【映画ライターの週末映画案内】エマ・ストーン演じる“ベラ”にひたすら圧倒される『哀れなるものたち』
ゴシック・ファンタジーの世界観の中で女性の自立を描いた冒険物語『哀れなるものたち』が1月26日から公開されます。第80回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞、第81回ゴールデングローブ賞で作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞し、第96回アカデミー賞では11部門にノミネートと大注目のこの作品。エマ・ストーンの演技に終始釘付けになってしまう、不思議な物語の魅力を紹介します。
目次
- 『哀れなるものたち』あらすじ
- 【見どころ①】何者にも縛られない女性の自立を描く
- 【見どころ②】エマ・ストーン演じる“ベラ”にひたすら圧倒される
- 【見どころ③】こんな映画観たことない!と感じる唯一無二の映像世界
- 作品情報
『哀れなるものたち』あらすじ
ヴィクトリア朝時代のロンドン。自ら命を絶った不幸な若き女性ベラ(エマ・ストーン)は、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手によって、奇跡的に蘇生する。それも生まれたての女性として。
ゴッドウィンの庇護のもと日に日に回復するベラだったが、「世界を自分の目で見たい」という強い欲望に駆られ、放蕩者の弁護士ダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファロ )の誘惑で、ヨーロッパ横断の旅に出る。
急速に、貪欲に世界を吸収していくベラは、やがて時代の偏見から解き放たれ、自分の力で真の自由と平等とを見つけていく。そんな中、ある報せを受け取ったベラは帰郷を決意する。
【見どころ①】何者にも縛られない女性の自立を描く
天才外科医・バクスター博士のある実験により、自殺を図った後に生まれ変わったベラ。見た目は大人の女性の体だけど脳は0歳児そのもので、言葉も歩き方もこれから覚える。まさに人生をリセットして“生き直し”をする女性を描いた奇想天外な物語です。
生まれ変わったベラはしばらく外の世界に触れずに博士の家で暮らすので、世間の常識や当時の女性が置かれた立場からまったく自由。何者にも縛られず、タブーや男社会のしきたりをものともせず、貪欲にどんどん世界を吸収していきます。
そんなベラの姿は、“究極にピュアなフェミニスト”。女性が女性である喜びやセクシャリティを、一つひとつ確認しながら、男性に支配されることから解放されていきます。思想が自由過ぎて、そのやり方がちょっとおかしな時もあるのですが、女性にとってはかなり痛快。と同時に、現代社会でもまだまだ男女の賃金や地位格差が埋まらず、男性優位な社会が続いていることを実感させられます。
【見どころ②】エマ・ストーン演じる“ベラ”にひたすら圧倒される
生まれ変わって人生をやり直すベラを演じたエマ・ストーン。赤ちゃんからのスタートなので最初は歩けないし、歩けるようになってもバランスがおかしく、ダンスシーンでは手足の動きがバラバラ。大人が赤ちゃんになってしまうと、こういう動きになるんだろうな、という説得力がありました。
そして成長するにつれて性の喜びを知り、ベラはセックスに対しても欲望に忠実過ぎるし自由奔放。裸や下着姿はもちろん性描写のシーンも多いのですが、もはやいやらしさを通り越して「エマ・ストーン、すごい! 役のためにここまでできるなんてあっぱれ!」という清々しさすら感じました。
一方で世の中を知り知的に成長していく過程も見事に演じていて、脳と心と体がつながっていく様子はまさに圧巻。
エマ・ストーンはこの作品で、ゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞を受賞していますが、今年はアカデミー賞でも『ラ・ラ・ランド』(2016年)に続く二度目の主演女優賞を獲得するのではないでしょうか。そう予想させるくらいの圧倒的な演技力でした。
【見どころ③】こんな映画観たことない!と感じる唯一無二の映像世界
この作品はベラの成長と自立の物語であると同時に、ロンドンから船でリスボンへ向かい、パリにも降り立つヨーロッパ横断の冒険物語になっています。
この美術セットが本当に素敵! 当時のリアルな船や建物を忠実に再現するというよりは、ファンタジーやSFの要素も入っていて、空の色も独特で絵画的。バクスター博士の邸宅、ホテル、ロンドンやパリの街並みなどすべてをスタジオに建てた結果、エマ・ストーンが「歩き回るのに30分はかかる」とコメントするほど華麗で壮大なセットの中で撮影されています。
ドレスを中心とした衣装も独特で美しく、それをエマ・ストーンはじめ女優陣が見事に着こなしています。さらに、あえて調和の取れていない不思議な音楽が、作品全体に漂う不思議な雰囲気をつくり上げています。
実験や解剖シーン、セクシャルなシーンもあり、ともすれば露悪趣味な作品にもなり得る可能性もあったと思います。そこを、ヨルゴス・ランティモス監督が創造する世界観と、エマ・ストーンの知的な美しさで、崇高な物語に昇華させているのが素晴らしい。ホラーではありませんが、男性にとってはある意味ホラーかも? 独特で唯一無二の世界観を、ぜひ劇場で体感してほしいです。
取材・文/富田夏子
作品情報
『哀れなるものたち』1月26日(金)全国公開
- 監督:ヨルゴス・ランティモス
- 原作:「哀れなるものたち」 アラスター・グレイ著(ハヤカワepi文庫)
- 出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー 、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット、スージー・ベンバ、ジェロッド・カーマイケル、キャスリン・ハンター、ヴィッキー・ペッパーダイン、マーガレット・クアリー、ハンナ・シグラ
- 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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