foxcoさん、その後のロンドン生活、どうですか?【前編】

優しい色使いと物語を感じさせるキャラクター性のあるイラストが大人気で、”foxco”という名前で活動する渡邉香織さん。インフルエンサーとしても幅広い世代から支持を受けています。高校時代はカナダに、大学生でフランスに1年間留学。卒業後は外資系IT企業から外資系EC企業に転職しながら、同時にイラストレーターとしての活動を開始。2017年に独立後、そのセンスが注目され、『JJ』にイラストが掲載されるなど、活動の幅を広げていきました。2019年渡英。ロンドン芸術大学大学院セントラル・セント・マーチンズへ進学し、2024年6月にキャラクター・アニメーション専攻の修士課程を修了。そして、現在はロンドン在住でクリエイティブ活動を続ける渡邉さんの“好きを仕事にした”その先の、今「ロンドンで大切にしていること、夢中になっていること」を、前後編にわたって伺いました。
公式instagram @foxco_kaori
渡邉さんが以前登場した記事

【渡邉香織さんにとってたいせつなこと①】“自分”を育て続ける。新しいことにリスクをとって進んでみる
日本でイラストレーターとして大活躍していた2019年に渡英。海外の大学院に入学し、イラストを勉強する道を選んだ渡邉さん。
「日本ではありがたいことに、徐々に仕事が増え始め大きなお仕事も任せてもらえるようになってきたころ、この先どんな風に自分のキャリアが展開していくのか、なんとなく予想ができたんです。それはとても喜ばしいことですが、同時に自分がまだ出合っていない喜びを体感したい、そのために改めて“挫折”をしてみる必要があるのかもしれない、と感じたんです。昔から冒険心は旺盛なほう。もう一度学びたい、チャレンジしてみたいと思った時に、日本より環境をがらりと変えられる海外がいいなと思いました」
――イギリス、ロンドン芸術大学大学院セントラル・セント・マーチンズで、キャラクター・アニメーションを専攻されたんですね。
「小さいころから絵を描くことが好きで、フランスに留学した際にも街中の人を見ていて、こういう脚の組み方だとリラックスしてるように見えるんだ、とか絵にキャラクターが宿るのが楽しくてイラストを描き始めたんです。動きを表現できるアニメーションにもすごく興味があり、私の選んだ学校は0から1を生み出す“過程”を重視する教育だったので、それはアニメーションに限らず、今後の仕事に役立つと考えて決意しました」
――一般的にはリスクは避けて通りがち。最近はコスパやタイパばかり重要視され、よりその傾向が強い中であえてリスクをとった理由は?
「もともと、ずっと同じところで活動するよりも、できないことをできるようになっていく過程を楽しめるほうなのかもしれません。学生時代はカナダとフランスに留学。その経験から、勇気をもって踏み出せば必ず得られるものがあるという学びがありました。でもその選択が、必ずしも成功しなくてもいいと思っていて……。イギリス・ロンドンは昔から好きな街。『来てみたけれど。少し違ったな』でもいいと思っていました。そうすれば、『自分はやっぱり日本が好きで合っているんだ』というゴールを得られるから。だから、自分の中で活動が落ち着いてきたなと感じたタイミングで、リスクをとってチャレンジしてみました! 実はトラブルもあって、行こうと思った矢先にコロナ禍がやってきて……ベストなタイミングを見て2年待ってから渡英しました」

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――実際チャレンジして何か変化はあったのでしょうか?
「今までは何かできないことがあるとすごく悔しくて、そのことばかり考えてイライラして自問自答していました。イギリスでは言語もコミュニケーションの方法も日本とは違います。そういう変化の中で、叶わないこともこの先、いいタイミングで巡ってくるから、今じゃないのだろうな?って思えるようになりました。ネガティブなことが起きた時に、動揺しない心が養えたのは大きな変化だと思います。9月ごろからイギリスで新しい仕事が始まるのですが、それも3年前の来たばかりのころ、知り合った人にやりたいことを伝えたり、自分で広報活動をして、少しずつ種まきしていたこと。その時は、この先実を結ぶのか多少不安に思っていたけれど、実ったからタイミングも大事なのですよね。自分でやりたいことを伝えていくことも、イギリスに来て学んだことかもしれません」
【渡邉香織さんにとってたいせつなこと②】環境や立場を思い切って変えてみる。見えなかったものが見えてきた!
――移住して立場や環境を変えて感じた、ロンドンだからこその魅力はどんなところに感じますか?
「社会人から生徒に、教わる側になる時に、日本の大学院も考えました。けれど、自分の第一言語が通じる日本だと難なくできでしまう気がして、海外を選びました。英語圏の国は他にアメリカなどもありますが、ヨーロッパの国の方々は、私が以前から仕事で繋がりが多かったこともありますし、様々な国の方々が集まっているので、今まで知らなかった多様な文化に触れられます。世界には、こんなにもいろいろな文化とそれを信じる人たちがいるんだ、といい意味で驚かされることばかり。そういう環境に自分を置いてみたいという気持ちがありました。イラストにもすごく反映されています。これまで注目していなかった国の柄や、ラクダとかロバとかも他国の宗教や文化に触れなかったら描かなかった気がします。以前は見えていなかったものが、環境を変えることで見えてきて、描くイラストはもちろん、人生により深みが出た気がします」

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――実際に住んでみて、ロンドンは渡邉さんにとって心地よい街ですか?
「伝統的な側面と最先端な側面が混在していることがロンドンの魅力。古いものを大事にしているけれど、新しい価値観も受け入れるって素敵なことだと感じます。毎日曇っているし住みやすい?なんて聞かれることも多いのですが、住んでみてすごく心地よさを感じています。日本にいる時は自分が幸せでいなくてはいけない、他人の目に映る自分は幸せそうな私でいたほうがいいだろうなって思いこんでいました。でもロンドンでは、幸せなことはもちろん山ほどありますが、自分のネガティブな部分も受け入れてくれる文化や人に恵まれて。私は幸せなことがほとんどですが、辛い時も落ち込んでいる自分を愛すべき存在なんだって受け入れることができて、窮屈じゃなくなりました。だから心地よさを感じているのかな?と最近改めて感じています」

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――渡英という環境の変化があり、その後、さらなる環境の変化も経験しているのでしょうか?
「もちろん意識して避けたわかでもないのですが、自然と日本にいた時は同業者とあまり関わる機会があまりありませんでした。渡英して、現地で活動しているイラストレーターさんに出会って、イラストレーター同士で話すことが増えたのはすごく新鮮! 環境の変化は内面も変えていくのかもしれません。もうひとつ、環境の変化による内面の変化と言えば、住まいを友人とシェアするようになりました。それまでは誰に対しても、気を遣いすぎてあまり気持ちをうまく伝えられなかったのですが、言いたいことを丁寧にきちんと伝えられるようになりました」
【後編に続く】
撮影/浜村菜月(LOVABLE) ヘア・メイク/鈴木麻衣子 取材・文/味澤彩子 撮影協力/新国立劇場