子供を産む前に、会社や社会に対してできることって?キャリアカウンセラー&社会学者に聞いてみた
子供を持つ将来を考えつつも、産休や育休期間、そして育児によって積み上げてきたキャリアが崩れてしまうかもしれない…そんな不安を抱えているCLASSY.世代。子供を育てながら自分の人生を自分で動かすために、今からできることを考えてみませんか?
誰もが子供を産んで育てながらキャリア形成を続けるために私たちが今できること
自身も出産とキャリアの葛藤の経験がある社会学者の富永先生と女性のキャリア構築を研究するコンサルタントの山田さんに出産未経験のCLASSY.世代が今できることをお聞きしました。
私たちは会社や社会に対してもっと図々しくなっていい!
富永先生(以下、敬称略):大学の教員として働く私が妊娠・出産を秘匿していた理由は、誰かにポストを剥奪されてしまうのではないかという恐怖と、母になることで、仕事上自分の見られ方が未来永劫変わると思い込んでしまっていたからでした。
山田さん(以下、敬称略):女性はこれまで積み上げてきたキャリアが一気に崩れてしまうかも…と不安になってしまいますよね。
富永:でも、いざ復職してみると、自分が思っていた不安はさほど現実にならなくて。私は自分が積み重ねてきたものをあまりに軽く見ていて、自分自身を取り替え可能な存在だと思いすぎていたのかもしれません。
山田:日本の女性にはまだまだ「私にはこの程度の仕事しかできない」と一歩引いた状態で働いている方が多く見受けられます。それは、女性自身が働く上での強みをきちんと理解していないことが原因になっていて。自分の存在意義を知り、まわりにも認識してもらうことで、女性がもっと働きやすい環境に変えられると思っています。
富永:社会学者としては、本来会社や社会が制度をきちんと整備して不安を解消するシステムを用意していないといけないのに、なぜ産む側がここまで気にしないといけないんだという憤りもありますが、たとえば会社員は労働力をもって会社に貢献しているわけですから、「自分は会社の役に立ってやってる」くらい図々しく思ってもいいと思っています。休む権利、働き続ける権利を求めることが、結果として自分も後続の人々も大切にすることにつながると思います。
山田:誰かに認めてもらうために必死に頑張るよりかは、自分がなぜそこで働くのかという目的を重視して優先しつつ、それをちゃんと実現できる自分であることも大事です。
今抱えている悩みや違和感はどんどん声に出していこう
山田:とはいえ、産後きちんと働けるのか、育児と仕事の両立ができるのかなど、不安に思う方は多いはず。私は、不安に思っている自分にきちんと向き合うことが大事だと思っています。不安はマイナスなイメージに捉えられがちですが、実は「不安を抱いている」という状態に気づけているということは、問題解決への大きなチャンス。漠然とした不安でも脳裏に浮かんだ単語を書き出してみると実際何が原因になっているかが可視化され、今取れる行動がわかることも多いです。
富永:たしかに、言語化することで解決する悩みは多いですよね。でも、悩みって言語化できないから悩みなので、モヤモヤした状態のまま「よくわらかないけど不安なの!」という状況を声に出してしまうのもアリだと思います。まずは、不安に思ってる自分を認めて、受け入れてあげて。明確な解決策を持たなくても口に出すことで、誰かが言語化してくれたり、組織を変えるきっかけにもなり得るはずです。
山田:ちょっとした違和感も口に出せるような機会を家庭や社内、地域で作れるといいですよね。
連帯感を持つことで私たちはもっと強くなれる
富永:一人で戦ったり頑張ることには限界があるので、同じ属性の人と不安を共有し、不安を声にしていくことが新しい制度を作る一歩になりますよね。
山田:あとは、励まし合える仲間を持つことも大切。今の日本社会は個人評価だけではなく、チームで新しい価値を生み出そうという「共創」の思考を重要視しています。お互いに気づいたことを伝え合える関係が女性のキャリアに関する悩みを改善すると考えています。
富永:たとえば産休に入る同僚にも「いつでも戻ってきてね」など、優しい言葉を掛けると、その言葉が未来の自分を救うことになります。連帯できる環境を自ら作ることも大切なのかもしれません。
−発展する社会に必要なのは「競争」ではなく「共創」。自分自身を正しく知り、自分が存在する意味を作っていきましょう(山田さん)
−同じ属性の人とまとまりながら不安を共有して声を上げていくことで制度も社会も変わっていくはず(富永先生)
教えてくれたのは...
株式会社Hitoiro 代表取締役・山田聖子さん
キャリアカウンセラー&コーチ。自分の可能性を楽しみ生きる(働く)人を増やすため、チームの成果と笑顔(働きがい)を育む、管理職の社外メンターサービス「Good Team」運営。管理職向け「日経10分アカデミー」を配信中。
社会学者立命館大学准教授・富永京子先生
1986年生まれ。立命館大学産業社会学部准教授、シノドス国際社会動向研究所理事。2年前に出産したものの、自分のキャリアが変化してしまう恐れから妊娠・出産を秘匿していた。
撮影/杉本大希 取材/岸本真由子 再構成/Bravoworks,Inc.