妻の「夫だけ残業ができてずるい」…有識者の見解は?
「残業できる夫ずるい?」 と VERY読者に投げかけたら、編集部に怒濤のメールが来るわ来るわ…!届いた読者の声に対しての夫側からの返答として、 電通コピーライター・魚返洋平さんと東大人気教授・瀬地山 角先生の見解をお聞きしました。
*VERY2024年9月号「働くママの心の叫び「残業できる夫ずるい」」より。
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魚返洋平さん
「ずるい」に夫たちは
ほとんど反論できない。
妻側の「ずるい」という言葉に反射的に共感を示す人がたくさんいる。「ずるい」という表現はきついけど、ここで大事なのは妻が感じている不公平感ですよね。そのストレートな発露に対して、夫からのよくある反論が「俺だって好きで残業してるわけじゃないのに、ずるいはないだろう」というもので、それはそれで分かる。ただ、それでも妻の感じる「ずる」さは消えません。というのも、「私ももっと働きたいのに!」というとき、それは「楽しい仕事を延長したい」からというより、夫と同じで職業的義務感に駆られてのことだと思うんです。つまり「仕方なく残業しなきゃ、ができる」夫と、「仕方なく残業しなきゃ、なのにそれができない」妻という不均衡。
さらに、毎日の育児にも、特有のしんどさがある。「目を離したら死ぬかも」「なんか食べさせなきゃ」という責任感のなかで、疲れていても子どもの相手をせざるを得ない。もちろん子育てには喜びがありますが、基本的にしんどい側面を妻だけが背負い、遅く帰ってきた夫が「安らかに眠るかわいい寝顔だけを見る」「パパが帰ってきて喜ぶ子どもの姿だけを見る」のだとすると、それは「大変なチャプターをスルーして感動のエンディングだけ掠め取りやがって」→「ずるい」と思わず言いたくなる。「仕事を中断する心苦しさ」と「育児の大変さ」のダブルパンチを妻だけが負うのってどうなの?という話ですね。
そりゃそうだよなと感じるし、少なくとも僕なら「ずるい」に対して反論できません。共働きの夫婦にとってフェアなツーオペの姿というのは、このダブルパンチを、二人で一緒に、半分ずつ喰らってみるということなんだと思います。我が家がわりとそうなっているのは、二人で育休を取った経験のおかげです。復職した後、乗りかかった船から自分が一人だけ降りる気にはならず、ずっとツーオペでやろうという気持ちになれた。育休の価値って、そういう意味でずっと先まで残るものなんですよ。どの会社であれ男性が最低でも1カ月、心配なく取れる世の中になったらいい。ちなみに社員の育休って、組織側にとってもメリットが大きいんです。誰かが抜けた穴を、残されたメンバーがカバーしていく創意工夫が必要で、それが組織力強化の機会になるはずだし、心理的安全性も高まる。育児にかぎらず、介護や闘病で誰かが欠ける可能性は常にあるもので、その予行演習にもなる。
話を戻しますが、結局のところ思うのは、妻たちの「ずるい」は、夫の背後にある社会に向けて放たれているってことです。「男性の家庭進出について理解のない組織」とか「男性に残業させがちな組織」もそうだし、もとをたどれば男女の収入格差もそう。だから夫の側は、もし「ずるい」と言われてカチンと来ても、自分だけが個人攻撃されていると考えるのではなく、会社や社会のダメなところを考えるきっかけになるといいですよね。と同時に、会社や社会がまだまだこんなにダメなら、せめて「我が家」の中だけはなんとかしよう、と思えたらいいなと。
魚返洋平さん
著書『男コピーライター、育休をとる。』(大和書房)を19年に刊行、21年にWOWOWでドラマ化。約半年の育休後、18時までに仕事を切り上げる働き方で約5年半、朝夕の送迎を担当。現在子ども7歳、スーパーフレックスのフルタイム勤務。共働き、現在“ツーオペ„中
瀬地山 角先生
男性も帰宅して家事育児をした方が、
よほど「儲かる」し、幸せになれる
「ずるい」、言っていいと思います。対等な分担の仕方ではない以上、これはずるいんです。でもそもそも、残業は誰の得にもなりません。社会にも会社にも家庭にも、男性自身にも、です。なので残業を減らす方法を夫婦で、社会で実践していくことが大切だと思います。具体的には2つあります。
1つは、「この仕事まで終えたら帰る」ではなく、「○時に帰る」と決める。これで生産性が上がります。職場の成功例がかなりあり、例えばある役所では「定時」「18時」「19時」「20時」「21時」のカードを作り、毎日PCに掲げています。最初に帰る時間を決めると優先順位をつけられ、ダラダラ残業することがなくなるんです。でもこれって、多くの女性たちがもうやっていることですよね。毎日同じ時間に迎えに行っているママは多分生産性がとても高い。
そしてもうひとつは、パパのお迎え当番を固定化する。できれば週2、3回。難しいなら「水曜日」の週1回。週の真ん中に定時で帰ることができれば、残業だらけのパパの体や精神を救うことになると言っても過言ではない。水曜の定時退社は働きすぎを防ぎ、疲労を回復させ、労災保険の役目を果たします。もちろん子どもの世話はパパにとってもママにとってもラクではありませんが、ご飯もテイクアウトでもなんでもいい。子どもと一緒に早く寝たらいい。男性が自分だけのアウトプットを最大化するという発想から脱却し、妻の就労を持続可能なものにすることで、夫の残業代より多い金額を妻が稼ぎ、世帯年収が上がります。とっとと家に帰って家事育児をした方が、夫婦二人のアウトプットが最大化されよほど儲かるんです。家族の時間も生まれ、いいことしかないですよね。
ちなみに女性の時短勤務はワンオペ育児を呼び込みます。男性に家事をしない理由(いいわけ)、早く退社しない理由(いいわけ)を提供する可能性もあるからです。時短勤務という働き方そのものを全否定はしませんが、もし対等なキャリア形成を考えているのであれば、夫婦で充分に相談して判断してください。
瀬地山 角さん
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て2009年より現職。専門はジェンダー論。10年間2人の子どもの保育園の送迎を一手に担い、毎日の夕食作りも担当していた。子連れで渡米し、父子家庭も経験した。主な著書に『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社)など。子ども23歳、19歳、フルタイム勤務。
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取材・文/有馬美穂 編集/中台麻理恵
*VERY2024年9月号「働くママの心の叫び「残業できる夫ずるい」」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。