ドムドムバーガー女性社長に抜擢「目の前の一歩に集中してきた結果が現在」

働く女性は増えましたが、それでも女性社長はいまだに全体の10%にも満たないのが日本の現状です。そこで今回は、今注目の女性リーダーにお話を伺いました。すると意外なことに、トップへの道筋は野心や夢がもたらした果実ではなく、目の前の仕事に誠実に取り組んだ先にあった、と語ってくれたのです。

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藤﨑 忍さん 58歳・東京都在住
株式会社ドムドムフードサービス 代表取締役社長

お客様、スタッフが満足や幸せを感じられることを 第一に

21歳で12歳年上の政治家と結婚し、以来ずっと専業主婦だった藤𥔎 忍さんが、初めて就職したのは39歳のとき。「夫が心筋梗塞で倒れ、入院してしまったため、知人の紹介で109のショップで店長として働き始めました」。

するとほどなく売上が倍増し、10カ月後には専務に抜擢されました。一方、ご主人は一度は回復しましたが、脳梗塞を起こし再び入院。「話すことも、歩くこともできずに消沈する夫を、どう励ましてこの先を生きればいいのか……。あの頃が一番つらい時期でした」。

さらにその1年後、44歳のときに会社の経営方針が変わり、退職に追い込まれたのです。「息子はまだ大学生。泣いてはいられない、すぐ働かなくてはと思いました。再就職をしようにもキャリアも技能もないけれど、料理ならできると、居酒屋でアルバイトを始めました」。

すると、ほどなく近くの店舗に空きが出て、お客さんから自分で店を開けば? と勧められたのです。「もともとお嫁さんになるのが夢でしたので、借金して店を持つなどと考えたこともありませんでした。でも、お勤めでは夫と息子を守っていけるほどの賃金はいただけない。起業は必然だったんです」。ところが開店するやいなや、あっという間に予約のとれない人気店となり、すぐに2号店も出店。

そんなとき店の常連客から、「ドムドムハンバーガーの商品開発を手伝ってくれないか」と声をかけられたのです。「その方は、ドムドムを譲り受けた企業の取締役で、料理や接客を気に入ってくれたようでした。それまでずっと、家族のために働いてきましたが、私が49歳のときに夫が他界し、息子は社会人になっていて、自分の可能性を考えたい時期でもありました。それで顧問を引き受けたんです」。

結局2カ月後、店をスタッフに任せ、ドムドムに正式に入社。新店の店長を皮切りに東日本16店舗を担当するスーパーバイザーになり、各地の店舗を飛び回りました。「最初の決算を見て、赤字の大きさに愕然としました。加えて、再生に向けてドムドムは何を目指していて、どこに向かいたいのかという企業理念がイメージできなかった。そこで、自分も経営に参加したい、役員にしてほしいと、上司に直談判しました。もちろん断られましたけれど」。

でも諦めきれず、熱意を伝え続けたところ、’18年8月、入社9カ月で役員に抜擢されたのでした。「嬉しかったですね。でも、代表取締役で、と言われたときはさすがに驚きました。スタッフも、居酒屋の女将が急に社長になるのではきっと不安だろうと思い、まずは現場とコミュニケーションを密にとることから始め、信頼構築に努めました」。

さらに独自性を打ち出すため、「丸ごと!!カニバーガー」などの独創的な商品を開発。ポップアップストアの開催、ビームスなど異業種とのコラボやSNSでの発信など、スピード感ある施策を次々と実行し、就任からわずか3年で黒字化を達成、以後黒字経営を続けています。

「109での最初の仕事はカーテンを縫うことでした。店をきれいにして、お客さんが欲しいものを揃えて、喜んでもらいたい。居酒屋では、今日来たお客さんが満足して帰ってくれればいい。そんなふうに目の前の一歩に集中してきた結果が現在なんです。女性の活躍とよく言われますが、専業主婦でも介護している人でも、みんな活躍しています。活躍の目的地は、私のように社長になることではありません。色々な形、色々な場所で、生き生きと活躍できると思っているんです」。

社長の信条は「成長戦略よりも『思いやり経営』。お客様もスタッフも満足や幸せを感じられることが第一と考えれば、判断がぶれません」。

<編集後記>失敗に見えても単なる通過点。ノウハウや経験が次に繋がる

どんな仕事でもすぐに頭角を現し、繁盛させてきた藤崎さん。できる人は何をやってもできる、でもそれは、目の前の仕事に集中していたからと感動しました。その一方で、すごく悲しかったことも落ち込んだことも、苦しかったことも当然あったと。「切り替えようとすると難しいんです。ただもがき、動き続けることで前に進めました」と。大変な経験をサラッと語る姿がカッコよかったです。(ライター 秋元恵美)

撮影/BOCO 取材/秋元恵美 ※情報は2025年4月号掲載時のものです。

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