「子育てが楽しい」と発信していることが多く、同じ子育て中の身としてとても共感しています。日々のニュースでも子育て世代の苦しさばかりが報じられ、楽しさよりも「子育てってこんなに辛い」というつぶやきのほうがバズる時代です。そんな中で、ポジティブに「大変だけど楽しいよね」というメッセージを全面的に発信する媒体としてVERYは貴重な存在です。
実際、誌面に出てくる人たちは素敵ですが、毎日キラキラした日常を送っているわけではないと思うんですよ。365日のうち360日くらいは、朝の支度で慌てて、子どもに「早くして!!」って怒鳴っているかもしれない。でも育児中には、ほんのわずかでも「今日のことをずっと覚えておきたい」と思えるようなかけがいのない瞬間がある。そんな思いが誌面からも伝わってくる気がするんです。
『パパたちの肖像』(光文社)
7人のパパ作家による、令和パパたちの心の声を描くアンソロジー。
”イクメン”が死語になり、家事も育児もあたりまえに行う令和のパパたち。その胸の裡は?
●会社の同期である妻が出世し、閑職に追いやられた夫。娘の小学校のPTA活動に戸惑うが──「ダディトラック」外山 薫
●娘への授乳と細切れ睡眠に苦しむ妻。俺も授乳ができたらいいのに。「俺の乳首からおっぱいは出ない」行成 薫
●母の家から見つかった保育園の連絡帳には、いないはずの「父」の筆跡があった。「連絡帳の父」岩井圭也
●息子の大切なトミカがなくなった!「世界で一番ありふれた消失」似鳥 鶏
●地方の大学に進学することになった息子とアパートを探す旅に出る。「息子の進学」石持浅海
●不器用な俺は、娘の髪をうまく結べない。保育園から夏祭りの景品作りを頼まれ──「髪を結ぶ」河邉 徹
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PROFILE
外山 薫(とやまかおる)さん
1985年生まれ、慶應義塾大学卒業。公式Xはこちら。別名義のXアカウントで“タワマン文学”の旗手として話題となり2023年『息が詰まるようなこの場所で』で作家デビュー。2作目は『君の背中に見た夢は』(ともにKADOKAWA)。
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構成・文/樋口可奈子