10人目の女性真打ちになったとき師匠は泣いた…男社会のなかでの修業時代
「師匠がたの〝不機嫌〟の芽を摘むことは大切な修業でした」。そう語る、真打ち落語家・蝶花楼桃花さん(42歳)にお話を伺いました。
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「いかに師匠がたに気分よく高座に上がってもらえるか、不機嫌にならないでいただけるか」。これが私の前座修業での一番の仕事でした。
落語家は舞台当日、座布団に座りお客様を見てからその場の空気でネタを決めます。「今日はなんかマニアックな方が多いな」と感じたら、攻めた楽屋話をして、笑いの反応を見たりと、肌感覚がとても大切なんです。だから、「先輩や師匠の機嫌すら取れないような者が、お客様の空気を摑んで演目を選べないだろう」と日ごろから教えられてきました。
前座期間は丸5年、二ツ目で10年、あわせて15年修業をしました。入門当時は女性落語家が少なく、風当たりも強かったため「女は高座に上がるな」と言われたり、お客様にも受け入れられず、わざと集団で立ち上がり帰られてしまったことも……。
ですが、とにかく笑顔で、平気です! という態度で居続けました。そんな時代に私を弟子として迎え入れてくれた小朝からは、「甘えることのないように。大きな荷物を率先して持ちなさい。口にくわえてでも全部キミが持ちなさい」と教えられ、化粧もせず、男性と同じ量を食べたりもしていましたね。
そして、師匠がたのお茶の濃さの好みや着物の畳みかたまでを心得て手伝い、楽屋の皆が不機嫌にならないよう、先回りして動いていました。周りは、私がAKB48のオーディションを受けていたなどの経歴から「腰掛けでしょ」、「すぐにやめるでしょ」、と思っていて(笑)。そうこうするうちに、次第に周囲も変わり始め、少しずつ認めてくださる空気になりました。
そんな経験を経て、私が女性10人目の真打ちに昇進した時、涙なんて見せたことのない師匠の小朝が、私のために泣いてくれたんです。「この子は陽気に見えるけれど、実は繊細で、頑張ってきたんです」と。
それまでの師匠の厳しい教えは、すべて優しさや愛だったのだと、その時改めて実感しました。そして、私が今ここにあるのも、師匠がたやお客様の厳しさ=〝不機嫌〟に育てられたのだと思います。そして、相手が不機嫌にならず気分よく過ごしてもらえるよう先手先手で動くこと──、それがひいては自分が気分よく過ごす秘訣なのだと思います。そう、ご機嫌でいる人を見ていると、自分までご機嫌になれますから。
2006年春風亭小朝に入門。「ぽっぽ」「ぴっかり☆」を経て「蝶花楼桃花」に。苦しい時は、同時に真打ち昇進した三遊亭律花さんとスーパー銭湯で励ましあいながら泣いたとか。4月、「春の独演会」を三都市で開催。
撮影/吉澤健太 ヘア・メーク/KIKKU 取材/東 理恵、香取紗英子 ※情報は2024年4月号掲載時のものです。
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