【続2】「ブランドバッグひとつ買えない、港区の底辺…」主婦になった元港区女子と愛人シングルマザー、どっちが幸せ?

「港区女子」。それは何かと世間の好奇心を煽る存在。

彼女たちは一体どんな女性なのか? そんな議論が度々上がるけれど、港区で暗躍する素人美女、パパ活女子、あるいはラウンジ嬢など……「港区女子」の意味合いや捉え方は人それぞれ。

そして謎に包まれた彼女たちにも時間は平等、歳をとる。港区女子たちは、一体どんな着地をしているのだろうか。現在アラフォーとなっていると思しき元港区女子たちの過去と現在に迫る。

※この物語は実際の出来事を元にしたフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

▼前編はこちらから
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▼由利の20代はこちらから
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貢がれたブランド物を売って…

「お金なんて……由利がうまく稼げばいいじゃん! もともと優秀なんだから」

ママになっても相変わらず綺麗で何事にも楽観的な朝美が明るく言う。しかし簡単に言うが、子持ちのフリーアナウンサーの肩身は狭い。まだ3歳の娘の優衣ちゃんは体調を崩しやすく、現場仕事は一苦労なのだ。

「そうだ。ママインスタグラマーとかやらないの? あんな素敵なヴィンテージマンションに、超映える俳優の夫と娘がいて……フォロワーも1万人以上いるんでしょ? 最近のインスタグラマーって、うまくいくとアフィリエイトで月に何百万ももらえるらしいよ。その辺の整形美人より、由利のほうが断然かわいいし影響力あると思うけどなあ」

「でも……別にインスタにあげるネタもないよ」

そう言ったものの、内心朝美の言う通りだと思った。

加工で盛ったインスタグラマーよりも、私のほうが断然顔もセンスもいい。優希くんは年齢を感じさせない爽やかさを保っているし、優衣ちゃんは天使のように可愛い顔をしている。

たしかに一時期は、家族写真や昔東堂さんにもらったジュエリーやバッグをさり気なく載せたりしてフォロワーを伸ばした。でも、年々可愛くなる娘の顔を全世界に晒し続けるのも怖いし、引きになるブランド物の大半は港区ママたちとの旅費と交際費に困り以前売ってしまったから、載せるものが尽きてしまったのだ。

一方で朝美は、昔の人脈でゆるく仕事を再開したらしい。彼女は経済的理由で働いているわけではないし「ちょっとしたお小遣い程度」なんて言うものの、仕事を始めてから生き生きとしていて、また一段と綺麗になった。今日も「初ボーナスが出たから奢る」と、私ともう1人の昔ながらの友人の茜をランチに誘ってくれたのだ。

気持ちは嬉しく思うが、私は自分との格差に自己嫌悪も覚えてしまう。

愛人ではなく、「選択的シングルマザー」

「インスタグラマーといえば……この『アキグラム』って東堂さんの今の愛人でしょ? すごいよね」

多少は身構えていたものの、茜の言葉に胸が焦げつくように痛んだ。

「綺麗にいえば『選択的シングルマザー』ってやつ? たくましい女もいるよねえ」

『アキグラム』の投稿は毎日のように見ているから知っている。けれど、私はなるべく無関心を装って茜のスマホを覗いた。プロフィールには”single mom/会社経営”と堂々と表示されている。

どことなく私と顔が似た彼女は、噂によると私と同じように東堂さんの愛人になり、あっという間に妊娠したそうだ。結婚もせず、東堂さんは子どもの認知もしていないらしいが、彼女はそんな体裁は気にしていないという。

しかし東堂さんは突然授かった男の子を、我が子というよりむしろ孫のようにとにかく可愛がった。そして、その母親であるアキグラムにはお金を惜しまない。代官山の高級マンションに、住み込みのシッター。子供は老舗インターナショナルスクールに通い、本人はエステサロンを経営している。令和を代表するような自立したシングルマザーを崇めるフォロワーは20万人を超えるが、すべては東堂さんの力をうまく利用した結果だ。

愛人ではなく、選択的シングルマザー。「ものは言いよう」とはこのことだ。

そして彼女のインスタを見るたび、私の中のもう1人の自分が囁く。

ーーなんで私はこうならなかったの?

と。

「一生愛人なんて地獄だ」と、あの頃は自分を惨めな女だと思っていた。けれど、港区の底辺でブランドバッグ一つ買えず、コーヒーの値段すら気にする今の自分は惨めではないのか?

お金より愛を選んだ私の選択は、本当に胸を張って「幸せ」と言えるのだろうか?

隣の芝生が、少し青いだけ?

「でもさ、愛人を貫くなんて普通のメンタルじゃできないよね。きっと育ちにちょっと問題がある子なんじゃない? ほら、こういう子って家庭環境に問題があったり、昔貧乏だったりするらしいじゃん。

下手に恵まれて育っちゃうと、こうなるのは難しいよね」

朝美の言葉に、私は正気に戻る。

「こんなに気合い入れて派手に決めなくても、一応夫がいて、まったり暮らしてるくらいが私たちには合ってるし楽じゃない?」

平然と意地悪を含んだ声が、まるで天使の救いのように聞こえた。そうだ。私は愛人に向く女ではない。隣の芝生が少しばかり青く見えるだけ。

「それよりさ、今度子どもたちとディズニーランドのバケーションパッケージに行こうと思って予約したの。2人も一緒にどう? まだ空きがあってね……」

しかし次の瞬間、私はまた視界が暗くなるような気がした。

バケーションパッケージとは、1人10万円近くかかるディズニーの宿泊プランだ。その分色々と特典がつくため非常に人気だが、結局のところ、朝美も余裕のある港区妻なのだ。

「えー! それ、ずっと気になってたの! 行く! あとで予約するね」

茜がすかさず答える。彼女も昔から私たちと同じようにつるんでいる美しい女だが、美貌を武器にはせず新卒で大手出版社に就職した。子どもを産んでもバリバリ仕事を続け、堅実なワーママとなっている。年下の夫は会社の同僚ということで朝美ほどセレブではないが、共働きで自分の稼ぎがあるのはやはり強い。

昔は「どうしてそこまで必死に働くんだろう」なんて思ったものだが、キャリアを積み、子育て以外にも生き甲斐がある彼女を今はうらやましく思う。

さよなら、全盛期の私

「いいね! ディズニー、私も行きたい」

しかし私は笑顔で答えた。

私の全盛期に、東堂さんから贈られたあのルビーの指輪。もうあれを売ってしまおうと思った。

以前一度質屋に持って行ったところ、「これは稀に見る素晴らしいルビーですが、本当に手放していいんですか?」と言われたことがある。他のブランド物は事務的に処理をする物静かな鑑定士だっただけに、その一言にやたらと重みが感じられ、予想外の値がつけられたにもかかわらず売るのをやめたのだ。

でも、あんな大きなルビーの指輪をつける機会は今の私には皆無だ。

たまに1人こっそり指にはめ、湯水のようにお金を使い贅沢に暮らしていた頃の自分を思い出しているのは誰にも内緒だが、それ以外はもう何年もジュエリーボックスの中で眠っているだけ。

あれを売れば、優衣ちゃんと楽しくディズニーを満喫できるだけでなく、もしかしたらお受験だって挑戦できるかもしれない。少なくとも、しばらくは金欠に悩まされずに済む。

ーーあーあ、もったいない。

再びもう1人の自分の声が囁くのを、私は必死に聞こえないふりをした。

▼次回、仲良しグループ「茜」の港区生活に迫ります

取材/山本理沙 イラスト/黒猫まな子

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