「1杯1000円のコーヒーはもう飲めない…」アラフォーママになった元港区女子が六本木で感じる憂鬱

「港区女子」。それは何かと世間の好奇心を煽る存在。

彼女たちは一体どんな女性なのか? そんな議論が度々上がるけれど、港区で暗躍する素人美女、パパ活女子、あるいはラウンジ嬢など……「港区女子」の意味合いや捉え方は人それぞれ。

そして謎に包まれた彼女たちにも時間は平等、歳をとる。港区女子たちは、一体どんな着地をしているのだろうか。現在アラフォーとなっていると思しき元港区女子たちの過去と現在に迫る。

※この物語は実際の出来事を元にしたフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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【由利の現在】コーヒーの値段を気にするなんて

3歳の娘を保育園に送り届けると、すでに1日分の疲れが溜まっていた。

一体、イヤイヤ期はいつ終わるのだろう。朝6時前には目覚めた娘の不機嫌に振り回され、身体のあちこちが痛い。

とにかく1人でゆっくりコーヒーが飲みたい。私はママチャリを走らせ、自宅のある広尾から少し離れた六本木へと向かう。

今日は秋晴れが心地いい。グランドハイアットのフィオレンティーナのテラス席にでも座れたら優雅な朝になるに違いないが、あそこは今、コーヒーを飲むだけで1000円以上する。昔はまるでファミレスのように通っていたのに、コーヒーの値段くらいをちまちま気にするようになった自分が悲しい。グランドハイアットを通り過ぎ、私はけやき坂を下ったスターバックスに入ることにした。

朝から混雑する店内でなんとか席を確保し、カフェラテを片手になんとか一息つく。決して悪い人生ではない。でも、この慢性的な疲れと焦燥感はどうすればいいのだろう。

愛人として歳をとる恐怖

東堂さんとは、結局2年と持たずに別れることになった。

まだ長い人生を愛人として生きるなんてまっぴら、広い豪邸で1人ぼっちで歳をとり、おばさんになっていくなんて恐怖でしかない。いくらお金があっても、全然幸せじゃない。そんな危機感に駆られていたとき、久しぶりに引き受けたネットテレビの司会の仕事場で出会ったのが優希くんだった。

綺麗な顔に澄んだ瞳。芸能事務所に所属し、有名アーティストのバックダンサーや俳優業をしている優希くんは同い年で、すぐに仲良くなった。東堂さんとの贅沢暮らしに辟易していたせいか、収録の帰り道に寄ったマクドナルドでつまんだフライドポテトがあまりにおいしくて、つい涙が出るほど感動したのはよく覚えている。

莫大なお金を使わずとも、楽しい、おいしい、幸せと感じられる。すっかり愛に飢えて卑屈になっていた私は、少年の心を持ったまま大人になったような優希くんと、まるで高校生のような恋に落ちたのだ。

実は彼が老舗食品メーカーの御曹司で、某有名私立の小学校から大学までエスカレーター育ちという生粋のお坊っちゃまだということは後から知ったが、間違いなく運命の出会いだと思った。

優希くんは私にまっすぐな愛情を注いでくれ、お互いに結婚するならもう他の人はありえないと何度も語り合った。

彼に対して誠実でありたかったから、東堂さんのことも正直に話した。きっぱり別れると伝えると、優希くんは辛抱強く私の話を聞いたあとで、「次は僕が一生由利ちゃんを守るから大丈夫」と、優しく抱きしめてくれたのだ。

愛人関係解消の手切金は…

「まさかフラれるなんて、人生初だよ」

覚悟を決めて別れを切り出した東堂さんは悲しげに笑った。最後のほう、2人の関係はもう冷めていて、会う頻度も減っていた。

東堂さんの遊び相手になる女の子はいくらでもいるし、彼も女の子を縛るようなことはしない。だから他の愛人たちはわざわざ彼を切らないし、切るメリットもない。ゆるく愛人を続け、住居と月々のお小遣いを確保してうまくやっているようだ。でも私は、優希くんと一緒に真っ当に生きると決めたのだ。

「寂しいけど、そういうことなら由利の人生のために俺は身を引くよ。やっぱり由利は最高の女だね。幸せになりな」

名残り惜しそうな顔でそう言い、何度も私の頬や髪を何度も撫でる東堂さんを見て、内心スカッとした。結局妻と別れず女遊びをやめなかった彼は、まともで賢い最愛の女である私を失うのだ。

そして私は、財力を振りかざすだけのおじさんではなく、若くてかっこいい、しかも出自もしっかりした優希くんの真実の愛を選ぶ。なんて素敵な結末だろう。

きっと東堂さんは悔しかったのだと思う。普通、愛人関係を解消する場合はある程度の手切金があってもいいはずだったが、彼は早々に翌月末にマンションの解約手続きをすると、「プレゼントしたジュエリーとバッグは持ってていいからね」と言い残し、私が愛用していたブランドの家具もベンツの2シーターもあっさりどこかへ移動させた。

でも、そんなことはどうでもよかった。私は愛に生きる。愛さえあれば幸せなれる。

そう信じていたのだ。

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取材/山本理沙 イラスト/黒猫まな子

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